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14・モフモフわんこは呪いを解かない。

 電話の主は玲奈ちゃんだった。


『晴、明日ヒマ?』

「うん。明日というか、ずっとヒマだよ」


 忙しいダンジョン運営については、だれにも話せない。

 もしかして玲奈ちゃん、(アパート)に泊まりに来る気かな。

 泊めるのはいいんだけど、玲奈ちゃんがいる間のダンジョン運営はどうしよう。


『良かった。明日のお昼ごろに真朝が行くから』

「ちょっと待って!」

『あら、本当は忙しいの?』

「そうじゃなくて、なんで真朝ちゃんのこと玲奈ちゃんが言うの?」


 真朝ちゃん、八雲真朝ちゃんは、わたしと玲奈ちゃん共通の友人だ。

 帰省していたとき玲奈ちゃんと彼女のことを話そうとしては、そのたびダンジョンの話題に捻じ曲げられてきた。

 個人的にメールの交換はしてたんだけど──


『本人は私にも話す気はなかったと思うわよ。あの子、弱ってるときほど甘えるのを拒むところがあるから。でもほら、私の伯父様が、ね』


 玲奈ちゃんの伯父さんは、世界的に有名な整形外科医だ。

 地元にある玲奈ちゃんの家の病院ではなく、この町の隣、港のある大きな町の病院に勤務している。玲奈ちゃんのお父さんのお姉さんの夫なので、玲奈ちゃんと直接的な血のつながりはない。

 その人の名前が出て来たということは、


「真朝ちゃん、やっぱり怪我してたんだ」

『気づいてたの?』

「気づいてたというか、メールに練習のことが出てこなくなってたから心配で。強化選手だから内容が秘密なのかとも思ったんだけど、玲奈ちゃんの言う通り真朝ちゃんは自分が大変なときは隠そうとする子だし」


 インドア派ヌルゲーマーのわたしと違い、真朝ちゃんは陸上をやっているアスリートだ。

 高校時代の大会で今のコーチに見初められて、卒業後はオリンピックに向けての強化選手枠に抜擢された。

 合宿や大会で忙しいのはわかってたから、会えずにメールだけなこと自体は不思議でもなんでもなかったのだが。


「玲奈ちゃんの伯父さんが出てくるってことは骨折だよね」

『当たり。通常の骨折に加えて、酷使し過ぎで骨自体が弱ってたみたい。例のコーチは栄養管理も考えてくれてたみたいなんだけど、あの子偏食だったし、期待されると必要以上に頑張っちゃう子だからねえ』


 真朝ちゃんがゴーストの護衛対象外だったのは、彼女の才能に惚れ込んでいるコーチや支援団体がちゃんと守ってくれると信じていたからだ。

 夏はずっと強化合宿だって言ってたから、会える機会もないと思ったし。

 ゴースト達をわたしのところへ召喚することは可能だけど、任意の場所に飛ばすようなことはできない。


「治る怪我なんだよね?」

『……やっと松葉杖で歩けるようになったから、伯父様のところへ行くついでに晴のところへも寄るって言ってたわ。今度のオリンピックに間に合わないのは当然なんだけど、その後もどうなるかはわからないみたいね』

「そんな……」


 わたしは、ボス部屋の入り口を大きな体のお尻で塞いで、アクビをしているタロ君を見た。

 もちろんアーサーさんは結界を破れていない。

 入り口を塞いでいるのはソフィアさんの視線がウザかったからだと思われる。


(タロ君はダンジョンの外でも魔法スキル使えるよね?)

(使えるのだ)


 わたしから離れているゴースト達が『隠密』や『弱体化』を使えるのだから、聞くまでもないことだ。

 ダンジョンを出たモンスター達は自分達自身がダンジョン域を作り出す。

 だけど確認せずにはいられなかった。


 真朝ちゃんの骨折がどれくらいかはわからないが、タロ君の『大地の祝福』なら治せるに違いない。

 治せたとして……その後はどうしよう?

 わたしがダンジョンマスターだということは秘密にしたいし、仮にそれを明かしたとして、モンスターの魔法スキルで怪我を治した人間がオリンピックに出場できるものなのか。なんかドーピング的な扱いにされそうな気がする。


 そうじゃなくても、アフリカ系やアジア系が活躍するとヨーロッパ系がルールを変えるのがスポーツだって玲奈ちゃんが言っていた。

 ダンジョン好きで情報を集めるのが趣味の玲奈ちゃんは世界情勢にも詳しい、というか、いわゆる陰謀論者的なところがある。この前の自衛隊員によるスライム映像の流出(翌日見たら動画は削除されていた)も、日本政府がなんらかの意図によっておこなったものではないかってメールしてきてたっけ。

 とはいえ、ほかの人には使えない魔法スキルで怪我を治したら変な因縁をつけられる可能性があるというのは、陰謀論を持ち出さなくても明白だ。


『ところで晴、この前はマントありがとう。涼しくて着心地がいいわ』

「あ、うん。だったら良かった」

『本当に材料費と手間賃払わなくてもいいの?』

「お隣さんに作った分で十分お金はもらったから」

『ふうん。素材がないって言ってたの、やっぱりウソだったのね』

「ウ、ウソじゃないよ? 玲奈ちゃんや歌音に作るより前に、いつもお世話になってるお隣さんに作ってたから、あのときは素材が少なくなってたってだけ」

『はいはい。そういうことにしておきましょうか。……まったくあなたもあの子も、困ってることがあるんなら、真っ先に私に相談しなさいよね』


 ダンジョン運営のこと、玲奈ちゃんに相談できたらいいと思うよ。

 でもモンスターを外に出せることとか話したら最後、絶対世界征服しようとか言い出すと思うんだよね。わたしを神輿に担いで、本人は嬉々として暗躍するに違いない。

 陰謀論者の玲奈ちゃんは、要するに陰謀が大好きなのだ。


 拗ねる玲奈ちゃんにタロ君を連れていけそうなイベントについて相談した後、わたしは電話を切った。

 明日、真朝ちゃんが来るのか……。


 電話を終えてエントランスを見ると、もうアーサーさん達の姿はなく、いつものようにベテラン自衛隊員と訓練生がリポップしたレッドボアを倒していた。

 とりあえず今日は、アーサーさんの呪いについてのことは先延ばしにしておこう。

 一ヶ月くらいの猶予があれば、その間に出現する変異(レア)種のドロップ品の振りをしてミドルポーション+を放出する機会もあるに違いない。


「タロ君、帰ろうか」

「帰るのだー」


 タロ君は眠たそうな顔で黒い豆柴にモードチェンジする。

 彼を抱っこして帰ったアパートでスマホを確認すると、真朝ちゃんからも来訪を告げるメールが届いていた。


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