2・モフモフわんこと動画を見るよ!
「ふー……」
「面白かったな」
「わふう……」
オルトロス星人の出てくるヒーロードラマの映画が終わり、ハル君ふー君は感動している。
タロ君も二度目の鑑賞を楽しんだようだ。
ノートパソコンを見つめていたふー君が振り返って、後ろに座っていた葉山さん(大人のほう・弟)の膝にいるタロ君を見つめる。
「オルトロスせーじん、カッコよかったね!」
「わふ!」
「俺、二度目なのにオルトロス星人がワルモノかと思ってドキドキした」
「わふふ」
タロ君もハル君と同じだったらしく、照れくさそうに吠えていた。
わたしはスマホで時間を確認する。
ヒーロードラマの映画は三十分だったから、葉山家の仲良しご夫婦が戻って来るにはまだまだ時間があった。
「ほかにもなにか観る?」
「ふー、タロくんのドーガみたい!」
「わふ?」
「ふー君達のお母さんに送った動画?」
「ネットで公開してるヤツだよ」
「同じ動画だよ?」
「コメントがあるほうがいいの」
「そうなんだ」
お隣の犬が世界中で人気なのが楽しいのかもしれない。
わたしは、自分の犬が世界中で人気なのは嬉しいし楽しいです。
「葉山さんもタロ君の動画でいいですか?……あ、ジョギングで帰るなら、もう出ないとダメですかね?」
「いえ、今日は電車で帰ります。卯月さんさえご迷惑でなければ、兄夫婦が戻るまでお邪魔してていいですか?」
「もちろんですよ。じゃあ手を拭いてクッキー食べますか?」
「あ……もう少しタロ君を撫でててもいいですか?」
「いいですよ」
「わふわふ(仕方ないなー)」
葉山さんはタロ君にメロメロだ。
だが仕方ない。
飼い主のわたしはもちろん、世界中がタロ君にメロメロなのだから。
「うわ、またコメント増えてるなー。これじゃ動画が見えないね。コメント消す?」
「えー? このままでみて、けしてからもっぺんみる」
「ハルちゃん、二回観てもいい?」
「うん。ふたりがいいならいいよー」
かく言うわたしも、自分で撮影した動画にもかかわらず、毎日何回も見てる。
たまに出演している本人に怒られるくらい見入ってしまう。
だって可愛いんだもん。うちの犬最高なんだもん!
「わふう!」
ドヤ顔のタロ君を葉山さんが撫でている。
「にいちゃん、これエーゴ?」
「そうだな。英語いっぱいだぞ」
ハル君ふー君、実は英語だけじゃないんだよ。
仏語や独語、それ以外の言語も盛りだくさんなんだよ。
ただ、わたし『言語理解』があるから全部読めちゃって、どれがどこの国の言葉かは分かんないんだけどね。そのうち区別できるよう訓練しようと思ってます。
画面を埋めて流れていくコメントは、ほとんどが好意的なものだ。
毎日見ているという人もひとりやふたりではないし、新しい動画を望む声も多い。
ステータスボードがバグっているだけで、うちの犬の魅力はAではなくSSSなのかもしれない。いや、そうに違いない。そうでないはずがない。
押し入れでわたしを翻弄する小悪魔タロ君の撮影には成功しているのだが、公開は少し悩んでいる。
チャンネル登録者数も動画再生回数も日々増え続けていることが、嬉しくも怖いのだ。
この状態で迂闊な映像を公開したら特定されるかもしれない。
お兄ちゃんは新しい動画を公開したほうがマニアの熱は冷めるんじゃないかと言っていたけど、どうしようかな?
確かに供給が少ないほど熱が上がるってことはある気がする。
とか考えているうちに、タロ君の動画は終わった。元からそんなに長いものではない。
「ハルちゃん、こんどはコメントけしてね」
「OK、ハルちゃんに任せて。……あれ?」
タロ君の動画が終わった後、表示されているお勧め動画のひとつに目が停まる。
「スライム? アキちゃん、これスライムじゃない?」
ハル君も気づいたらしく、その動画を指差して葉山さんに聞いている。
「そうだな。スライムだと思うが、防衛大臣の会見で流された映像にはスライムは映っていなかったはずだ。新しい映像が公開されたのかな?」
「ハルちゃん、俺、スライム見たいー」
「ふーもスライムみるー」
「わふう……?」
タロ君が、心配そうにわたしを見る。
ボスモンスターだから気づいているのだろう。
わたしもダンジョンマスターだからか気づいていた。……このスライム、アジサイだ!
べつになにか特徴があるわけでもないんだけどなあ。
ほかのスライムと同じようにアジサイは丸くてプルプルしてて、光属性だから白くて薄く発光してる。
なんで天井から降りてるんだろ。この背景ってもしかして自衛隊のテントの中かなあ。
「わかった。見てみようか」
嫌な予感を感じつつ、わたしはその動画を再生した。
『どーも。ダンジョンからお送りしてまーす』
……二十代前半くらいの男性だった。服装からして自衛隊員だ。
彼は白いテントの中で椅子に座り、カップラーメンを食べている。
スマホで撮った映像だろう。
それからダンジョンについての、だれでも知っているような説明があった後、彼はスマホを手に取った。
画面が動き、アイコンにいたスライムが映し出される。
眉間に皺を寄せ、ふー君が言う。
「うごかしてグチャグチャだったとこ、へんしゅーすればいいのに」
「ワンカットの映像のほうが人気出るからなあ」
ハル君とふー君は動画通なのかもしれない。
『実は俺、このスライムちゃんと仲良しなんです。今日は友情の証にラーメンをごちそうします』
動画の青年はそう言って、さっき自分が食べていたカップラーメンの残りをスライムの前に差し出した。
スライムはちゅるちゅると麺を吸い上げて食べ始める。
……なにやってるの、アジサイ。ボス部屋からエントランスに引っ越したのって、もしかして訪問者が持ってくる食料を狙ってのことだったの?
「カワイー!」
「可愛いな」
「ふー、スライムかう!」
「冬人、スライムはなんでも食べるから危険なんだぞ。それにダンジョンの外にモンスターは出せない」
「ざんねん……」
「俺も飼いたかったな……」
スライムはなんでも食べる。
ダンジョンで実験した人によると、昆虫くらいのサイズなら生きていても食べるそうだ。
すでに民間開放されている海外のダンジョンでは、モンスターに倒されたり犯罪に巻き込まれたりして亡くなった人間の死体がスライムによって食べられている。証拠隠滅を目的に死体を持ち込んだり中で殺したりする犯罪者が後を絶たないと問題になっていた。
日本では民間に開放する範囲を区切り、訓練された自衛隊員や警察官を要所要所に配備することでダンジョンが犯罪の温床になることを防ぐ予定だ。
その自衛隊員がこんな映像を流出させてたら問題になるんじゃないだろうか。
でももうダンジョンは民間開放が決まってるし、中のことも秘密じゃないからいいのかな? 勤務中といっても休憩時間みたいだし?
──アジサイは最終的に、プラスチックのカップまで美味しくいただいていた。




