※ダンジョンわんこ日記 九日目
本日(11月18日)は三回更新します。
これは1/3回目です。
(海だよ、タロ君)
(海なのだ、マスター)
吾とマスターは船の甲板にいた。
マスターマザーから電話があったので、吾とマスターはマスターの実家へ帰省している途中なのだ。
船の乗船時間は二時間。ずっとキャリーバッグに閉じ込められているのは退屈だが、マスターと海を見られるのは楽しいぞ。
昨日公園でも嗅いだ潮の香りがする。
キャリーバッグの中から見る海の色は、昨日とは違う気がした。
船が起こす波の音が聞こえる。
(タロ君、あの島にもダンジョンがあるんだって。なにか感じる?)
(んー、マスターのダンジョンじゃないなら吾には関係ないのだ)
海上に浮かぶ島のシルエットを指差されたが、よくわからなかった。
ふんふんしてみても、ダンジョンの入り口には結界が張られているので中のことまでは嗅ぎ取れない。
途中に海もあるしマスターに危険は及ばないから深く気にすることもないだろう。それより……
「……電車に一時間も乗ってたから、なんか疲れたね」
「わふう」
今日は鷹秋がいなかったので電車で隣町まで来たのだ。
ガタゴト揺れるのはちょっと楽しかったけれど、子どもや学生がチラチラ見てくるので疲れてしまった。世界中で大人気の動画の犬だと気づかれていたわけではないと思う。
どこにいても注目を集めてしまう吾のカッコよさは罪だぜ。
「ダーリン撮って撮ってー」
「君は夕焼けに染まった海よりも綺麗だよ、僕のヴィーナス」
甲板のベンチに座った吾らの背後に、ふたり連れが現れた。
男と女──カップルというヤツだな。
吾とマスターはカップルではない、主従なのだ。
吾がボスモンスターだということが秘密じゃなかったら、オルトロスモードになって昼寝するマスターを守ってあげられるのになー。
でも吾がボスモンスターだということやマスターがダンジョンマスターだということを知られたら、大変なことになるから隠さなくてはいけないのだ。
ダンジョンマザーツリーのデータベースによると、異世界で種を託された魔法使いや賢者達も国や権力者には内緒にしていたという。
でもでもマスターの力を狙う者が現れても吾やウメ子達が打ち払うし、マスターは心臓が種と融合してるからマスターから種を奪うことなんかできないんだけどな。
吾やマスターのすごいところ、春人や冬人にも教えたいのだ。
腰痛のひどい(マスターの前では見せないけど吾は匂いでわかる)大家に『大地の祝福』をかけてあげたりしたいのだ。……今度こっそりかけちゃおうかな。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「お兄ちゃん……と、お義姉さんと歌音」
「晴ちゃん、久しぶり」
「ハルちゃん、わんこはそのバッグの中? カノが持つの!」
「歌音、タロ君だよ。よろしくね。タロ君、歌音だよ」
「わふ」
「カワイー」
マスターの故郷の港に船が着くと、マスターブラザー達が迎えに現れた。
マスターシスターと歌音もいる!
歌音はマスターの姪だ。顔の作りは全然違うけど、匂いは似てるぞ。
歌音は、アパートの春人と同じ五歳児だ。
吾の入ったキャリーバッグを任されなかったことで怒っていた。
まだ小さいから持てないのは仕方がないことなのだ。マスターを睨んではいけないぞ。
吾の動画が世界で大人気だったことをブラザーと話した後、マスターは実家用のお土産をターミナルの売店で購入した。
苺は昨日作っちゃったからな。
歌音に苺をあげたら喜びそうだったのに、残念だ。
それから、マスターブラザーの車でマスターの実家へ戻った。
歌音はキャリーバッグ越しにいろいろ話しかけてきたのだが、疲れていたので吾は眠ってしまった。ピンクが好きだと言っていたことは覚えているぞ。
マスターも車内では寝てしまったようだ。
お読みいただきありがとうございました。
次回、晴の実家でタロ君は?