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12・モフモフわんこをご近所さんに紹介するよ!

本日(11月5日)は三回更新します。

これは1/3回目です。


 用事を済ませ、わたしはタロ君を抱いて部屋を出た。

 麦わら帽子をかぶって家庭菜園に水をやっている大家さんと目が合う。


(はる)ちゃん、お出かけ?」

「はい。タロ君のものを買いに行きます。……ほかの買い物もあるので、ちょっと遅くなるかもしれません」


 ダンジョンのほうも見ておきたいからね。


「毎日暑いから熱中症には気をつけてね」

「ありがとうございます。大家さんも無理しないでくださいね」

「ありがとう。……タロ君を撫でてもいいかしら?」

「どうぞどうぞ」

「わふ!」


 そんな会話を交わしていたら、背後でカチャリと音がした。

 お隣の葉山さんがお出かけするのかな?

 振り返ると、葉山家の扉の陰から小さな顔が覗いていた。


「わんこだ! にいちゃん、わんこだよ!」


 葉山家の次男、二歳の冬人君が歓声を上げる。

 茶色いフワフワの髪をした、女の子みたいに可愛い男の子だ。


「こら、ふー。勝手に玄関開けたらダメなんだぞ」


 注意しているのは長男で五歳の春人君。

 黒くて硬そうな髪と、弟よりも凛々しい顔立ちが特徴。

 彼とわたしは漢字こそ違うものの、発音は同じハルハルコンビだ。


 大家さんもふたりに気づき、申し訳なさそうな顔になる。


「あらあら、ごめんなさい。朝あの子達に会ったとき、(はる)ちゃんのところにタロ君が来たことを話しちゃったのよ」

「かまいませんよ。昨夜のうちに葉山さんのお家にもご挨拶に行けば良かったですね」


 タロ君を撫でる手は止めない大家さんと話していると、頭の中に念話が響いた。


(マスター!)

(なぁに?)

(小さい人間がいる! マスターの子どもか? 吾が守るぞ!)

(春人君と冬人君はお隣の子ども、ご近所さんだよ)


「ふたりとも玄関の扉を開けてどうしたの? クーラーの冷気が出ちゃうわよ」


 葉山家の奥さんの声がしたので、わたしは大家さんに別れを告げてそちらへ向かった。

 奥さんはおっとりした感じの美人で、三十歳を少し越えている。


「おはようございます」

「おはよう、卯月さん。まあ、その子が大家さんの言っていたタロ君?」

「わんこだ!」

「わんこだな!」

「はい、そうです。色々あって飼うことになりましたので、これからよろしくお願いします。なるべくご迷惑はおかけしないつもりですが、なにかあったら言ってください」

「まあまあ、初めからペット可だとわかって入居しているんだから気にしないで。それにうちの子達のほうがうるさくてご迷惑おかけしてるでしょう?」

「そんなことないです」


 わたしは腰を落として、タロ君と春人君達の視線を合わせた。


「ハル君、ふー君。タロ君だよ、仲良くしてね」

「なかよくするー」

「うん、俺も仲良くするぞ」

「ハルちゃん、タロくんなでていい?」

「いいよ。でも後でちゃんと手を洗ってね」

「わふ」


 これだけはちゃんと言っておかないと。

 タロ君は魔力でできたモンスターだから大丈夫だけど、ほかの(わんこ)に対しても同じようにしたらいけないからね。


「なでなで」

「わふう」

「……」

「ハル君も撫でてあげて」

「うん!」


 わたしからお願いすると、ハル(春人)君は満面の笑顔でタロ君に手を伸ばした。

 ハル君はお兄ちゃんだからか、五歳なのにしっかりしていて我慢強い。

 たまに我慢し過ぎることがあると、葉山さんご夫妻が心配していた。


「ハルちゃん、タロくんだっこしていい?」


 ふー(冬人)君はいつも自由だ。

 タロ君を撫でていたハル君が残念そうな顔になる。


「ハル君が撫で終わるまで待ってね」

「わかった。ふー、まつ」


 自由だけれどお兄ちゃん思いで、ちゃんと待つこともできるふー君なのだった。

 あ、でもいつまでも小さいふたりが暑い外にいるのはダメかな。

 葉山の奥さんの顔色を窺う。なんとなくもの言いたげだが、これは……


「葉山さんもタロ君撫でてみます?」

「え、あ、うん……ありがとう。春人が撫でて冬人が抱っこし終わったら撫でさせてもらっていいかしら。お出かけするところだったみたいなのに、お時間取らせてごめんなさいね」

「こちらこそ、ご挨拶が遅れてすみませんでした」


 ペット可のアパートに入居するくらいなので、住人はみんな動物好きだ。

 ただ大家さんはお歳のため、わたしは学生の身のため、葉山家は小さい子どもがふたりもいるために、実際に飼っている家はなかった。

 わたしを含め、みんなご近所さんがペットを飼い始めることを期待していたのだ。


 葉山家は飼うつもりで引っ越してきたんだけど、うっかりふー君が生まれてしまったので動物どころではなくなったのだという。

 葉山家のお父さんは駅前のケーキ屋さんで働いていて、将来開くのはパン屋さんの予定だと、幼い兄弟が教えてくれた。

 この狭くて家賃の安いアパート(住み心地はいいです)に四人家族で暮らしているのは、大黒柱のお父さんがいずれお店を開くときに備えてお金を貯めているかららしい。


「うふふー、可愛い」

「かあちゃん、ふーとタロくんどっちがカワイー?」

「え? えーと……」


 嬉しそうにタロ君を撫でていた葉山さんに、タロ君を抱っこしていたふー君が尋ねる。

 ふー君が抱っこし終わるのを待ちきれなくて撫で始めた葉山さんは、困惑した表情で宙に視線を走らせた。


「じかんぎれー。せーかいはどっちもカワイーでしたー」


 ふー君、その正解ひどくない?

 そういえば、この時間にハル君を見るのは珍しい。

 わたしは、母と弟を苦笑しながら見つめている彼に尋ねた。


「幼稚園ももう夏休み?」

「ハルちゃん、今日は日曜日だぞ」


 これだから大学生は、と言いたげな顔で見られて、わたしはそっと視線を外した。

 大学もバイトもないと、曜日ってわからなくなっちゃってねえ。


お読みいただきありがとうございました。

次回はついに首輪を買います。

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