表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
111/127

39・モフモフわんこと家に帰るよ!

 真っ暗な海上をクルーザーが走る。

 ヘルメットや防護ベスト、プロテクターはもう外している。

 結構肩が凝った。毎日こんなものを着けているDSSSや自衛隊のみなさんは大変だなあ。もちろん警察のみなさんも。警察は機動隊だけだっけ?


「わふ!」

「よしよし。今日は大変だったねえ」


 わたしとタロ君は甲板にいた。手すりにもたれて陸地の明かりを見ている。

 ソフィアさんはアーサーさんと船室にいる。あまりに事態が重大過ぎるため、これからの行動について無線で本国と相談しているそうだ。

 同盟国への報告については岸隊長が自衛隊経由で日本の上層部に話を通し、許可を得ているという。


 ……なんか、大事(おおごと)になっちゃったなあ。


 カラスのサンゴ(いろいろ話し合った末、テイムすることになりました。スライムと一緒で無性です)が目撃されてしまったことと魔法スキルの『睡眠』をDSSSと警備の警察官に使ってしまったことを誤魔化すため、そしてダンジョンイーターによる危機を伝えるために話をさせたんだけど……うん、そうだよね。世界的な大問題だよね。

 とりあえず人間の死体をスライムが食べると弱っちゃうってことが周知されて、無茶な訪問者(ビジター)の規制やダンジョンでの犯罪取り締まりが活発になると嬉しいです。

 でも悪い人は反省も更生もしないだろうから、もっと抜本的な対応策が必要なんだろうなあ。……健康なスライムの移植とか?


「晴」

「玲奈ちゃん、平野さんとのお話はもういいの?」

「今夜チャットで話すわ」


 ダンジョン好きの玲奈ちゃんは、ダンジョンオタクだという平野さんと意気投合して熱く話し合っていた。

 連絡先も交換したようだ。

 岸隊長が今も無線で話をしているので、クルーザーの操縦は鷹秋さんがしている。船舶免許っていくつから取得できるんだろう。


 顔を合わせているほかのDSSSのメンバーは、今日のダンジョンのことは話題に出していないようだ。

 クルーザーの上なら情報流出の危険はなさそうだけど、なんか怖いよね。

 熱く語り合っていたのは玲奈ちゃんと平野さんくらいです。あ、さりげなく高原さんも混じってたな。


 里見さんはときどき見つめてくるんですが、ごめんなさい。

 特に相談することはありません。

 わたしは隣の手すりにもたれた玲奈ちゃんに言う。


「徹夜しないようにね」

「わふ」

「あら、たぶんするわよ。むしろ徹夜で話さないではいられないわ」

「確かにダンジョンファンにはたまらない状況だよね。今はほかの人には秘密にしないといけないし」


 クルーザーに乗る前に岸隊長が国の上層部とした話し合いで、わたし達は今回のことを口外しないよう誓わされた。

 ……あれ? もしかして港に着いても(アパート)に帰れない?

 黒服のSPに待ち構えられてたりしたらどうしよう。明日はサンゴのダンジョンに転移してニコちゃんを迎えに行きたいんですけど。


「でもダンジョン側からこんな声明が出されて良かったわ。そうじゃなきゃ、いつ日本に核ミサイルが落とされてたかわからないもの」

「核ミサイル?」

「わふ?」

「核で日本人を皆殺しにして、ポーションの出るダンジョンを奪おうとしそうな国あるでしょ? 公表はされてないけど、あの国ならダンジョンに核を落としたらどうなるかって実験もすでにしてると思うわよ。そして、たぶんダンジョンは核でも壊れない。とはいえ土地だけでなく住民がドロップアイテムに影響するのなら、核を落としても無意味だわ」

「うわー……」

「わふう……」


 ネット掲示板でも話題になってたっけ。

 さすがにないだろうとは思うものの、親友の口から聞くと危機感が半端ないな。


「古今東西独裁者は不老不死を求めるものだもの。ポーション、ミドルポーション、ミドルポーション+……次はハイポーション、最終的にはエリクサーがドロップするんじゃないかって噂されてるわ。死者を蘇らせたり老人を若返らせたりできないとしたって、すべての病気と怪我に対抗できるだけでもアドバンテージは大きいでしょう?」

「ミドルポーション+?」

「わふ?」


 わたしはダンジョンで放出したから知ってるけれど、まだ存在は公表されてないんじゃなかったかな?

 いや、ポーション自体まだだっけ。目の前でカラスと岸隊長が会話してたから、ここにいる人間には公然の秘密と化したけど。まあDSSSの人はみんな知ってるか。

 玲奈ちゃんは、しまった、という表情の後で微笑んだ。


「……ネットってすごいわよね」

「あんまり妙なところにアクセスしないほうがいいと思うよ」

「わふわふ」

「大丈夫よ。ちゃんといくつものサーバーを経由して……ふふっ」


 笑って誤魔化したつもりかもしれないけど、いくつもサーバーを経由して発信元を辿れないようにするって犯罪者側の行動じゃない?

 玲奈ちゃん、国の重要機関のデータベースに無断アクセスしたりしてないよね?


「わふわふ」


 わたしは腕の中でそっと見上げてくるタロ君を抱き締めた。

 モフモフの温もりが、親友への疑いから生じた疲労を溶かしてくれる。……わたしもダンジョンマスターだってこと隠してるけどさあ。

 日本が核ミサイルで攻撃されなくなるんだとしたら、今回の行動はこれで良かったのかな? 本当はポーションが出るのは前に入った人たちのおかげってことにしたら、怪我をした自衛隊員やDSSSのメンバーにポーションが行き渡るかと思って言ってもらったんだよね。


「あの映像、世界に公表するのかな」

「わふ?」

「するでしょうね。隠匿して得することはなにもないもの。フギンの言葉(テレパシー)はフォッグ氏にもミズ・カロンにも理解できていたし、録画されていた映像にも音声の無い言葉(テレパシー)が保存されていたわ。ネットを通したらどうなるのか実験した後に、国が直接配信するんじゃないかしら」

「なるほど」

「わふふふ」


 港に着いたクルーザーは、わたしの妄想通りSPと思しき黒服の集団に迎えられたのだった。

 あ、でも口外しないという誓約書にサインしただけで(アパート)に帰してもらえたよ。

 ここ最近のダンジョン関係の変化は激し過ぎて、国としてもある程度は流していくしかないんだろうって玲奈ちゃんが言ってた。……うん、まあわたしのせいですね。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ