46・モフモフわんことdeja-vu
『お時間よろしいですか、晴さん』
『大丈夫ですよー』
鷹秋さんはまた休憩時間かな?
一昨日の電話も今くらいの時間だった気がする。
『お聞きしたいのですが、次の日曜日はおヒマでしょうか?』
「え?」
あれ? おかしいな。この会話、前にもしたことがある。
……deja-vu?
鷹秋さんも既視感に気づいたのだろう。慌てて補足してくれた。
『すいません。花火大会へ行く夜の話ではなくて、昼のことです』
「ヒマです、けど……」
「わふ?」
「きゃふ?」
わたしはタロ君とニコちゃんを見た。
鷹秋さんのお友達の用事に人が足りないのかな?
『ご安心ください。タロ君達と離れての行動をお願いするつもりはありません。先月のようにアパートの駐車場でBBQをしようと思っているんです』
「BBQですか」
「わふ(BBQか)!」
「きゃうんきゃうん(BBQってなんですの、なんですの)?」
スマホのスピーカー機能をオンにしてダンジョンの床に置き、騒ぐ二匹の頭を撫でながら聞いてみる。
「鷹秋さん、お昼はお友達のお手伝いをなさるんじゃなかったんですか?」
『それが平野……あ、友達がですね』
DSSSに平野さんっていたよね。
玲奈ちゃんと気の合うダンジョンオタクで、前うちのダンジョンで短剣をお手玉にしていた人。鷹秋さんと仲良いんだ。
ヒーローショーのとき言ってた『二次元に嫁がいるタイプ』って平野さんのことだったのかな? まあ同じ苗字のべつの人かもしれないけど。わたしの大学の友達にも平野君っているしね。
『その……せっかくなんだから一日一緒に過ごせよ、と言ってくれまして』
「鷹秋さん、ハル君ふー君と仲良いですもんね」
『あ、いえ、その……』
「わふう……」
「きゃふう……」
撫でていたら落ち着いて、わたしの膝に顎を置いてアクビした二匹を見る。
さっき唐揚げ食べたところだからお腹もいっぱいだよね。
後で乙女ちゃんのところへ行くとき起こすから、熟睡はしないで欲しいな。
「ふふふ」
『晴さん?』
「わかりましたよ。BBQのお肉でニコちゃんの関心を買うつもりですね? そのほうがいいかもしれません。ニコちゃんはタロ君より気難しいところがあるので」
『え、ええ、そんな感じです。ちゃんとA5牛肉も用意しました』
鷹秋さんは本当に犬好きだなあ。
「お友達の用事は大丈夫なんですか?」
『弟の友達に頼むと言っていました』
「……BBQですかー」
『どうしました?』
「実はわたし花火大会のときは浴衣を着ようと思ってるんですが」
高校最後の夏、卒業後は進路が分かれるから思い出を作ろう、と、玲奈ちゃん真朝ちゃんと一緒に買った浴衣をこっちに持って来てるんだよね。
思い出になるはずだった花火大会が突然のゲリラ豪雨で中止になったから、まだ新品の浴衣だ。
大学生になったら着る機会があるかと思ったんだけど……彼氏なし女子大生にそんな機会ないよね!
「BBQのときはお肉の匂いがついちゃうから、べつの服のほうがいいですね」
「わふ(お肉の匂い)?」
「きゃふ(お肉の匂いですの)?」
お肉の匂いという単語に反応した二匹の頭を撫でて、もう一度意識を奪う。
逆に眠らせて、寝ている間に出て寝ている間に戻って来たほうがいいかもね。
「……ぐー……」
「……くー……」
スマホの向こうから、どことなく弾んだ様子の鷹秋さんの声がする。
『晴さん、花火大会は浴衣で来てくださるんですか?』
「……気合い入れ過ぎですかね?」
『いいえ! その、嬉しいです。俺も浴衣で行きます!』
なんかすごい勢い。
鷹秋さんは和服推進派なのかな?
体も鍛えてるし、作務衣とかも似合いそう。
『俺もBBQのときはべつの服を着ておきます。花火大会で肉の匂いを漂わせていたら風情が台無しですからね』
「屋台は出てるみたいですよ」
『ソースの匂いならOKな気がしませんか?』
「ふふふ、そうですね」
などと話した後でスマホを切り、わたしは眠る二匹をサンゴに預けて神社へ転移。
乙女ちゃんがバイトしているメイド喫茶へ行くのだ。
転移しようとしていたら、アジサイに念話で尋ねられた。
(マスター、BBQってなんですか? お肉の匂いってどういうことですか?)
人間の死体を食べると体調を崩すスライムだが、ちゃんと料理された畜肉ならそんなことにはならないらしい。
だからといって、アジサイをアパートの駐車場で開催されるBBQに招くつもりはないけどね。