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35・モフモフわんことダンジョンイーター(虫注意!)

「今のってフェンリルの声?」

(は、はい。残した一体というのがフェンリルなのです。マスターが精魂込めて作った氷の剣(アイスソード)ごと消してしまうのが忍びなくて)

「怯えた声だったのだ!」

「うん。サクラが動くぬいぐるみを前にして、股下に尻尾を入れて後ずさってたときと同じ声だった。カラスさん、フェンリルになにがあったの?」


 カラスは困惑した表情で、ぷるぷると顔を左右に振る。


(わ、わかりません。このダンジョンにフェンリル以外のモンスターはいませんし、訪問者(ビジター)もあなた方だけです。ワタシが無事なのですから、ダンジョン入口の結界も破られていません!)

「……ダンジョンイーター?」


 目を閉じてダンジョンマザーツリーとアクセスしていたタロ君が呟いた。

 ダンジョンコアであるカラスは、ダンジョンマザーツリーとアクセスはできない。

 アクセス権は知識を求める魔女のマスターがダンジョンを運営することへの報酬だった。もちろんダンジョンを運営するため、モンスターに訪問者(ビジター)を助けるアイテムコアをドロップさせるかどうかはマスターの自由だ。


(ダンジョンイーターなら知っています。スライムに寄生する白い虫でしょう?)

「人間の死体などを食べて弱ったスライムに寄生するだけで、ダンジョンイーター自体は自然発生するのだ。弱っていないスライムにとってはただのオヤツなので、スライムが健康なダンジョンでは目撃されることはないぞ」

「このダンジョンのスライムは? フェンリルのところにはいるんだよね? うちのスライムもタロ君の魔力を反転して発生したって言ってたし」

(ボスモンスターは常に暴走しているものです。マスターがいらしたころは、訪問者(ビジター)に倒されて作り直された後にご褒美の肉などを与えられて喜ぶ姿も見ましたが、この五年間は倒されることもなく、そもそもマスターがいないので……)


 暴走が止むことはなく、ボス部屋のスライム達にも攻撃していたという。

 ……ううう。ダンジョンのシステムとはいえ、訪問者(ビジター)に倒されたときにだけご褒美をもらえるのか。胸が痛いよ。

 タロ君を見つめると、彼は頷いた。


「カラスさん、わたし達をフェンリルのところへ連れて行って」

「助けるのだ!」

(わかりました、『転移』します)


 わたし達は、カラスのダンジョンコアの力で最下層へと転移した。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 うちのダンジョンのボス部屋に似ているが、岩肌には無数の穴が開いていた。

 DSSSのライトは持って来ていないけれど、タロ君とカラスが発光しているので辺りの様子はよくわかる。

 タロ君の光は炎属性の魔気かな。うっすらと赤い。


「……タロ君、あの穴ってもしかしてダンジョンイーターが空けたの?」

「ん。普通ならスライムが塞いでしまうぞ」

「そうなんだ」


 目の前には、白銀の長い毛を振り回して暴れるフェンリルの姿があった。

 フェンリルも発光して辺りを照らしている。

 うわあ、モフモフしたい。……っ!


「ひゃうううぅぅぅんっ!」


 フェンリルが怯えた声を響かせた。

 それもそのはずフェンリルの白銀の毛に混じって、ぬらぬらとてかった白い虫がいる。


「フェンリルの魔力を吸って巨大化したのだな」

(ああ、ワタシはなにも気づかずに……)

「タ、タロ君、早く助けてあげて」

「できないのだ」


 すごく良いお返事が返ってきた。


「え?」

「ダンジョンイーターはモンスターから魔力を吸うので、攻撃しても力を与えてしまうだけなのだ。ダンジョンイーターを倒せるのは、健康なスライムだけなのだ!」

「そっかー……」

(ええっ? じゃあフェンリルはどうなるのですか?)

「タロ君、あの子がダンジョンイーターに倒されたらどうなるの?」

「ボスモンスターすら倒せるようになったダンジョンイーターは、力尽くでダンジョン入り口の結界を壊して外へ出ていくのだ。向こうでのスタンピード発生の主な原因だな」


 このダンジョンにはモンスターがいないから大暴走(スタンピード)は起こらない。

 だからといって放っておくつもりはなかった。

 異世界だとダンジョン外にもいるスライムがダンジョンイーターを捕食するらしいけど、この世界だと外にスライムはいないしね。ダンジョンイーターだけでも大事だ。


 ダンジョンモンスターはダンジョン外に生息するモンスターを複製(コピー)したものだという話は以前聞いていたが、スライムは逆にスタンピードのときなどにダンジョンから出たスライムが外で増えたのではないかと言われていたようだ。

 スタンピードはほかに、訪問者(ビジター)や敵魔法使いにダンジョン入り口の結界を破壊されたときにも起こったという。

 ダンジョンマザーツリーはマスターの選択基準に善悪を入れていないが、訪問者(ビジター)を集めるためのダンジョンモンスターを自らダンジョン入り口の結界を解いて外に放出してしまうような人間は論外だった。


「マスターがアジサイを召喚すればいいのだ」

「そういうことね」


 タロ君の言葉に頷いたものの……アジサイ一体じゃ足りないよね?

 ほかのスライムにも名前を付けておけば良かった。


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