49・モフモフわんこ、花火大会へ行く!
葉山家のファミリーカー、八人乗りのミニバンで隣町へ。
少し駐車場が心配だったけど、幸いなことに安くて会場に近いところが見つかった。
六人+二匹で砂浜へ向かう。二匹はリードを付けた状態で、タロ君はハル君、ニコちゃんはふー君に抱っこされている。人が多いから地面を歩かせてると危ないんだよね。
「わふわふ(人がいっぱいなのだ)」
「きゃふきゃふ(いっぱいなのですわー)」
タロ君が一緒なのと、ふー君に抱っこされていることでニコちゃんはおとなしかった。
知能の高いボスモンスターだから、初めて見る世界に知的好奇心を刺激されているのかもしれない。
立ち並んだ屋台からは美味しそうなソースの匂いが漂ってくる。
「ニコちゃ……」
「ぐるるっ!」
隙を見て頭を撫でようとする鷹秋さんに、ニコちゃんは冷たい。
「鷹秋は嫌われちまったなー。下心が見抜かれてるんじゃねぇのか?」
「兄貴っ!」
「よーし、良い子だ良い子だ」
「きゃふう」
葉山家のお父さん、夏樹さんに撫でられるのは平気なニコちゃんなのであった。
……下心? まさか二十歳の女子大生には二匹も犬は飼えないと思って、タロ君かニコちゃんを引き取るつもり?
でもDSSS調査員の鷹秋さんは忙しそうだから、犬を飼うのは無理じゃないかな。
一昨日の電話で言っていた通り、鷹秋さんは浴衣姿だった。
黒いストライプ。とてもよく似合っていて、いつも以上にボーダーコリーっぽい。
葉山家のみなさんは浴衣じゃないので、わたしと彼だけお揃いみたいだ。
「は、晴さん。浴衣、とってもお似合いです。赤とピンクの金魚の柄が可愛いですね」
「ありがとうございます。鷹秋さんも浴衣似合ってますよ。とってもカッコいいです」
「あ、ありがとうございます」
高校時代の仲良し三人組で購入した浴衣は、わたしが金魚、真朝ちゃんが芙蓉(あら偶然)、玲奈ちゃんが種に毒のある朝顔だ。
金魚はちょっと子どもっぽいかと思ってたけど、鷹秋さんに褒めてもらえて嬉しいな。
そう言えばこの人、八つも年上なんだよね。わたし、馴れ馴れしくし過ぎてない?
「人が多いですね。あの……は、はぐれないように」
「はい、気を付けます」
うむ。やっぱり子ども扱いされているな。
だけど問題ない。プリムローズとヒマワリが『隠密』で姿を消して同行してるから、ハル君ふー君も大丈夫だ。
ふたりのことは抱っこされてる二匹も気にかけてる。
「わふわふ(春人のことは吾に任せるのだ)」
「タロ君良い子だな」
「きゃふきゃふ(冬人のことはニコが守るのですわー)」
「ニコちゃんはかわいくてキョーボーで、レナちゃんみたいなの」
なんでふー君は玲奈ちゃんの本質を見抜いてるんだろう。
いや、大事な親友なんだけどね。
六人+二匹で人込みを縫って歩き、砂浜のちょうどいい場所に陣取れた。
「あ、始まりますよ」
わたしの隣には鷹秋さんが立っている。
葉山家のお父さんとお母さんはハル君ふー君を守るように囲んでいる。
──シュルルルル、ボーン!
大きな音がして、空に色とりどりの巨大な花が咲く。
海にもその花が映っている。
タロ君とニコちゃんは怯えてないかな?
「わふ(これが花火。見るのは初めてなのだ)!」
「きゃふ(ニコもなのですわー)!」
良かった、楽しんでる。
「……晴さん」
「はい」
鷹秋さんが、なぜか真剣な声で言う。
わたし、なにか危ないことしてたかな?
彼は眉間に皺を寄せ、口元を手で抑えた。顔が赤いような気がするが、花火の光のせいかもしれない。
「……俺とつき合ってください」
「……はい?」
「ありがとうございます!」
「え、え?」
いきなり抱き上げられた。
ちょっと待ってちょっと待って!
さっきの『はい』は疑問で、肯定じゃない!
「良かったな、鷹秋」
「卯月さん、鷹秋君をよろしくね」
「ハルちゃん、アキちゃんを頼んだぞ」
「もしアキちゃんとおわかれしても、ふーにはやさしくしてね」
「わふわふ」
「きゃふきゃふ」
よく考えたら、どうしたって断れない状況じゃないだろうか。
鷹秋さん、もしかして確信犯?
「あのっ!」
「はい、なんですか。晴さん」
「……」
サンゴのダンジョンでのときみたいにわたしを抱いたまま、鷹秋さんが見つめてくる。
……この人、すごく犬っぽいんだよなあ。
もし影のマントを着ていたら、千切れそうなほど尻尾を振ってそうだ。わたしが言葉を探していると、嬉しそうだった彼の表情が曇っていった。
「えっと……地面に降ろしてください。抱き上げられた状態だと危ないので」
「はい……あの、俺、勘違いしてますか?」
彼の耳と尻尾が垂れた、ように感じた。
「……べつに、そんなことはないですよ」
「そうですか!」
そんなわけで、花火を見に行ったら彼氏ができました。
ダンジョンマスター生活と両立できるかな?