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16・モフモフわんこ、カレーを味見する。

「あーっ!」


 恋愛映画が終わりを告げて、真朝ちゃんが雄叫びを上げる。


「もうこんな時間じゃん」


 ノートパソコンの時刻表示を見たらしい。


「すぐにコーチが迎えに来ちゃうよ。せっかく遊びに来たのに、全然晴としゃべれなかった」

「わたしは映画観ながらおしゃべりできると思ってたんだけどね」


 意地っ張りの真朝ちゃんに涙を流させるための恋愛映画だったのだが、思いのほか趣味に合ったようで、スタッフロールが流れ始めるまで彼女は無言でのめり込んでいた。

 たっぷり泣いてくれていたので、それはそれで良かったけど。

 真朝ちゃんは照れくさそうに言う。


「いや、いい映画だったから夢中になっちゃって。このネットチャンネル僕も契約してるから、ホテルに帰ってからスマホで見直そうかな」


 まだ観るのか……。

 恋愛映画に興味がないせいもあるだろうけど、わたしはそんなに面白いとは思えなかった。ヒロインとヒーローがずっと泣き叫んでるんだもん。

 というか、誤解して走り出す前にきちんと会話しておけば、映画の中のほとんどの悲劇は防げたんじゃないかと思う。恋愛って難しいね。


「今日は隣町の大きなホテルに泊まって、明日検診にいくんだっけ? パンケーキが美味しいって有名なところだよね」

「そう。玲奈の伯父さんの病院に一番近いホテルなんだ。なんとか予約が取れて良かったよ」

「旅行シーズンだもんね」

「それもあるけどさ」

「わふ?」


 うちのダンジョンでポーションがドロップした、さらに上位のポーションまで見つかっているらしいという話は、日本政府が公表していないにもかかわらず世界中に広がっているそうだ。


「それでね、ポーションをドロップしたダンジョンのある土地ならなにかご利益があるんじゃないかって、隣町のホテルに世界中から救いを求める人達が集まってるんだよね」

「なんで隣町……」

「わふう……」

「この町は住宅地だし、数軒あるビジネスホテルはどこも満室なんだって。それと玲奈情報だから眉唾なんだけど、過疎化してダンジョンができた島とこの町のダンジョンを直線で結ぶと、ちょうど中間地点にあのホテルがあるんだってさ」

「島……」

「そう。あの島のダンジョンもちょっと特殊らしいよ?」


 玲奈ちゃん、本気で伯父さんのクルーザーで乗り込むつもりじゃないよね?

 うちのゴーストが(フェリー)の甲板で写真に撮られたからって、あのダンジョンからモンスターが逃げ出してるだなんて、だれも思ってないよね?

 真朝ちゃんの怪我に玲奈ちゃんの奇行、『言語理解』の使い分けとソフィアさんにタロ君が動画の(わんこ)だと気づかれてるんじゃないか疑惑、そしてアーサーさんのタイムリミット……ちょっと問題が多過ぎるよ。


「えっと、クッキーどうだった? もらい物なんだけど」

「うん、美味しかったよ。大通りのケーキ屋さんのだよね。帰りに買っていこうかな」


 考えても仕方がないので、わたしは話題を変えた。

 普段はアスリートとして甘いものは節制している真朝ちゃんだが、今は療養中ということもあって少しだけなら許してもらっているようだ。

 元々真朝ちゃんはスイーツ好きで、コーチに見出されて本格的に陸上に向き合うまでは三度のごはん代わりにお菓子食べてたこともあるんだよね。


「ほどほどにね」

「わかってるって。……希望は捨ててないよ」

「わふう」


 やがてコーチが迎えに来て、真朝ちゃんは去って行った。

 来たときよりも明るい表情になっていた、んだったらいいな。

 フヨウを護衛として付き添わせたことは言うまでもない。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 プラスチックのお皿に、ほんのちょっぴりだけカレーとごはんを盛る。


「タロ君どうぞ」

「いただくのだー」


 カレーをはむはむして、タロ君はたちまち笑顔になる。


「美味しいのだ!」

「味見だから、このお皿の分だけで終わりだよ」

「吾は犬ではなく犬型モンスターだから大丈夫なのにー」


 それでもやっぱり不安になるのだ。

 カレーは美味しいけど刺激が強いしね。


「でもマスター、残りは全部マスターが食べるのか?」

「うっ……」


 実は、カレーは大量に完成していた。

 学生時代の女子会では玲奈ちゃんの分も合わせて三人分作っていたのだが、そのときのくせが出てしまったのである。玲奈ちゃんは細身な割に食欲旺盛なのだ。

 それと、真朝ちゃんとなにを話そうか、どうすれば元気づけられるか、なんて悩んでいたせいで、材料の野菜を切り過ぎてしまったせいもあった。


「どうしようかねえ……」


 期待に満ちた目を向けてくるタロ君から顔を逸らし、わたしは台所の鍋を見た。


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