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50・モフモフわんこは赤ちゃんが欲しい。

「……タロ君はさー」

「なぁに?」

「タロ兄様がどうしたんですの、マスター」


 ダンジョンマスター生活五十一日目の夜。

 花火大会から帰ってパジャマに着替えたわたしは布団の上を転がりながら、同じように転がっているタロ君に尋ねた。


「わたしが鷹秋さんとつき合ってもいいの?」

「いいのだ!」


 いいのか。

 ちょっとくらいヤキモチ妬いてほしかったな。

 サクラはよその犬を触って帰ると、すごく怒ったよ? コンビニの袋に頭突っ込んでたんだよ? 違う、それヤキモチじゃなくてコンビニで買った食べ物目当てだ。


「ニコちゃんも?」

「タロ兄様が良いのなら、ニコも良いのですわー」


 そうなのか。

 タロ君はすごく嬉しそうな顔をして、わたしを見上げる。

 ニコちゃんも一緒に見上げてくる。


「マスター。いつ赤ちゃんできるのだ?」

「え?」

「男とつき合ったら赤ちゃんができるのだろう? 赤ちゃんができたら吾が守るのだ! マスターの赤ちゃんを守ったら、サクラと同じなのだ!」

「ニコも! ニコも赤ちゃん守るのですわー!」

「ええー」


 なに言ってるんだ、この(わんこ)ペア。

 赤ちゃんのわたしと一緒にいるサクラの写真はニコちゃんにも見せていた。

 タロ君がサクラにライバル意識を抱いていることには気づいていたが、タロ君はわたしのパートナーでサクラはお母さんのパートナーなんだから比べてもしょうがないのに。


「できないよ。赤ちゃんを作るのは結婚してからだからね」

「いつ結婚するのだ? 明日?」

「明日ですの?」

「いや、鷹秋さんと結婚するかどうかもわからないし」


 なんだか押し切られてしまったものの、冷静に考えれば鷹秋さんはわたしにはもったいないほど好条件の人だ。

 公務員は辞めてしまっているけれど、これからのダンジョン時代に発展するだろうDSSSの開業時からの社員である。お給料は今でもかなりいいらしい。

 背が高くて細マッチョだし、顔も悪くない。……うーん。やっぱりタロ君とニコちゃん目当てかな。うちの(わんこ)可愛いからね。


「えー。だったら結婚する男とつき合うのだ」

「そうなのですわ」

「早く赤ちゃんを作るのだ」

「作るのですわ」


 一昔前のドラマに出てくる田舎の親戚のような発言をするボスモンスターを裏返して、お腹をモフモフしてやる。


「わふー」

「きゃふー」

「……花火大会楽しかった?」

「楽しかったのだ!」

「楽しかったのですわ!」


 ならば良し。


「帰りの車で食べた鈴カステラも美味しかったのだ」

「美味しかったのですわー」


 味を思い出しているのか、二匹は口をもぐもぐさせる。

 葉山家のみなさんには普通の犬ということになっているので、あげたのはハル君ふー君が千切ったかけらだけだ。

 自分用に買って帰って、明日ダンジョンで食べれば良かったなーなんて思いながら、なんの気なしにスマホをみるとメールが来ていた。乙女ちゃんからだ。あ、電話の着信音の設定方法聞くの忘れてた。


「メール?」

「メールが来たのですの?」

「そうだよー」


 電話なら、二匹はちゃんと静かに……はしないが、(わんこ)しゃべりをしてくれる。

 乙女ちゃんは想い人と上手く行ったようだ。といっても告白をしたとかではなく、売り子を頑張って褒められただけらしい。

 年の離れた幼なじみでもあるので、優しく頭を撫でてくれたのだという。


「乙女ちゃんに告白されて断る男の人とかいないと思うんだけど」


 理由があって、彼が三十歳になるまでは告白しても断られると決まっているそうだ。

 彼が三十歳になる二年後は、ちょうどわたし達が大学を卒業するころでもあるし、それまでにできるだけ好感度を上げておくというのが乙女ちゃんの戦法である。

 乙女ちゃんの想い人はわたしたちより八つ上で……あれ? 鷹秋さんと同い年か。


「……ぐー……」

「……くー……」


 BBQと花火大会で疲れたのか、わたしがメールを読んで返信している間に、タロ君とニコちゃんは寝息を立て始めていた。

 着信音の設定方法は、メールだとわかりにくいから今度会ったときに聞くことにする。

 わたしは電気を……体を起こすとお腹に顎を乗せてる二匹の眠りを覚まさせちゃうから、電気が消せない!


「……オォォぁぇォォオオ……」


 まだ魔法スキル『騒霊(ポルターガイスト)』を使えないレイスのプリムローズには電気を消せない。

 すまなさそうに謝ってきた。

 この子はちょっとぼーっとしてる。天然ちゃんっぽい感じだ。これから一緒に過ごしていったら、ほかの子みたいな特徴が見えてくるのかな。


 そうこうしてたら鷹秋さんからお休みメールが来たので、眠るタロ君とニコちゃんの写真を撮ってお返ししてあげた。

 彼のことも、これからつき合っていったらわかっていくんだろうか。

 とりあえず今はまだ、わたしがダンジョンマスターだということは話せない。


「ふわーあ」


 アクビが漏れる。わたしも今日は疲れた。

 実は帰りの車で眠っちゃったんだけど、それでもまた眠くなっちゃう。

 明日もダンジョン運営が待っている。今日余ったお肉をもらったから、ダンジョンでBBQ擬き(専用のコンロがない)をしよう。それはそれとして、アジサイの食いしん坊はどうにかしないとなー。


 アーサーさんとソフィアさんがいなくなったから、また『ダンジョン冒険者協会(ギルド)』のほうへ散歩に行こうか。

 鷹秋さんの仕事が早く終わる日は迎えに行ってもいい。

 恋人ってそういう感じだよね? 違う? 彼氏いない歴=年齢だったからよくわからないよう。


 ああ、でも商店街の唐揚げとコロッケは人生に欠かせないよねえ。

 ダンジョンの食材系モンスターのお肉って美味しいのかなあ? などと考えながら、わたしは眠りに落ちて行った。

 最近レイス達のおかげで涼しくてクーラー使ってないから、一晩照明をつけっぱなしでも電気代は上がらないだろう、うん。


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