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7・モフモフわんことお散歩するよ!

 ダンジョンマスター生活三十三日目。

 今日はタロ君とお散歩です。

 まあボスモンスターと言えども(わんこ)なので、お散歩は毎日欠かさないけどね。


「コンビニまで行ったら引き返そうか」

「わふ」

(帰りに『転移』してダンジョン行こうね)

(行くのだ)


 会話と念話の使い分けも慣れたもの。

 タロ君の揺れる尻尾を見ているだけで楽しいお散歩タイムだ。


「到着ー」

「わふー」


 コンビニに着いてひと休み。

 建物の影に入って、タロ君ともども水を飲む。

 ゴーストのフヨウとボタンが一緒とはいえ、今年は酷暑らしいからね。お水は小まめに取らなくちゃ。


 歌音のお土産予定だったのが、すっかりタロ君のものになった百均おままごとセットのプラスチック製のお皿と、わたしのペットボトルをウエストバッグに入れて帰路に立つ。

 わたしは今日もTシャツとデニムです。


「じゃあ帰るよー」

「わふー」

「すみませーん。ちょとイイですかー?」


 コンビニに背を向けて歩き出したわたし達に声をかけたのは、店舗から出てきた赤毛の白人男性だった。

 背中に大きなリュックを背負っている。

 バックパッカーかな?


 短く刈ったあの髪は赤でいいのかな?

 海外ドラマを観ていると、どう見ても金髪の人が赤毛と説明されたり、逆に赤毛の人が金髪と説明されたりしている。

 たぶん日本人とは色の感覚が違うのだろう。地域による日射条件の違いもあるかもね。


「はい、なんですか?」


 無視して速足になっても良かったんだけど、こちらにはタロ君(ボスモンスター)とフヨウ達ゴーストがいる。

 悪い人じゃなければ話くらいは聞いてもいい。たぶん道案内だろう。

 外国人男性は、わたしの返答を聞いて怪訝そうな顔をした。


「なんだ、英語しゃべれんのかよ。日本人(ジャパニーズ)は英語で話しかけただけで逃げるっつーから、わざわざ日本語で話しかけたのに」


 さっきのフレンドリーな呼びかけから、一転して荒っぽい口調に変わる。

 あ、あああ、これってダンジョンマスターの『言語理解』が自動発動したってこと?

 最初日本語で話しかけてくれたのに、わたしが英語に聞こえる言葉で返答したから、向こうも英語で話し始めたってことだよね?


「あ、はい、少しだけなら話せます」

「謙遜は日本人(ジャパニーズ)の悪徳だぜ。下町育ちの俺なんかより、よっぽど綺麗な発音してる」


 してません。ただの『言語理解』でそう聞こえるだけです。

 一昨日ハル君ふー君とタロ君の動画を覆い尽くすコメントを見たときに、どこの国の言葉かくらいは区別できるようにしようと思ったくせに、なーんにもしてなかったよ。

 今日ダンジョンから帰ったら、この前の(シャドウ)コアでハル君ふー君の帽子作りながらネットチャンネルで字幕付きの海外ドラマでも流そう。


「なにかお困りですか?」


 これ以上言葉の話が続いたら彼が違和感に気づくかもしれないので(なにしろわたしは英語を話してない)、話題の方向を変える。


「おお、そうだ。この近くにダンジョンがあるって聞いたんだが、どこか知ってるか?」

「観光ですか?」


 民間開放はまだ先の話だし、始まっても外国人の入場は規制される。

 でも外から眺めるだけなら問題はないはずだ。

 もしこの人が悪人だとしても、フヨウとボタン、もしくは町に散らばるゴースト達が動きを封じてくれるしね。


 わたしの質問に男性は目を丸くした。

 青く透き通った、宝石のように綺麗な瞳だ。

 タロ君の黄金色の瞳には敵わないけどね。


「あんた、俺のこと知らないのか?」


 確かによく見ると、どこかで見たような顔立ちの気もする。

 かなり大柄で鍛えこまれた体躯の持ち主だ。

 アクション俳優さんかな? 軍人さんぽい雰囲気もある。


 戦い慣れしていそうな相手が至近距離にいても怖いと感じないのは、タロ君が側にいるせいだ。タロ君ならどんな人間でも前足でぺちっだもんね。

 オルトロスとしてのレベルが上がってもボスモンスターとしてのレベルが上がらないのは訪問者(ビジター)と戦ってないからなんだけど、戦ってもステータス差が大き過ぎてレベルアップバーは伸びないんだろうなあ。


 もしかして海外の芸能人……ううん、動画配信者かな。

 海外ドラマや映画は結構見てるが、外国の人の顔の区別って難しいんだよね。

 動画は動物可愛い系しか見ない。もちろんタロ君が一番可愛いけど。


「ごめんなさい」

「いや、謝るようなことじゃねーけど」


 男性は、わたしに覆いかぶさるかのように近づいて、耳元で囁いた。


「……俺は『モンスター』だよ……」


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