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1・モフモフわんこと映画を鑑賞するよ!

 ダンジョンマスター生活三十一日目。

 タロ君と暮らし始めて一カ月が過ぎた。

 朝確認した今日のDPは、


【現在のDP  :18163000DP】

【昨日の消費DP:    9000DP】

【※消費DP内訳 ダンジョンコア消費: 1000DP】

【        ダンジョン施設消費: 1000DP】

【        ボスモンスター消費: 4000DP】

【        モンスター消費  : 3000DP(三百体分)】

【昨日の生産DP:1100000DP】

【※生産DP内訳 訪問者(ビジター)生産:1100000DP(千百体分)】


 かなり余裕があるのはダンジョンマスター生活二十四日目、八月の第一月曜日から警察官やダンジョン班以外の自衛隊員が訓練に来るようになったからだ。


 新しい自衛隊員は一時間の対人戦闘訓練の後、リポップしてくるレッドボアと戦って帰って行く。

 入れ替わりに来る警察官はリポップしてくるマッドゴーレムと戦った後で、対人戦闘訓練をしている。

 どちらも二百五十名ずつで、ダンジョン班の自衛隊が訓練生五人につきふたりで指導しているようだ。


 DSSSと自衛隊と警察の関係はよくわからない。タロ君の聴覚を借りても、ちょうどよくわたしの知りたい話をしているとは限らないからね。

 ネット情報や公式発表をつなぎ合わせて考えると、主体はDSSSで、災害救助のような感覚で自衛隊に支援を要請、自衛隊で足りないところを警察が補う感じ? あるいは単純にダンジョンの安全管理は国がして、そのほかの雑務をDSSSが執り行うってことなのかな。

 そういえばタロ君の聴覚を借りるのって、ファンタジーとかで魔法使いが使い魔の耳目を借りるようなもの?


 日本政府にしてはダンジョン関係の動きが速い。

 それだけポーションという存在が重要だってことだよね。

 ポーションのドロップ率は十パーセント以下だと言われている。……本当は二十五パーセントなんだけどなあ。


 今日はヒーローショーに行ったときの約束を果たすべく、お隣のハル君ふー君を我が(アパート)にお招きしています。

 なぜかふたりの叔父さん、葉山さん(大人のほう・弟)もいたりする。


「ノートパソコンの画面が小さくてすみません」

「いえ、俺は前にも見たことがあるので。それより……女性のひとり暮らしのお住まいに俺みたいな男が入って良かったんですか?」

「ハル君ふー君がいますし……」


 タロ君もいる。

 うちのタロ君はただの黒い豆柴ではない。

 ただの黒い豆柴でも超可愛いし最高(モフモフ)だけど、タロ君にはダンジョンのボスモンスターという隠された顔がある。巨大なオルトロスの姿のモードだ。


 今タロ君は、ジャージ姿の葉山さんの膝の上にいる。

 葉山さんは蕩けそうな顔でタロ君を撫でていた。

 タロ君の顔は普通。もしかして接待撫でられ?


「あ、いただいたお菓子開けますね。ハル君ふー君、飲み物は牛乳でいい?」

「ぎゅーにゅー!」

「うん。ハルちゃん、ありがとう」


 お辞儀するお兄ちゃん(ハル君)を見て、(ふー君)もありがとう、と頭を下げる。


「葉山さんはアイスコーヒーでいいですか? ペットボトルの微糖ですけど」

「はい、お気遣いありがとうございます」

「こちらこそ、クッキーありがとうございました」


 葉山さんはお兄さん、ハル君ふー君のお父さんがお勤めされているケーキ屋さんで購入したという大きな缶入りのクッキーを持って来てくれていた。

 小さい袋に数個だけ入った季節もののクッキーは買って食べたことがあるのだが、こんなに大きな缶入りのものは初めてだ。

 五千円はするんじゃないかな。


 葉山さんは(シャドウ)のマントのことを未だに感謝してくれているらしい。

 ちゃんと材料費(タロ君の(シャドウ)コアなので無料)も手間賃(ダンジョンマスターの『アイテムコア作成』で作ったので短時間で完成)も十分もらっているのにな。


 缶の横についたテープを剥がして蓋を開ける。

 クッキーを守るプチプチをどけると、辺りに甘い匂いが漂った。

 葉山さんの膝の上で、タロ君が立ち上がる。


(マスター、美味しそうなのだ)

(タロ君はみんなが帰ってからね)

(ん。わかったのだ)


 タロ君は聞きわけがいいなあ。

 実家にいたサクラ(享年二十歳・ミニチュアダックスフント)は、ダメだと言われても家族の周りをうろちょろして、だれかが落とすのを狙ってたよ。

 だれも落とさないと、背中や腕を鼻でツンツンしてたんだよね。


 クッキー缶をちゃぶ台のノートパソコンの横に置き、台所へ。

 まあ狭いアパートなので(大家さん、ごめんなさい)部屋と台所の間の仕切りはない。

 小皿とコップを四つずつ、お盆に載せてコップには冷蔵庫から出した飲み物を注ぐ。牛乳が二杯、アイスコーヒーが一杯、アイスコーヒーと牛乳半分ずつが一杯。


「ハルちゃんのはなぁに?」

「カフェラテだよ」

「かへらて……ふーものみたい」

「いいよー。ハル君もカフェラテにする?」

「うん!」


 ふたりの牛乳に、ちょっとだけ色がつく量のアイスコーヒーを入れて完成。

 三歩歩いて部屋に戻り、お盆を畳に置いて小皿を配る。

 おっとコースターコースター。台所に戻りながら、振り返ってハル君達に告げる。


「好きなクッキー取ってね」

「にいちゃん、なんこたべていー?」

「夕飯が食べられなくなると困るから、三個ずつもらおうな」

「にいちゃんとハンブンコして、ろくしゅるい、たべる!」

「葉山さんはどうしますか?」

「俺はタロ君を撫でていたいので、今は遠慮しておきます」

「ああ、そうですね。……ハル君ふー君待って! さっきタロ君触ったから、ふたりともウェットティッシュで手を拭いてからにしよう!」


 いけないいけない。

 タロ君はボスモンスターでほかの(わんこ)みたいに抜け毛がないし、そもそもこの世界のホコリやゴミを寄せ付けない魔力の結晶だから忘れてたけど、(わんこ)を触ったら手を洗いましょう!

 タロ君はその上に毎日お風呂にも入ってるから清潔極まりないんだけどね。


「「はーい」」


 ウェットティッシュを出してー、コースターも用意して葉山さんにアイスコーヒーを出して……世のお母さんは大変だなあ。

 葉山家のお母さんはお父さんとデート中だ。

 今日は月曜日で、ケーキ屋さんはお休みなのである。定休日じゃなくてお盆休みだったかな?


 葉山さん(大人のほう・弟)は別口で、お仕事が終わった後で家に訪ねてきた。

 ジャージなのは、お勤めされている会社が隣町に借りているホテルの部屋へジョギングで帰る予定だったからだという。

 ……隣町まで車で三十分、電車で一時間、距離にして二十キロはあるのに。


 葉山さんがお勤めされているのはダンジョンの管理を行う民間企業(ダンジョン)(サーチ)(サポート)(サービス)で、会社自体は日本ダンジョンの民間開放に向けて活動している。

 彼自身は日本の同盟国から招いた冒険者の案内役を担当しているのだが、その冒険者は休暇を兼ねて来ているため、観光に夢中でなかなか顔を出さない。

 葉山さんは毎日この町のダンジョンの隣に建つ(ほかの部分は建設中)『ダンジョン冒険者協会(ギルド)』に出勤して緊急でない業務をこなしながら連絡を待ち、連絡がない、もしくは来ないと連絡があった場合は退勤するかほかの業務をしているそうだ。


「今日は早めに終わられたんですね」


 まだお昼を少し過ぎたところだ。

 ハル君ふー君はお昼を食べてから、ご両親に連れられて我が家に来た。

 葉山さん(大人のほう・兄)にもお菓子、マカロンの詰め合わせをもらってしまった。お返しどうしよう。


「昨日終業時間まで過ごした後で兄の店へクッキーを買いに行ったら時間が遅くなったので、今日はフォッグ氏が来ないとわかってすぐ、こちらに伺わせていただいたんです」


 DSSSが招致した海外の冒険者はアーサー・フォッグ氏。

 現在レベルを公表している人間の中で、一番レベルが高い冒険者だ。

 世界的に名前を知られていて来日時の空港の様子がニュースになったくらいだから、彼が日本のダンジョン見学に来ていることは秘密でもなんでもなかった。モンスターに呪いをかけられ、ダンジョン内ではモンスターに変身できることも本人が明かしている。


 葉山さんが案内役を担当しているということも秘密ではない。

 というか、空港まで迎えに行ってたしね。

 それでフォッグ氏に「しばらく観光するからダンジョンへ行くと連絡するまで待機していてくれ」と言われたところまでがニュースになり、ネットの動画にも流されていた。わかったわー、ダンジョンマスターの『言語理解』で字幕なしでもなに言ってるか全部わかったわー。


 本当は彼が日本にいる間のすべてにおける案内役だった葉山さんの役割をダンジョン関係の案内役のみに絞ったのは、フォッグ氏が日本でも『モンスターブライド』を探すつもりだからだろう、というのがネットの噂。

 要するにナンパするのに案内役は邪魔ということだ。

 彼の国には、モンスターの子どもを産みたいというブライド(花嫁)がたくさんいるらしい。映像でフォッグ氏の後ろに立っていた通訳か護衛とおぼしき金髪の女性(サングラスと黒いスーツ着用)が、小声で「……くたばれ、色ボケ……」と呟いてたのも『言語理解』でわかったわー。


「気を遣っていただいて申し訳ありません」


 葉山さんが持って来てくれたクッキー缶は、わたしへのお詫びだった。


「いいえ。こちらから映画に誘っておいて、タロ君も一緒に観られるドライブインシアターを見つけられなかったんですから当然ですよ」

「わふう……」


 今はもうドライブインシアターは、ほとんど存在していないようだ。

 少なくともタロ君、ハル君ふー君と行きたかったヒーロードラマの夏映画の上映はこの辺りではなかった。

 葉山さんは俯いて、タロ君を撫でながら言う。


「……今回はこんなことになってしまいましたが、これからもタロ君も楽しめるようなイベントがあったらお誘いしてもいいでしょうか」

「もちろんいいですよ。わたしインドア派なので、ハル君ふー君がタロ君と遊んでくれると助かります。この辺りだと車が怖いですしね」


 犬も遊べた近所の公園はダンジョンになってしまった。……わたしのダンジョンだけど。

 失礼ながら葉山さんに車を出してもらえたら、距離のある隣町の公園や砂浜にも遊びに行けるしね。

 波打ち際を走るタロ君……イイ!


「そうですね。俺もタロ君と追いかけっこしてみたいです!」

「わふ(負けないのだ)!」

「……タロくんエーガみてるから、しーよ?」

「……アキちゃんもだぞ」

「……わふ」

「……すまない」


 振り返ったハル君ふー君に言われて、タロ君と葉山さんは項垂れた。

 わたしも頭を下げたのだった。


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