※ダンジョンわんこ日記 十二日目
本日(11月19日)は三回更新します。
これは1/3回目です。
マスターの実家での暮らしは、ちょっと疲れるのだ。
挨拶に行ったマスターの祖父母達には揉みくちゃにされたし、歌音やマスターマザーは吾に夢中で片時も離れようとしない。
カッコ良過ぎるのも困ったものなのだ。くふふ。
──とか思ってたら、帰省三日目には飽きられてしまった。
歌音は居間のソファで落書きしてるし、マスターマザーはテレビでドラマを観ている。
放っておかれて楽だけど、なんだか複雑な気分である。
(……マスター……)
ここはマスターの部屋。
吾が見つめると、マスターは吾を抱き締めている人間をつついて解放させてくれた。
歌音とマスターマザーに飽きられた吾を抱き締めていたのは、マスターの親友の玲奈という人間である。
マスターを好きだという匂いを放っているので、吾は玲奈が好きだ。
でも犬を飼ったことがないのか、抱っこの仕方はイマイチだった。
ベッドで寝転がった姿勢で抱っこされていて、たまに下敷きにされたのも辛かったぞ。玲奈は痩せているからマスターと違って体が硬いのだ。
「わふー」
玲奈から解放された吾はマスターに駆け寄った。
ふたりは雑談に興じている。ダンジョンやゲームの話が主のようだ。
吾はマスターの膝に登って丸まった。やっぱりマスターのところが一番だぞ。
「そうなのね。いいなー、晴。私ももっとダンジョンを身近に感じたいわ。民間開放来ないかしら」
ゲーム好きだという玲奈はダンジョンにも興味津々のようだ。
「日本では無理じゃない?」
マスターはあっさり(と見えるような素振りで)答えた。
最近は毎日六百人の人間が入って来るのでDPに余裕がある。
民間開放がなくてもやっていけそうだとマスターは嬉しそうだった。最終的には相性の悪いモンスターを対抗させて、モンスター同士の戦闘で発生するDPで賄うようにしたいのだという。
「どうかしら? あなたのアパートの近くのダンジョンって、なにか怪しいのよね」
「怪しいってなにが?」
マスターの声が震えていた。
気づかないでいるのか、気づいてとぼけているのか、玲奈は話を進めていく。
「あのダンジョンが出現してすぐ、解散に近い状態になってた自衛隊のダンジョン班が再稼働しているのよ。本来調査を委託されていた民間企業のDSSSはDSSSで同盟国のダンジョン冒険者組合と接触してるみたいだし。まあ民間なんて形だけで、実際は今でも国の紐付きなのは間違いないんだけど」
「玲奈ちゃん、そんなことどこで調べるの?」
「同好の志と情報を交換したり海外のサイトを回ってみたり、他国の冒険者にメールを送ってみたり、いろいろよ。ダンジョン内で重火器が使えないのは残念だけど、アイテムコアでモンスターを倒すのってロマンでしょ?」
「新しいRPG買えば?」
「リアルにダンジョンが出現してるのにゲームなんかじゃ満足できないわ。入ってステータスボードを開くだけでも感動すると思うの」
……うーん。マスター、心配しなくても大丈夫なのだ。
玲奈はマスターに危害を加えるようなことはしないし(マスターもわかってると思うけど)、もし巻き込んでしまっても悪い人間は吾やウメ子達が打ち倒すのだ。
だから、本当のこと教えたいな。吾のオルトロスモードを見せたら、歌音も春人も冬人も大喜びするだろうになー。
マスターに優しく撫でられながらそんなことを考えていた吾は、やがて眠りに落ちて行ったのだった。
お読みいただきありがとうございました。
次回、新しいモンスターを作ります。