27・モフモフわんことゴーストの進化
【下級モンスター『ゴースト』を中級モンスター『レイス』に進化させますか?】
ヒマワリのレベルアップバーをタップすると、そんな質問をされた。
進化させない、という選択肢もあるらしい。
進化する場合は百体のゴーストすべてが進化する。
ううう……中級モンスターの消費DPって10000DPで、今のゴーストの消費DPの十倍なんだよね。
今ならそれくらい減っても大丈夫だけど、なにが起こるかわからないのが世の中だからなあ。
「マスター、ゴースト達を進化させるのか?」
「うーん、どうしようか」
「冬までには上級モンスターのスペクターに進化させたほうがいいのだ。スペクターなら『騒霊』で空気を揺らして護衛対象を温めることができるからな。それとも魔法属性を増やして、別種のモンスターに進化させるか?」
「そんなこともできるの?」
「あ、でも吾と同じ大地属性を増やすと、混合属性の植物属性になってしまうな。『隠密』が使えなくなるぞ」
それは困る。
ダンジョン外にモンスターを出せることは秘密にしたい。
これまで『隠密』で見えなかったゴースト達が植物モンスターになって、いきなりこの町のあちこちで目撃されては一大事だ。
ほかにもいろいろな可能性があるようだが、結局のところ考えていても模範解答なんて見つかりっこない。
残念ながらわたしは、この世界にひとりのダンジョンマスター。
心臓がダンジョンコアと融合しているという点で言えば、異世界のダンジョンマスター達を足してもたったひとりしかいない。
【下級モンスター『ゴースト』を中級モンスター『レイス』に進化させますか?】
【YES/NO】
わたしは『YES』をタップした。
闇属性のヒマワリが光り輝く。レベルアップの輝きかな。
そして──
【ヒマワリ/0歳/無性/レイス/五霊姫】
【HP:50(×1.2)】
【MP:50(×1.2)】
【状態:健康】
【攻撃:E(×1.2)】
【防御:E(×1.2)】
【魔法攻撃:E(×1.2)】
【魔法防御:E(×1.2)】
【集中:E(×1.2)】
【敏捷:E(×1.2)】
【魅力:E(×1.2)】
【精神:E(×1.2)】
【光属性:*】
【闇属性:E(×1.2)】
【炎属性:*】
【大地属性:*】
【風属性:*】
【水属性:*】
【魔法スキル:隠密・弱体化・HP吸収・催眠←NEW!】
【特殊スキル:壁抜け(許されたフロアのみ)・呪い(病気・中)・五霊姫の加護】
わーい。MP以外全部抜かれちゃったよー。
新魔法スキルは『HP吸収』と『催眠』、特殊スキルは増えてないけど『呪い』の効果が病気になってる?
発動確率は(中)で高くなってるものの、即死じゃないだけで一安心だ。
でも中級でもパラメータEなのか。
AとSが入り混じってるタロ君は本当に強いボスモンスターなんだ。
同じ中級モンスターでも種族によってパラメータランクが違ったりするのかな?
「あれ?」
消費DPを確認して、おかしなことに気づく。
「一日の消費DPが10000DPじゃなくて5000DPになってる?」
説明書を見てみるが、そんな事例はない。
バグ? ゲームでもないのにバグってるんだろうか。
表示では少なくなっているけれど、実際は多く消費されてたら怖い。
「マスター」
「タロ君」
「説明書の表記は異世界での事例を基にしたものなのだ。この世界のことはダンジョンマザーツリーも手探りでしかない。変異種が出現するペースもスライムの実も異世界とは大きく異なっている」
「……うちのダンジョンは特殊なんだね」
「ん!」
タロ君、なぜそこでドヤ顔?
「さすが吾のマスターなのだ!」
「そ、そう?」
まあタロ君が喜んでくれるならいいけど。
異世界を元にした説明書は参考程度に留めて、自力でトライ&エラーを繰り返して行けってことだね。……わたし、理系じゃないのになあ。
とはいえ、なにしたところでDPが0になったら死んじゃうんだから、今後もダンジョン運営頑張るしかないんだよね。
「ヒマワリ、お疲れ様。これまでレベルアップバーを確認しないでごめんね」
「……オォォぃぇオオ……」
レイスになったヒマワリは、なんだかちょっと意味のある単語を発声するようになった。
今のは『いいえ』と言ったんだと思う。
「それじゃ葉山家に戻る?」
「……オォぁぃぃォオオ……」
これは『はい』だね。
ヒマワリは見た目も変わった。
単なる黒い影から、角度によっては人の顔のような陰影が見える影に。スペクターになったら、もっと人間に近づくのかな。
夜中にわたしが目覚めたときは『隠密』を発動して認識を阻害して欲しい、そう願わずにはいられなかった。