44・モフモフわんこと危険な美女
本日(11月18日)は三回更新します。
これは2/3回目です。
ダンジョンマスター生活十二日目。
自衛隊は四時間六交代制を続けているので、DPは4033000にまで増えた。タロ君と一年以上生き延びられる……嬉しい。
ここまでDPが増えると、二十五パーセントでポーションをドロップするモンスターが百九十五体出現するだけのダンジョンじゃ申し訳ない気持ちになってくる。
そういえばDSSSはどうしてるんだろう。姿を見ない。
べつのダンジョンを調査してるのかな?
葉山さん(大人のほう・弟)の連絡先は知ってるけど、聞いても詳細は教えてもらえないだろうしね。そもそもタロ君目当てで渡された連絡先だし。
(……マスター……)
タロ君に縋るような目で見られて、わたしはベッドの上に横たわって彼を抱き締めている彼女をつついた。
「玲奈ちゃん、タロ君を解放してあげて。そうじゃなくても昨日まで歌音に追いかけ回されて大変だったんだから」
「あら、そうだったの」
玲奈ちゃん、中学時代からのわたしの親友・雨崎玲奈ちゃんは起き上がり、抱き締めていたタロ君を自由にした。
「わふー」
ベッドから飛び降りて駆け寄ってきたタロ君の頭を撫でる。
ちなみにわたしの部屋、わたしのベッドだ。
帰省した翌日は父方の祖父母の家へ行き、その次の日、昨日は母方の祖父母の家へ行ったので、やっと実家でゴロゴロできると思っていたら玲奈ちゃんが来た。いや、来ていいんだけど。
玲奈ちゃんは地元のかなり優秀な人しか入れない女子大学に通っている。
黒髪ロングの美少女で、和服や白いワンピースが良く似合う。
その外見に惹かれるものは多く、中高時代はストーカーじみた人間に執着されることもあったっけ。
「最近はどう?」
「どうって言われても。妙な視線を感じると思ったときは、携帯ゲーム機でFPS始めれば去っていくわよ」
「ボイスチャットで悪口雑言放つのはやめなさいよ」
「そんなに大声は出してないわ。でもプレイ中の顔が怖いみたい」
相変わらずのゲームジャンキーらしい。
整った顔の美人が鬼気迫る表情で銃撃戦のゲームをプレイしてる姿って怖いよね。
「ところで晴。あなたのアパートの近くにダンジョンできたんですって?」
「うん、できたよ」
というか、わたしのダンジョンです。
ベッドに背中を預けて座ったわたしの膝に、疲れ切った様子のタロ君が登ってくる。
玲奈ちゃんに抱き締められていたことだけが疲労の理由ではない。昨日一昨日と追いかけ回していた歌音が、今日唐突に飽きて離れていったのも大きなショックだったのだろう。
わたしも去年はそうだった。
帰省したらものすごく懐かれて、離れていたのが寂しかったのねー、とどこへでもついて来られるのを面倒に思いながらも嬉しく感じていたら、突然飽きられて。
解放されて良かったんだけど、ちょっとなんか一気に疲労が押し寄せてきたのよね。
「警察が封鎖する前に中に入ったりした?」
「……してないよ」
自分から入ったんじゃない、うん、違う。
倒れたわたしの周りにダンジョンが発生しただけ、たぶん。
「DSSSとか自衛隊とか見た?」
「……お隣の旦那さんの弟がDSSSの人」
「え、そうだったの?」
「たまたま職業を教えてもらっただけで、ダンジョンの情報は聞いてないよ」
ダンジョンマスターだから聞かなくても知ってるし。
「そうなのね。いいなー、晴。私ももっとダンジョンを身近に感じたいわ。民間開放来ないかしら」
「日本では無理じゃない?」
「どうかしら? あなたのアパートの近くのダンジョンって、なにか怪しいのよね」
「怪しいってなにが?」
「あのダンジョンが出現してすぐ、解散に近い状態になってた自衛隊のダンジョン班が再稼働しているのよ。本来調査を委託されていた民間企業のDSSSはDSSSで同盟国のダンジョン冒険者組合と接触してるみたいだし。まあ民間なんて形だけで、実際は今でも国の紐付きなのは間違いないんだけど」
「玲奈ちゃん、そんなことどこで調べるの?」
ダンジョンで現場の会話を盗み聞きしてるわたしより詳しいんじゃない?
「同好の志と情報を交換したり海外のサイトを回ってみたり、他国の冒険者にメールを送ってみたり、いろいろよ。ダンジョン内で重火器が使えないのは残念だけど、アイテムコアでモンスターを倒すのってロマンでしょ?」
「新しいRPG買えば?」
「リアルにダンジョンが出現してるのにゲームなんかじゃ満足できないわ。入ってステータスボードを開くだけでも感動すると思うの」
わたしの半径一メートル以内にいるので、玲奈ちゃんがその気になればステータスボード開けます。……その気にならないでね?
「それに、実はあのダンジョンのドロップ品らしきものが、うちのお兄様のところに持ち込まれたみたいなのよね。どんなに聞いてもどんなものか教えてくれないけど」
玲奈ちゃんの家は地元で一番大きな総合病院だ。
彼女のお兄さんは跡取りでありながら医師となった後も実家に帰らず、大学で研究を続けている。まだ若いものの、基礎医学の分野ではすでに世界で名前を知られた存在のようだ。
年齢はわたし達より十二歳上だったっけ。
「お兄様が研究三昧なせいで私が家を継げと言われて迷惑してるのだから、それくらい教えてくれてもいいのに!」
「そういうわけにはいかないでしょ。それに玲奈ちゃんって病院経営に向いてそうな気がするよ」
「経営だけなら面白そうだけど、医者と結婚しろってうるさいのだもの」
「名家は辛いね」
「古い家なだけよ。……タロ君寝ちゃったの?」
「うん」
膝の上で撫でていたら、タロ君が寝息を立て始めていた。
お読みいただきありがとうございました。
次回、タロ君は寝ています。