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42・モフモフわんこ、風になる!

本日(11月17日)は三回更新します。

これは1/3回目です。


 ヒーローショーは午前と午後に一回ずつで、隣町から車でのんびり来たわたし達は午前の部には間に合わなかった。

 もっともそれは最初からわかっていたことなので、港に面した海の見える公園の屋台でサンドイッチを買って、広い芝生で午後の部の開催を待つ。

 その場で具を選んで作ってもらう極厚のサンドイッチは美味しかった。


「待て待てー」

「きゃー」

「わふー」


 サンドイッチを食べ終わったタロ君と葉山兄弟(小さいほう)は、全力で芝生を駆け抜けている。

 ベンチに座ったわたしと葉山さん(大人のほう・弟)の前に来るとターンして去り、ある程度走るとまたターンして戻ってくるのを繰り返しているのだ。タロ君のリードはハル君に預けている。

 ……インドア派ヌルゲーマーのわたしには、なにが楽しいのかさっぱりわからない。


「ほかの人にぶつからないようになー」

「「はーい」」

「タロ君もよー」

「わふ!」


 ふたりと一匹のお返事はとても良い。

 マントを翻して走るタロ君の姿は、映画のオルトロス星人に勝るとも劣らないカッコ良さだった。

 異論は認めません。


「小さい子は元気ですよねえ。わたし、授業やマラソン大会でもないのに自主的に走ろうって気持ちが理解できませんよ」

「……そう、ですか。俺は今朝、二十キロジョギングしてから来ましたよ」

「二十キロ? え、あ、なにかスポーツをなさってるんですか?」

「体が資本の仕事なんです。まあ元から筋トレが趣味なんですが」


 わたしは葉山さん(大人のほう・弟)の職業を知らない。

 BBQでそういう話題になったときタロ君が可愛いポーズをしたので、ふたりともそれに夢中になって会話が途切れたのだ。

 体が資本のお仕事か。……この細マッチョな体型で、そうじゃないほうが驚くかも。


「ふー、イッチャクー」

「速いな、ふー」

「ふふふのふー」

「わふー」


 そろそろ疲れたのか、ふー君がわたしの膝に抱きついて来た。

 ハル君はふー君より遅いんじゃなくて、タロ君のリードに気を配っていたのと弟に勝ちを譲ったから二着になったのだろう。

 葉山兄弟(小さいほう)は、どちらも最近流行の何度か人生やり直してる子どもじゃないかと疑うくらい、しっかりしている。たまにお菓子のおまけがお目当てと違ったと言って泣き叫んでるけど。


「あ、そうだ!」


 タロ君を外に出したので、キャリーバッグは車に置いて来た。

 その代わり、わたしはべつのバッグを持って来ている。


「じゃーん」

「「?」」


 怪訝そうなハル君ふー君の横で、タロ君がニヤリとしている。

 わたしはタッパーを出して、蓋を開けた。


「苺食べる人ー」

「「べるー」」

「わふ!」


 今朝作りたての苺である。

 陶器の腕輪は初級植物魔法の使用回数がなくなると壊れて……というか、大地属性を削除したときのマッドゴーレムキングのコアと同じように溶けて消えた。

 タッパーの中の苺には人数分の爪楊枝を刺している。タロ君にはわたしがあげます。


「大きくて瑞々しそうな苺ですね」

「ハルちゃんのイチゴ、オイシー」

「すごく美味しいんだぞ」

「わふう」


 タロ君はドヤ顔である。

 ゴーストの闇の魔気で苺はほど良く冷えていた。

 葉山家担当護衛ゴーストのヒマワリはご夫婦に同行させて、こちらはウメ子に来てもらっている。ウメ子はヒーローショー見たがりそうだな、と思ったのだ。


 ……大きなダンジョン苺見せたら大喜びしただろうな。

 それはともかくダンジョンでなにかあったときは、ウメ子を目印にして『転移』で往復しようと思う。


「葉山さんも良かったらどうぞ」

「すいません、いただきます。……すごい。とても美味しいです」

「良かった」


 この前タロ君が用意してくれた(シャドウ)のコアはまだまだあるし、魔法スキル『MP譲渡』を使ってもらえばMPが足りなくなることもないし、今度はどこまでレベルを上げたら壊れなくなるか調べてみてもいいなー。

 自作の苺を堪能しながら、なんの気なしにさっきの話を蒸し返す。


「そういえば、葉山さんってなんのお仕事なさってるんですか?」

「ああ、はっきり言ってませんでしたね。俺の仕事は冒険者です」

「え?」


 葉山さんはイタズラな笑みを浮かべている。


「アキちゃんはダンジョンに潜ってるんだぞ」

「モンスターたおす」

「わふ?」

「DSSSってご存じないですか? 俺、あの会社の調査員なんです」

「そうなんですか……もしかして、アパートの近くにできたダンジョンにも?」

「はい」


 さらっと頷いてくれたのは、これは極秘事項ではないからだろう。

 ポーションのことを聞いたらどうなるのかな? 聞かないけど。

 というか、彼の低い声に聞き覚えがあると思ったのは、ダンジョンでタロ君の聴覚を借りて聞いていたからだったのね。


 だからといってなにかがあるわけではなく、苺を食べ終わったわたし達はヒーローショーの午後の部を楽しんで、屋台の海鮮料理で早めの夕食を楽しんでから帰路に就いた。

 タロ君がいるからお店に入れないんだよね。

 二十歳にもなって帰りの車で眠ってしまったのは不覚! 免許持ってなくて運転代われない分、退屈しのぎのおしゃべりやナビをするべきだったのにな。


お読みいただきありがとうございました。

次回、タロ君日記です。

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