※ダンジョンわんこ日記 二十日目
本日(11月21日)は三回更新します。
これは1/3回目です。
「わんわん戦士タロクンジャーピンク、カノ参上!」
「わふ(ブラック、タロ参上なのだ)!」
マスターがあげた吾とお揃いの影のマントに、歌音はもちろん大喜びした。
すぐに着て、吾と一緒に『わんわん戦士タロクンジャー』を結成したのだった。
戦うべき敵は、今のところいない。
マスターの部屋の前で名乗りを上げてみたが、マスターは出てこなかった。
きっとDPの確認をしているのだろう。
……ん? マスターの部屋から聞き覚えのある音がする。スマホの着信音だ。
「ハルちゃん出てこないねー」
「わふう」
玲奈か乙女からの電話だな。
電話のときは邪魔をしてはいけないのだ。
吾は歌音のマントの端を爪先でカリカリした。
「どうしたの?……あ。話し声がする。お電話かな?」
室内の様子に気づいて、歌音が声を小さくする。
吾は彼女に頷いて見せた。
「わふわふ」
「うるさくしちゃダメだよ、タロ君。そーっと居間に戻るのよ」
「わふ?」
吾も小声で答えたのだ!
歌音は吾を赤ちゃんのように扱うことがあって、ちょっとムカつく。
……まあ、確かに吾はまだ生まれて一カ月も経っていないのだがな。
吾と歌音はマスターの邪魔にならないように、そーっと居間へ戻った。
戻る途中でマントが翻るのが楽しくなって、ちょっと走ってしまったのは反省している。
吾も歌音も若いから失敗してしまうこともあるのだ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
居間のソファで歌音がスケッチブックに落書きするのを見ていたら、マスターがやって来た。
「わふ!」
「タロクンジャースーツ開発後に、悪の組織に攫われてセンノーされてしまったハル博士なのよ」
「わふー」
ええー。マスターが敵なのか?
吾、マスターは仲間がいい。
「正義の心を取り戻して、ハル博士!」
「わふわふ!」
「チャンネル変えるねー」
「え? ああ、いいわよ。ドラマ始まったら起こしてね」
必死で呼びかけたのに、マスターは正義の心を取り返してくれなかった。
それどころか、吾と歌音が流していたテレビのチャンネルを変えてしまったのだ!
マスターマザーが好きなドラマが始まったら、どちらにしろ変えられていたのだけど、一応マスターの心に訴えてみる。
「ハル博士は本当に正義の心を失ってしまったのね」
「わふう……」
画面を見ずに落書きしていたことを気づかれているのか、マスターに罪悪感を覚える様子はない。
やがてテレビの画面に、よく見慣れた存在が映し出された。
吾とマスターで作ったマッドゴーレムだ。人間と戦っている。
「モンスターなのよ、ブラック!」
「わふ!」
「タロクンジャーの出番ね!」
「わふふう!」
ん? 敵はマッドゴーレムなのか? それならいいぞ。
うちのダンジョンのモンスターだから、たまにはボスモンスターの吾が修行をつけてやってもいいだろう。
んー……でも吾、炎属性も身に着けてしまったのだよな。どれくらい手加減したら、大地属性で下級モンスターのマッドゴーレムを一撃で倒さないようにできるだろう?
テレビの番組が終わったら吾や歌音と遊んでくれるかと思って期待していたのだが、再び電話がかかって来てマスターは部屋へ帰って行ってしまった。
なんだか疲れたような顔をしていたから心配なのだ。
マスターのことはタロクンジャーブラックが守るのだぞ!
お読みいただきありがとうございました。
次回は本編最終話です。
晴が思い描くタロ君との未来とは?