※ダンジョンわんこ日記 二十七日目
本日(11月21日)は三回更新します。
これは3/3回目(本日ラスト)です。
……マスターめ!
昨日実家からアパートに帰って来たばかりなのに、マスターは吾をお隣に預けて買い出しに行ってしまった。
久しぶりに会った春人や冬人と一緒に過ごせるのは嬉しいが、マスターがいないと寂しいのだ!
実家にいたときのマスターは、通販でよくものを買っていた。
吾のために料理のレパートリーを増やすと宣言して料理の本をいっぱい取り寄せ、中身を見せてくれながらどれが食べたいか聞いてくれた。
食材も通販で買えばいいのに。
「タロくん、ロボでた」
「わふ!」
「ロボカッコいいな」
今吾は、春人冬人と一緒に今年放映されているヒーロードラマの録画を観ている。
この前のヒーローショーで見たのと同じヒーローが出てきて面白いが、だからといってマスターが吾を置いて買い出しに行ったことは許さないのだ。
どうしてスーパーには犬が入れないのだろう。モンスターでもダメなのかな?
春人と冬人は、吾とお揃いの影のマントを纏っている。
実家にいる間にマスターが作って宅配したのだ。
この一週間ほど、マスターはなにかから目を逸らすかのようにアイテムコアを作成したりダンジョンの説明書を読んだりしていたな。吾もよくダンジョンマザーツリーのデータベースへのアクセスを頼まれた。
ボスモンスターの吾にはわからないけれど、世界が大きく変わろうとしているらしい。
マスターはダンジョンマスターとして、いろいろ考えることがあったようだ。
悩んだ末の結論は、吾と一緒に生き延びるため頑張る、だという。
……初志貫徹だな!
ん。吾もマスターと一緒に生き延びるため頑張るぞ。お留守番は嫌だけどな!
「タロくーん、センデンおわったよ?」
「わふー」
録画しているヒーロードラマの合い間に挟まるコマーシャルが終わったようだ。
早送りで飛ばせるのだが、春人と冬人はコマーシャルも楽しそうに見ていた。
吾は人前ではお菓子は食べられないので、お菓子のコマーシャルには興味がない振りをしている。でも画面を見ていないと退屈だから、ついつい玄関に行ってしまうのだ。
「卯月さんがいなくて寂しいのね」
ふたりのところへ戻った吾をお隣のマザーが撫でてくれた。
春人も冬人も小さいから、当然お隣のマザーが一緒にいるのだ。
ふたりはまだお留守番をしたことがないらしい。吾はボスモンスターだからお留守番するのも役目のうちだとわかっているのだが……それでも寂しいのだ。
録画を観たり玄関に行ったりしていたら、マスターが帰ってきた。
お隣ファーザーの弟の鷹秋も一緒だった。
ダンジョンの前で会ったのだそうだ。鷹秋はあそこで働いているからな。
「わふ!」
吾がマスターに抱きつくと、鷹秋がマスターの荷物をさりげなく持ってくれていた。
鷹秋はいいヤツだ。
大家達と同じように、マスターを好きな匂いがするぞ。
マスターは鷹秋にもマントを作ってやっていた。
材料費と手間賃に勝てなかったのだという。
お金がないとマスターはバイトに行かなくてはいけないからな。……うん、鷹秋にマントを作ったのはいいことだぞ。
玲奈にもマントを作ってやっている。
玲奈はブルー、鷹秋はイエローだ。
マスターは吾のマントを着ているけれど、自分用にホワイトのマントを作ってもいいと思う。ブラックとホワイトで追加戦士なのだ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
吾とマスターは、一旦自分達の部屋に戻った。
家庭菜園のところにいる大家が見えたので、アイスをお裾分けしたぞ。
スズランが見守っているから熱中症にはならないと思うが、体を動かしているから水分が必要だ。
部屋に入った吾はマスターに告げた。
「マスター! 吾、お留守番できたぞ!」
「偉いねえ」
マスターが吾をなでなでしてくれる。
もうすぐ一カ月経つけれど、吾はマスターのナビゲーターとして生まれて本当に良かったと思っている。
これからもマスターと一緒にダンジョン運営頑張るぞ!
でもお留守番は嫌だから、夏休みが終わる前にこっそり大学壊しておこうかな。
……たぶんマスターに怒られるし、一匹でお出かけするのは怖いから止めておくぞ。
お読みいただきありがとうございました。
第一部『一匹目』は今回で終了です。
第二部『二匹目と一羽目』は、2019年の大晦日から公開する予定です。
よろしければ、また読んでくださいね。