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26・モフモフわんことストロベリーポット

本日(11月10日)は三回更新します。

これは3/3回目(本日ラスト)です。

 ──スイーツを買ってお店を出た後、わたしは人気のないコンビニの裏手に回ってタロ君を召喚した。


「お待たせー」

(……待ったのだ)


 召喚にはDPやわたしのMPは消費されない。

 というか、モンスターの移動に関する消費DPは最初からダンジョンコアの消費DPに含まれているようだ。

 まあモンスターをフロアからフロアへ移動させるたびにDPが減っていたら大変だものね。


(……マスター、すぐって言ったのに遅かったのだ)


 不機嫌を隠さない念話が送られてくる。

 拗ねたタロ君も可愛いけど、よく考えれば産まれてまだ一週間も経ってないのにお留守番させちゃったんだから可哀相だったな、反省しないと。

 そもそも(アパート)でもトイレ以外は離れないしね。お風呂のときも寝るときも一緒な甘えん坊ダンジョンわんこです。


 ……冷蔵庫の買い置きがなくなったときの買い物は、どうしよう。


「ごめんごめん。園芸店でワゴン売りのストロベリーポットにひと目惚れしたんだけど時期のせいか単なる売り切れか苺の苗がなくってね、スマホで調べたら種からでも育てられるって話だったから、コンビニへ苺が載ってるスイーツ買いに来たの」

(……苺って野菜なのか?)

「果実的野菜なんだってー。さて、帰ろうか。抱っこする?」

「わふ!」


 寂しい思いをさせてしまった代わりに抱っこして甘やかそうと思ったのに、タロ君は元気よく吠えて首を横に振った。

 口を開けた瞬間に落ちたリードをくわえ直して、わたしのところへ持ってくる。

 わたしはコンビニスーツをナイロン袋でぐるぐる巻きにして、ストロベリーポットを入れた園芸店の袋の上に置いた。空いた片手でタロ君が持って来てくれたリードを受け取る。


「そうだね、お散歩しよう!」

「わふわふ(するのだー)♪」


 よっぽど嬉しかったらしく声と念話が同時に返ってくる。

 わたし達は家へ向けて歩き始めた。

 途中で通った公園の前には、もう人だかりはできていなかった。DSSSの調査によって危険の少ないダンジョンだとわかったと発表されていたが、ドロップしたポーションの存在はまだ明かされていない。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「行きます」

「おう」

「「「……オォ……」」」


 黒い豆柴と三体のゴーストに見守られながら、わたしはちゃぶ台の中央に置いたストロベリーポットに両手のひらを向けた。

 わたしの手首には陶器の腕輪があり、ストロベリーポットにはコンビニで買ったムースの飾りだった苺から取った種がある。

 もちろんストロベリーポットの中の土もちゃんと購入して設置済みだ。


 さて──植物魔法発動!

 自分の中からなにか(魔力?)が腕輪に向かって吸い取られていく感覚の後、腕輪からなにかが溢れていくのがわかった。

 緑色の茎が伸びて葉が生えて、小さな白い花が咲いて、大きな赤い実が鈴生りになる。


「おおー!」

「「「……オォォオオオ!!……」」」


 タロ君とウメ子達が歓声を上げた。

 植物魔法が成功したら実った苺をみんなで分けようと思っていたので、ウメ子達には『隠密』を解かせている。

 自分のステータスボードを開いてみたら、MPが30減少していた。


「MP30でこんなに!」


 ストロベリーポットからあふれんばかりの苺は、旬のころでも高価な大粒ブランド品の苺に勝るとも劣らない。瑞々しくて艶々してる。

 量もパックふたつに詰めても余るくらいありそうだ。

 コンビニスイーツを飾ってた親苺、言っちゃ悪いけどそんなに美味しそうじゃなかったのになあ。冷蔵庫に入れてあるムースのほうは美味しそうなんだけど。


「これが苺!」


 タロ君は興奮してプルプルしてる。

 賢いし、ダンジョンマザーツリーのデータベースにアクセスしていろいろ教えてくれるから忘れちゃうものの、まだ生まれたばかりで未経験なことのほうが多いんだよね。

 犬バカマスターとしては、楽しいことばっかりいっぱい経験してほしいな。


 わたしは苺を何個か千切って、台所の流しで洗って皿に載せた。

 ちゃぶ台の前に戻って、一個つかんでタロ君に差し出す。


「はい、どうぞ」

「吾はボスモンスターなので、最初の一個はマスターが食べるべきなのだ」


 あー、(わんこ)は階級社会だった。

 本来の姿のオルトロスがα症候群になったら困るから、ここは言う通りにしておこう。

 そういえば食事のときもわたしが食べるまで食べないんだよね、タロ君は。


「じゃあお言葉に甘えていただきます。……ん! 美味しい!」


 口の中に果汁が広がる。

 甘さが濃厚ながらもしつこくなく、爽やかな酸味があった。


「タロ君も食べて」

「わかったぞ、いただくのだ。……美味しいのだ!」

「ウメ子達も食べてね」

「「「……オォオォォ……」」」


 タロ君は普通にカプッと食べたが、ゴーストのウメ子達は違った。

 黒い影が皿の上の苺に手のようなものを差し出すと、苺は一瞬で干からびたのだ。

 お供えした水やお酒が減るのと同じ現象かな?


「「「……オオオ、オオォォォ……」」」


 喜んでる、よね?


「もっと食べる?」

「「「……オォォ……」」」


 三体揃って首を横に振るけれど、ちょっとなにかを気にしている雰囲気がある。

 タロ君にプラスチックのお皿に載せた苺を渡した後で、わたしはゴーストに言った。


「ヒマワリやスズランと交代してくる? あの子達にも食べさせたいよね」

「「「……オオ!……」」」


 当たりだったようだ。


「じゃあウメ子は残って、モモ子はヒマワリとサクラ子はスズランと交代して来て」

「「「……オォォ……」」」


 ゴースト達は壁を抜けることができる。

 これは魔法スキルでも特殊スキルでもない、彼女達の持って生まれた(?)特徴だ。

 とはいえ、フロアモンスター設定だとほかのフロアには行けないのだが。


「ごちそう様なのだ!」


 わたしとゴースト達が会話している間に、タロ君はあげた苺のヘタまで平らげていた。


お読みいただきありがとうございました。

次回、タロ君の優しさがあふれる!

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