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32・モフモフわんことクルージング

 顔合わせと本日の予定の確認が終わり、港に着いたのが九時半。

 そこから玲奈ちゃんの伯父さんのクルーザー(二十人乗り)で出発する。

 そっか。やっぱり玲奈ちゃんの伯父さんのクルーザーで行くんだな。まあ元々過疎化で無人化した島にできたダンジョンだから、定期船(フェリー)の航路には入ってないもんね。


 小さな島がいくつも浮かぶ海域で、目的地まで三十分ほどの船旅(クルージング)です。

 モンスターがいないダンジョンとはいえ、なにが起こるかわからないので、DSSSのみなさんは甲板や船室で透明の覆いがついた灰色のヘルメット、同じ色の防護ベストと各種プロテクターを装備していく。

 わたし達も里見さんの指導で装備。里見さんが防護ベストを着込むと胸が目立たなくなって、玲奈ちゃんの瞳から殺意が消えたから良かったよ。うん、本当に良かった。


 DSSSは武器のアイテムコアも装備するけれど、それはあくまでダンジョン内だけでの特例。玲奈ちゃんがどんなに頼んでも、船上では取り出しません。

 民間開放が始まっても、ダンジョン外での使用は厳しく禁止されるだろうとのこと。

 でも武器でなければいいので、玲奈ちゃんの『魔眼』の付与効果付きアイテムコアと高原さんの『鑑定』付きアイテムコアは取り出してくれた。


 高原さんは興味深そうに玲奈ちゃんのアイテムコアを見る。


「雨崎さんが購入されたアイテムコアはオペラグラス型なんですね。戦闘中に使うのは難しそうですから、偵察時にモンスターの能力を感知するものでしょうか」

「かもしれません。アイテムコアって、どうしてこんな形でこんな機能を持っているんでしょうか」


 それはこの世界のダンジョンが、異世界から挿し木(コピー)されたものだからです。

 異世界のダンジョンマスター達が訪問者(ビジター)を集めるために思考を凝らして、人気の出そうなアイテムコアを作り出したんだと思いますよ。


 などと言えるはずがない。

 『言語理解』の力で国内外のダンジョン研究サイトを回っていたら、ネット小説やゲームの影響か真実に辿り着いてるっぽい予想もあったけど、この世界の人間は魔法使えないから証明ができないんだよね。

 モンスターコア、アイテムコアの研究は進められているが、見えていて触れられて重さを感じるにもかかわらず、現代科学はそれらのものが「存在しない」と答えを出すのだという。ダンジョン外なら写真も撮れるんだけど、そこら辺はどういう扱いなのか。心霊写真みたいな感じ?


 ウソ、本当、フェイク、引っかけ──ネットの情報は多種多様過ぎて、読めば読むほど混乱していく。

 というか、どんなに情報を集めたところで、うちのダンジョンをどうするかの最終決定を下すのはわたしなんだよね。

 どんなに頑張ったとしても、ほかのダンジョンのことはどうしようもないし。


「雨崎さん、もしよろしければダンジョンで、私達の防具を『魔眼』で確認していただけませんか?」

「かまいませんわ。私のほうも高原さんに『鑑定』していただきたいものがあるんですが」


 玲奈ちゃんが、ちらりとわたしを見る。……ん?


「友達に作ってもらったマントなんですけど特別な材質で、作った本人も詳しいことがわからないので、『鑑定』ならなにかわかるかと……」


 れ、玲奈ちゃん! そんなこと考えてたの? わたし、そんなに怪しかった?

 高原さんは苦笑した。


「見るのはいいんですが、うちのアイテムコアはそれほど性能がいいわけではないので詳しい材質まではわかりませんよ」

「そうなんですか」

「むしろ雨崎さんの『魔眼』でご覧になられたらどうでしょう。重火器が効かないモンスターの攻撃を防具が防げるのは、私達の信頼が防具に魔力を与えているからだという説があります。実際私達が使っている防具も、回を重ねるごとに防御力が増している気がするんです」


 しかし『鑑定』で見てみても、この世界のものだからか、なにも見えないのだという。


「『魔眼』なら魔力が籠っているかどうかがわかるでしょう。お友達が作ってくれたマントなら、きっとお友達の思いとあなたの喜びが宿って強い魔力になっていると思いますよ」

「そうなんですか……」


 玲奈ちゃんは残念そうだった。

 (シャドウ)のマントのこと、わたしが近所のダンジョンにこっそり忍び込んでゲットしたアイテムコアだとでも思ってたのかな。

 ところで──


「……タロ君、はあはあ、タロ君……」

「落ち着いてください、ミズ・カロン」

「ベタベタしたら、また吠えられるぞ」

「……ううう……」


 同行するなら仕方がないと、タロ君へのなでなでを許したらエスカレートし過ぎてタロ君に吠えられたソフィアさんは、本人の意思で鷹秋さんとアーサーさんに拘束されている。

 拘束の代償として、タロ君が見える位置にいることだけは許可してあげた。

 腕の中のタロ君が心配そうに見上げてくる。


「わふう?」

「タロ君は悪くないよ。タロ君が嫌がってもベタベタしてたソフィアさんが悪いんだから」

「わふう……」


 でもずっと見られているのも、それはそれでストレスなのだろう。

 ダンジョンではリードをつけて歩かせようと思っていたのだけれど……いろいろ考えているうちに、クルーザーは島に着いた。


「……監査員の方々をおしゃべりで楽しませる役目を高原さんに取られた……」


 防具を装備した後も近くにいたけれど、ほとんど会話に加わってこなかった里見さんが落ち込んでいる。


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