※ダンジョンわんこ日記 三十五日目<前編>
真朝が来た。
マスターは真朝のためにカレーを作ったのだ。吾が生まれるよりずっと前、マスターと真朝と玲奈でよく食べていたのだという。
美味しそうだぞ。吾も食べたいな!
カレーはすごく良い匂いがするのだ。
マスターが流しに向かってドタバタしてたので、吾は後ろで待っていた。
途中で寝ちゃってマスターに踏まれかけたぞ。もー! マスターはちゃんと後ろを確認して欲しいのだ。カレーを作りながら考えごとしてたから、注意が散漫だったぞ。
真朝は足を怪我していた。
吾の『大地の祝福』ならすぐに治せるのにな(チラッ)。
マスターの友達が辛かったり苦しかったりするのは嫌なのだ。でもマスターには考えがあるみたいなので、今はただ寄り添うだけにしておくぞ。今日は接待じゃなくて、マスターの友達に対する優しさなのだ。
ゴーストのフヨウが気に入っていた映画を観て、真朝は泣いていた。
恋愛映画だ。吾はあんまり興味がない。
やっぱりオルトロス星人が出てくるようなヒーロー映画がいいな。春人達とドライブインシアターに行けなくて残念だぞ。
ボタンがホラー映画を好きなのはゴーストの仲間が出てくるからかな?
吾はうちのゴーストは好きだけど、ホラー映画に出てくるゴーストはあんまり好きじゃないのだ。……べ、べつに怖いからではないのだぞ!
それはそうと、真朝が泣いたのは良いことだったと思う。
涙は心の汗だからな。ヒーローのレッドが言っていたのだ。
コーチという人間が来て、真朝は帰って行った。
コーチは真朝を好きな匂いがしたけれど、マスターには興味がなさそうなので、吾もコーチには興味がない。
コーチも昔怪我をしたようで、古傷の匂いがしていたのは嗅ぎ取ったけど。
真朝が帰ってから、吾は残ったカレーを味見させてもらった。
想像通り美味しいのだ!
味見だけだとマスターは言うが、吾は犬ではなくて犬型モンスターだから玉ネギも刺激物も大丈夫なのにー。マスターが残り全部食べるのか?
玲奈も一緒に来ていたら残らなかった、とマスターが呟いていた。
マスターより細いのに、玲奈はそんなに食べるのか? どこに入るのだ。
もしかしたら吾と同じボスモンスターなのかもしれないぞ。ダンジョンモンスターに必要なのは魔力なので、食事は少なく済ませることも体以上の量を食べることもできるのだ。
……だからカレーいっぱい食べても大丈夫なんだぞ?