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31・モフモフわんこと旅立ちの朝

 ダンジョン生活四十四日目。


 朝五時に起き、六時の始発電車に乗って一時間かけて隣町に来たわたしは、ホテルのカウンターで事情を話して玲奈ちゃんの部屋へ起こしに行った。

 部屋番号はちゃんと聞いていたので、ホテルの人が個人情報を漏らしたわけじゃないよ。わたしが来ることは玲奈ちゃんが伝えていたしね。

 タロ君をキャリーバッグから出す。


「……晴。眠い、滅茶苦茶眠いわ」

「時間があればダラダラしてても大丈夫だけど、集合時間八時でしょ。六時より前の電車がなくてギリギリだったんだから、とっとと起きて」

「わふわふ!」

「んー」

「シャワー浴びてる間に、備え付けのポットでお湯沸かしてお茶淹れておいてあげる。昨日パウンドケーキも作って来たよ」

「わーい、晴大好きー……むにゃむにゃ」

「寝ないで」

「わふ!」


 昨日もヒマだったんだからダンジョンへ行った後で隣町こっちへ来て、ツインのこの部屋に一緒に泊まらせてもらえば良かったのかもしれないが、


(玲奈に抱っこされて寝るのは嫌なのだ)


 と、一昨日彼女に抱き締められて眠ったタロ君が言うので。

 いつもの甘えん坊だけじゃなくて、玲奈ちゃんの胸は、その、ちょっと硬い、のだ。

 そんなことを思い出していたら、バタン、とシャワールームの扉が開いた。濡れ髪の玲奈ちゃんがこちらを睨みつけてくる。


「晴? 今なにか言った?」

「なにも?」

「わふふ!」

「そう、ならいいわ」


 シャワールームの扉が閉まる。

 胸のことは本人も気にしているのか、周囲が考えに上げただけで察してしまう。……すごく怖い。


「ホテルに置いてあるティーバッグはいい匂いだねー」

(タロ君も迂闊なこと考えないよう気をつけてね)

「わふわふ」

(気をつけるのだー)


 わたしとタロ君は、お茶と持ち込みのパウンドケーキを用意して玲奈ちゃんを待った。


「「……オォオゎぃォオオ……」」


 濡れ髪の隙間から覗く目で睨みつけてくる玲奈ちゃんの姿は、ボタン達が見ても……え、ホラー好きのボタンが?……ともかく、怖かったようだ。

 もちろん二体は『隠密』を発動している。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「バナナとチョコのパウンドケーキ美味しかったわ。オヤツの時間はなんのパウンドケーキ?」

「もうないよ」

「えー」

「わふわふ」

「持ってくるのも重いから仕方がないわね。昼食はDSSSが用意してくれるみたいよ」

「へー」

「わふー」

「ところで帽子は?」

「まだできてません」

「あらそうなの? 残念だわ。晴も今日被ってくれば良かったのに」


 などと話しながらロビーへ向かう。

 わたしと玲奈ちゃんはDSSSの女性調査員用の黒い上下を借りて着ている。

 ヘルメットや防護ベスト、プロテクターは船の中で渡してくれるそうだ。モンスターがいないといっても、なにがあるかわからないからね。


 エレベータを降りると、わたし達と同じように黒い上下を着た集団がロビーに集まっていた。

 全部で十二人。

 ダンジョンで見たかもしれないが、鷹秋さんのような知り合いではない。


「おはようございます、雨崎玲奈です」

「お、おはようございます、卯月晴とタロです」

「わふ!」


 玲奈ちゃんが一瞬でお嬢様の顔になって挨拶したので、隣でわたしもお辞儀した。

 タロ君もキャリーバッグの中で元気にご挨拶できました。

 わたし達に顔を向けた人は両親くらいの年ごろで……うっすら覚えてる。初日からしばらく来ていた隊長さんかな?


「おはようございます、雨崎さん。私がDSSS社長の岸正道です。そちらがお友達の卯月さんとペットのタロ君ですね」

「そうです。本日はよろしくお願いします」

「お願いします」

「わふふ」


 岸隊長は、わたし達にメンバーを紹介してくれた。

 アイテムコアの持つ『鑑定』の付与効果を一番引き出せるという高原さんも初日に来ていたひとりじゃないだろうか。

 タロ君によると、高原さんは無意識にアイテムコアへ魔力を注ぎ込んでいるのではないかということだ。そして──


「平野風太です」


 あ、この人、短剣をお手玉みたいにしてた人だ。

 ほか九名のうち、三名が女性だった。

 わたし達に気を遣ってくれたのだろう。


「里見芹香です。なにか困ったこと……トイレとか……あったら、こっそり私に教えてくださいね」


 おかっぱがよく似合う、小柄で胸の大きな女性がわたし達の世話役らしい。

 ……あっちのスリムな人のほうがいいんじゃないかな。

 ちらちらと里見さんの胸に殺意を込めた視線を投げながら、玲奈ちゃんが口を開く。


「昨日は全部で十五人が同行してくださるとお聞きしていたのですが」


 岸隊長は申し訳なさそうな顔になった。


「申し訳ありません、残りの三人は……」

「遅くなってすみません。葉山鷹秋ただ今……晴さん?」


 エレベータから降りてきた鷹秋さんがわたしに気づいた。

 あれ? 鷹秋さんはアーサーさんの案内役じゃ……


「ハールぅー! 久しぶり会いたかっ「タロくーん!」」


 アーサーさんとソフィアさんもいた。

 ソフィアさんはああいう人だからともかく、一度会っただけなのにアーサーさんのフレンドリーさはすごいな。

 思いながらわたしは、玲奈ちゃんの背中に隠れた。だってタロ君がものすごくウンザリした顔してたんだもん。


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