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少年兵は夢を見ない  作者: 盲目の天使
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少年兵

大幅に加筆修正する場合があります。ご了承ください。

小説のご感想お待ちしております!


「アル、アルノーザ。ご本を読んでちょうだい」

「はい、姫様」

ライザ姫に絵本を読み聞かせてあげることは鬱屈した日々を送るアル少年にとって唯一心が休まる時間だった。


アルノーザ・デリヒは少年兵であった。

隊のなかで一番歳下ということもあり、歳上の先輩からはいじめられ、上官には理不尽な暴力を振るわれていた。

辛く過酷な毎日だった。

どれだけきつく、辛いことであっても、アルは理不尽に自分に降りかかる運命を、その小さく、華奢な体で必死に受け止めていた。否、受け止めるしかなかった。

齢13歳の彼は孤児だった。

帰る場所も金もない彼は少年兵になるしか道がなかったのだ。生まれた時点で神様なんて偶像はいないということを、アルは身をもって知っている。


神に見放された何もない自分が誰かの、この国の役に立つならそれも本望だろう。


アルは前向きに考えることで、日々すり減っていく精神を支えていた。



「アル。貴様は確か齢13だったな。女王のご息女が実は目を患っていてな、日々悪化していく症状に心を病んでしまっているそうなんだ。そこで歳が近い者と交流をはかり、良い友人関係を築かせてやってほしいと言われたのだ。その役目を貴様に与える。くれぐれも失礼のないようにな。下手すれば戦よりも先に首が飛ぶかもしれんからな」


唐突に言い渡された上官からの任務は、アルを困惑させるのには十分だった。


何故僕が?身分が高いお姫様とただの孤児の少年兵である僕なんかがそもそも口を効いてもいいものなのか?



色々と思うところはあったが、上官から言い渡された任務である以上、遂行するしか選択肢がない。そもそも拒否権を持っている立場でもないためアルはいつも通りに受け入れた。

受け入れることは慣れている。人生も、任務も。


アルは教えてもらった場所へと赴き、今夜、訓練が終わった後で姫と顔合わせをすることになった。



最初に会ったら何を話そう。姫様は何の話題だったら喜んでくれるだろうか。そもそも本当に孤児で少年兵の僕なんかが身分あるお姫様と口を利いていいものなのか?!


アルは今にも緊張と不安で飛び出しそうな心臓が出てしまわないよう、両手で胸を押さえこんだ。ぐるぐると、考えていても仕方のない不安で頭が埋め尽くされる。アルは不安を、タメ息にして口から吐き出した。

盛大なタメ息は不安の大きさに比例していた。


「え?」


 アルは思わず声が出た。

 上官から手渡された地図通りの場所に向かえばそこは城の中ではなかった。

城より少し離れた、寂しい場所に佇む塔だった。てっきり身分ある姫だからお城のなかにいるものだと思っていた。

月明かりに照らされた塔は、手入れというものはされていなく、石造りの塔にはコケや雑草が生い茂り、とても身分ある姫が住んでいるというには信じられないくらい劣悪な環境だった。

寂しい場所に独りぼっち。それはまるで幽閉だった。

アルは階段を一段ずつ昇っていく。

一歩一歩重く、歩みを進める。


きっと目が見えなくなった姫はこの国にとって用済みになったんだ。

だから厄介払いに塔に幽閉したんだ。


アルの心を反映し、足取りはさらに重くなっていく。

厳重に鍵がかけられた塔の扉を前にし、アルは足元がすくんだ。まるでその扉はこれからおこる試練の大きさの予兆のように感じた。

上官から手渡されていた鍵をポケットから取り出し、鍵穴に通して、ゆっくりと右に傾けた。

ガチャリ、と大きな音が石造りの塔に響き渡る。

運命が変わる、まるでそんな音がした。

恐る恐る開けた扉の先には、髪に金の粒子を纏い、目元には幾重にも包帯を巻いた少女が窓辺に座っていた。

その少女は音に反応したのだろう、アルのいる方に首を傾けた。


「誰かいるの?」


アルはあまりにも絵になるその光景に、一瞬唾を飲み込むのを忘れていた。

月と星が照らすその少女は、夜風が柔らかく髪を靡かせるその少女は、あまりにも儚げで、美しく、どうしようもない程に可哀想だった。


「誰?」


アルは二度目にかけられた鈴のような声に、やっと反応することができた。


「あ、あ、わ、私はアルノーザ・デリヒとも、申しまひ…っ!!」


あまりの緊張にアルは盛大に舌を噛んだ。

美しさに見蕩れ、とっさに反応ができなかった。

なにより、厄介者扱いされているとはいえ、自分よりも身分が高い姫の前でこのような失態を犯すなんて!

下手したら打首…!!!!


「あ、あぁあぁああの、す、すみません!!!!」


上官から脅されるように警告された言葉をアルは思いだし、必死に無礼を詫びた。



「ふっ、あは、あははは!!」


「え、え?あの、ライザお姫様?」


「あなたって面白いのねぇ」


ライザは必死な形相で謝り倒すアルがおかしくてたまらなかったのか、腹を抱えて、姫としてあるまじき盛大な笑い方をした。

 少女の可憐な笑い声は寂しい塔に響き渡る。


「あはははは!!!!!!はーっ、おかしい!!…ふふ、私はライザ。ライザ・ミール・ブルックリン。そんなに必死になって謝らなくても大丈夫なのに。あー、おかしい。あなたが今日ここに来ることはお母様から聞いているわ」


「そ、そうでしたか」


自分の失態を盛大に笑われて顔に熱が集中するのがわかった。

まさかこんなに笑われるなんて。

アルはこほんと、わざとらしく咳払いを一つして、その場を仕切り直した。


「挨拶が夜になってしまい大変申し訳ございません。少年兵の身でありますので、ライザお姫様のお話相手になれる時間はだいたい夜か、私の休みの日にしかできなくて…。重ねて訓練終わりの隊服でいることをお許しくださいませ」


 アルは訓練後の隊服でアルザの前にいることが少し恥ずかしかった。

 汗臭くはないだろうか。


「全然いいのよ。むしろなんだかごめんなさいね。訓練で疲れているだろうに。お医者様も大袈裟なのよ、話相手なんていなくとも私は大丈夫なのに」


ライザはぷくっと頬を膨らませると、なんてね、と言って微笑んだ。


「本当は少し不安だったの。ねぇ、まだ扉の前にいるでしょ?声が少し遠いからこっちに来てよ」


ライザはちょいちょいとアルがいるだろう方向に向けて手招きする。

アルは想像していた人物とかけはなれているライザを目の前にどうしていいかわからなかった。

ライザの隣に腰かける。

開け放たれた窓から入る夜風はとても心地がいい。


ライザはまだ自分が塔に幽閉されていることも厄介者扱いされていることも気づいていないのだろうか。


アルは隣でにこにこと笑う少女を尻目になんて言葉をかけていいのかわからなかった。


「ねぇアル。私ね、歌が得意なの。良かったら聴いてくれる?」


「え、あ、はい!!」


突然のライザの言葉に、沈みかけていた意識が浮上した。

ライザは唐突にその場から立ちあがると、お腹に手を当て、歌い出した。

その歌声は、純真たる純然たる、どこまでも透き通った綺麗な音だった。

何かを訴えかけるような、それでいて慈しむような、優しい歌声だった。

夜風に靡く、粒子を纏った髪は幻想的な美しさだった。

天使だと思った。

盲目の天使。


アルは瞬きすらできなかった。ひょっとしたら息も出来ていなかったかもしれない。

ライザは歌い終えると、「これで自己紹介になったかしら?」と照れながら笑った。







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