35・モフモフわんことオルトロス星人
本日(11月14日)は三回更新します。
これは1/3回目です。
タロ君とダンジョンマスターの能力やダンジョンマザーツリーの得ている知識について話していたとき、
「あ、そうだ」
「ん?」
ふと思い出したわたしは、動画配信のサイトを閉じて契約しているネットチャンネルのページを開いた。
確かにゲームやギリシア神話で聞いたことはあったと思うが、わたしに一番強くオルトロスをイメージづけた存在はべつにある。
「タロ君、この子もオルトロスだよ」
「おお!」
去年ハル君とヒーローショーに行った後、ちょっとハマってネットチャンネルで放映されているヒーロードラマをいろいろ観たのだ。
名前は知っていてもケルベロスとの違いを意識していなかった(ゲームだと同じデザインの色違いだったりするし)わたしにオルトロスは双頭なんだと刻み込んだのは、数年前に放送されていたヒーロードラマの冬映画だった。
「吾と同じ双頭なのに、マスターみたいに二足歩行してるぞ! ヒラヒラしたマントがカッコイイな!」
マントが気に入ったのなら、今度ペット用品店で買ってあげようかな。
動物だからって暑さ寒さが平気なわけじゃないし、オシャレ心がないわけでもない。
服やアクセサリーを喜ぶ犬猫だっているのだ。もちろん無理矢理着せるのはダメだけどね。
「この映画観る?」
「観るのだ!」
わたしは再生ボタンをクリックした。
タロ君はノートパソコンを置いたちゃぶ台に両前足を載せて、食い入るように画面を見ている。
映画が始まってしばらくして、タロ君は残念そうに溜息をついた。
「えー、オルトロス悪者なのかー」
本当は敵に騙されてヒーローが悪だと思っているだけなんだけど、タロ君はネタバレ禁止派かもしれないから、今は言わないでおいてあげよう。
「あ、違う。こっちが悪だな」
子ども向けで三十分と短いので、誤解はすぐ解けてヒーローとオルトロス星人の共闘になった。
タロ君の尻尾がぶんぶんと動き出す。
「オルトロス頑張れー」
やがて映画が終わり、タロ君は満足そうに溜息をついた。
「ふう。面白かったのだ。オルトロスを騙した悪者がやっつけられて良かったぞ」
「良かったね。……ああっ!」
「どうしたのだ、マスター!」
「いや、タロ君が可愛かったから動画撮っとけば良かったって今ごろ気づいて」
「映画が映り込むと著作権的に問題が生じるのではないのか?」
「え、それは……そうだね」
個人的に楽しむのなら良いんじゃないかと思ったが、それ以前にタロ君がしゃべりまくっていた。
世界に配信しなくてもなにかで漏れるかもしれないし、撮らなくて良かったんだろう。
情報流出がどうこうって、よく騒がれてるもんね。……うちはウメ子達が記録機器に干渉してくれるから大丈夫かな。
「それよりマスター、吾もっとオルトロスが見たいのだ!」
「「「……オォオオ……」」」
「え? ウメ子達も?」
どうやらタロ君と一緒に映画を鑑賞していたらしい。
『隠密』で姿を消してもらってるから、ダンジョンマスターのわたしにもどこにいるのかわからないんだよね。
タロ君ほどはっきりしゃべらないし、スライムのアジサイみたいに念話も送ってこないけど、言ってることはなんとなくわかる。
「「「……オオォ、オオ……」」」
「へー。ヒマワリは葉山家でハル君ふー君と一緒にヒーロードラマの録画観てるんだ。スズランは大家さんとネットチャンネルで古い映画観てるのね」
わたしが留守の間は自由にしていいと言っているので、壁越しに仲間と情報交換したりしているようだ。
どこへ行っていても召喚で呼び戻せるのだが、さすがに家から出ることは許していない。
普段は退屈しているのかもしれないな。
「オルトロス星人はその映画にしか出てこないけど、ヒーロードラマならほかにもあるよ。それか犬の出てくる動画や映画検索しようか?」
「ヒーロードラマがいいのだ! マントぶわーでカッコイイのだ!」
「……オオ!……」
「……オォオ……」
「……オォオオ……」
ウメ子はヒーロードラマ好きで、モモ子は動物動画や映画派で、サクラ子は今のところ特別好きなのはないけど映像鑑賞自体が好きって感じか。
実家や親友の護衛に行ってもらうとき、それぞれの好みに合わせて指定したほうがいいかもね。
わたしは映画の本編ドラマを探して再生した。……一年間全部だと五十話前後になるから、ほどほどで観るのをやめさせないとな。
お読みいただきありがとうございました。
次回はタロ君の日記です。