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36・モフモフわんことアジサイの進化

(参りました、マスター!)


 代表スライムのアジサイを召喚したら、ほかのスライムも一緒に来るんじゃないかと期待していたが、そんなことはなかったよ。

 わたしはアジサイを抱き上げて、暴れるフェンリルを見せた。

 よく考えると、なんでわたし達に襲いかからないんだろう。カラスがいるからならいいけど、ダンジョンイーターの攻撃が辛過ぎて周りのこともわからないんだったら、早く助けてあげたいな。


「来てくれてありがとう。あのダンジョンイーター、アジサイだけで食べ切れる?」

(今は無理です!)

「……だよね。じゃあほかの子も連れてくるから、ここで待っててくれる?」


 アジサイはクッションサイズだもんね。

 とりあえずここで『転移』の目印ポイントになってもらっておこう。


(お待ちください、マスター。今の私では無理でも進化したら可能だと思います)

「進化……するの?」

(できると思います!)


 言われてステータスボードを見てみると、スライムという種族表示の横にあるレベルアップバーが満杯になって点滅していた。

 ヒマワリのときと同じだ。


「スライムってほかのダンジョンモンスターとはべつで、ダンジョンマザーツリーにも制御できないんじゃなかったっけ? それは変異(レア)種だけ?」

(マスターにテイムされた時点で、マスターの能力の管理下にありますよ?)

「……考えてても仕方がないか」


 水によって炎が消えるように、不変の法則があるのだろう。

 きっとすべての存在は進化するか変異(レア)化するかレベルアップするのだ。

 ダンジョンマスターになったことで、わたしはそれに関与できるようになった。そういうことで納得するしかない。


 わたしは点滅するレベルアップバーをタップした。


【『スライム』を『マザースライム』へ進化させますか?】

【YES/NO】


 『YES』へと伸ばした指が止まる。


「ん? マザースライム? スライムは分裂で増えるんだよね? 無性だし」

(はい。普通なら分裂で子株を一体生み出します。ですがマザースライムは、これまでよりも多くのMPを体内に蓄積することで一気に多くの子株を生み出すことができるのです。本能……種族的な記憶でわかります)


 スライムには体内に蓄積できるMPに限界があり、一定値を超えると自動的に分裂するか体内に薬草を生成するかしかないのだという。

 マザースライムには、その限界がない。

 タロ君の『MP譲渡』も利用すれば、あのダンジョンイーターを食らい尽くすくらいのスライムを一気に生み出せる。ちなみにマザースライムが生み出すのは普通のスライムだけだ。


「……ひゃうううぅぅん……」


 フェンリルの声が弱弱しくなり、毛並みに混じって蠢いていたダンジョンイーター達が前より長く太くなった気がする。

 わたしは『YES』をタップした。

 アジサイは光り輝いて、


【アジサイ/0歳/無性/マザースライム/代表スライム】


【HP:10】

【MP:50】

【状態:健康】


【攻撃:G】

【防御:G】

【魔法攻撃:G】

【魔法防御:G】

【集中:G】

【敏捷:G】

【魅力:G】

【精神:G】


【光属性:G】

【闇属性:*】

【炎属性:*】

【大地属性:*】

【風属性:*】

【水属性:*】


【魔法スキル:発光】

【特殊スキル:分裂(MPを消費)・発芽(MPを消費)・超分裂(MPを消費)】


「変わってない?」


 アジサイは無性のままだった。マザー=女性という考え方は古いのか。

 しかしパラメータも上がっていない。

 いや、特殊スキル『超分裂』が増えていた。


(ではタロ様、『MP譲渡』をお願いします。分裂に必要なMPが前より下がっておりますので、2000MPで二百体ほどの子株を生み出せます!)

「わかったのだ! 『MP譲渡』!」


 言葉の通りアジサイは、タロ君の『MP譲渡』を受けて大量のスライムを生み出した。

 アジサイは白くて淡く輝く光属性スライムなのに、子株は光属性スライムだけではなく緑色で風を起こす風属性スライムと湿気を漂わせる青い水属性スライム、体内で炎を揺らめかせる赤い炎スライム、ほかの子より粘力のある黒い大地属性スライム、薄紫で今にも影に溶けそうな闇属性スライム、表面が苔のようになった植物属性スライム、凍てついた冷気を放っている白銀の氷属性スライム、体内に黄金色の光を内包した雷属性スライム──って、多い!

 この子達は生まれたときからわたしの配下らしく、簡単にステータスボードを確認できた。


(タロ様の闇・大地・炎属性の魔力そのままの子株と、私が反転させた光・風・水属性の子株と、それらが混じった混合属性の子株です。私がもっと進化したら、さらに多くの属性の子株を生み出せるでしょう)

「まだ属性があるの? ああ、そういえば時空属性はすべての属性の混合だったね」


 時空属性のスライムに力を借りたら、『アイテムボックス』か『インベントリ』、はたまた『マジックバッグ』みたいな付与効果を持つアイテムコアが作れるようになるのかな。

 とか、考えていたら、


「ええっ?」


 緑色の風属性スライムが風を起こし、おそらく光と炎属性のスライムがそれを強化し(魔法スキルではなく、たき火の上に風が起こる感じ?)、生まれたばかりの子株スライム達が浮かび上がった。

 そして一斉にダンジョンイーターへと襲い掛かる。

 いや本当に、全身にスライムが張りついたダンジョンイーターの姿は哀れでしかなかった。怖い、見てるだけでなんか怖い。


(胃液を出して溶かして食べます)

「弱ってると胃液の溶解力も落ちていて、ダンジョンイーターを食べられずに寄生を許してしまうのだ。寄生した後のダンジョンイーターはスライムの体内の魔力を歪め、胃液を体の外に排出させるようになるのだ。最終的にダンジョンイーターはスライムの中の魔力をすべて吸い取り、体外に出る。そのころにはほかのモンスターからも魔力を吸い取れるくらい強くなっているのだ」


 タロ君がダンジョンマザーツリーのデータベースにアクセスして教えてくれる。

 異世界といってもいろいろらしいから、研究が進んでいるところと研究すらしていないところがあるんだろうな。

 ……ん? 胃液って要するに酸だよね? それにちょっと前、タロ君が「人間の死体などを食べて弱ったスライム」って言ってなかった?


 などと考えている間にダンジョンイーターはスライムによって食べ尽くされたのだけど、フェンリルは暴れ続けていた。


「ぐるるるっ!」


 ダンジョンイーターがいなくなったからか、フェンリルがこちらに気づく。

 漫画でいうところのハイライトのない銀の瞳がわたし達を映す。

 フェンリルを倒せば氷の剣(アイスソード)が手に入るけど、あれをゲットすると殺されて髪の毛が薄くなるって聞くよね。それになにより、わたしは(わんこ)を倒したくない。狼は(わんこ)の仲間!


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