23・モフモフわんことウメ子モモ子サクラ子ヒマワリ、スズラン
本日(11月9日)は三回更新します。
これは2/3回目です。
ダンジョンでは記録機器が利用できない。
録音録画ができてもホラー映画の呪い映像みたいになる。
マスターになるまでダンジョンに興味がなかったのもあって、わたしはゴーストがどんな姿をしているのか知らなかった。
「できたのだ!」
「できたね!」
タロ君と作成した百体のゴーストが、エントランスに出現する。
DSSSと自衛隊の面々は、突然出現したゴーストに戸惑うこともなく冷静に戦闘を開始した。
このモンスターからもポーションが出るのではないかと期待しているのだろう。
人間に近い姿だったら嫌だなと思っていたが、ゴーストは黒い煙にしか見えない。
大きさは成人女性よりひと回り小さいくらいで、薄くて淡くて立体感に欠ける感じ。
ゴーレム戦を見たときと同じで、やっぱりゲーム画面を見ているような気分だ。
「マスター大丈夫なのか?」
「あ、いけない!」
慌てて説明書でゴーストのページを開いて、ドロップ品を設定する。
訪問者はこれ目当てでダンジョンに来てるんだもんね。
ポーション、ポーション……ゴーストは下級モンスターだから、ドロップ率は二十五パーセントで変わらないんだよなあ。
一昨日作った陶器の腕輪のドロップ率も二十五パーセントだった。
……うーん。防御が五パーセント上昇して大地属性の魔法耐性小がつくって、どれくらい役に立つものなのかな。
とはいえ三回しか使えないし、やっぱりポーションのほうがいいよね。
それから召喚。
タロ君みたいにレベルの高いボスモンスターなら思うだけで呼び出せるけど(大学が始まったら変なところで呼び出さないよう気をつけなくちゃ)、ゴーストはそうはいかない。
ゴーストのページで召喚の単語をタップして、何体呼び出すか設定する。
【ゴーストを五体召喚します】
【YES/NO】
『YES』をタップすると、一瞬でゴーストがボス部屋に現れる。
この子達と戦ってたDSSSと自衛隊の人、急に消えて驚いただろうな。
現れた五体のゴーストは、ものすごい速さでわたしから遠ざかった。
「ふえ?」
「結界張ってるから、この部屋からは逃げられないぞ」
「逃げ……わたしから逃げてるの?」
「当たり前だぞ。マスターはこのダンジョンの主、いわば神。吾のようなボスモンスターでなければ、恐ろしくて側に寄ることもできないのだ」
タロ君はドヤ顔。
「え、じゃあどうしたら……」
「名前をつけたらいいのだ。名前をつけたら特別なモンスターになるからマスターの近くにいられるようになるぞ」
なるほど、ユニークモンスターか。
名前……名前ね。護衛を頼むんだから、忍者みたいなのがいいかな?
影とか闇のつく……うん、中二病全開になるね!……普通の名前にしよう。
わたしはボス部屋の端で震えているゴースト達を指差した。
「ウメ子! モモ子! サクラ……子!」
タロ君はちらりとわたしを見たが、特にコメントは挟まなかった。
五体も考えないといけないからテーマを揃えたほうがいいかなと思っただけで、今は亡きサクラ(享年二十歳・ミニチュアダックスフント)を重ねているわけではない。
……うん。サクラはサクラ、サクラ子はサクラ子だ。
「ヒマワリ! スズラン!……みんな、こっちへ来て」
「「「「「……オォオォォ……」」」」」
地の底から響いてくるような暗い声を放ち、ゴースト達は空中を滑るようにして近づいて来る。
こっ、怖くない! 怖くナイヨー。
黒い影はわたしの前で止まり、頭を下げるような仕草を取った。頭と胴体の区別つかないけど。
「初めまして。わたしがあなた達のマスターです。これからよろしくね」
「「「「「……オォオォォ……」」」」」
敬意を含んだ声が返ってくる。
こちらの意思は伝わっているし、向こうの気持ちもなんとなくわかる。
大丈夫、うん大丈夫。背中に回した手で掴んでいるオルトロスモードのタロ君の毛を離せないのはタロ君が大好きだからで、ゴースト達が怖いわけじゃないデスヨー。
「マスター、吾の毛を持つのはいいがグシャグシャにはしないでほしいのだ」
「……ごめん」
お読みいただきありがとうございました。
次回、ダンジョンに鳴り響く着信音?