やっぱり全部太陽のせい
そして、約1時間後。
俺と孝太は、雑賀しおりと名乗る女の子を部屋に残して、近くの喫茶店で密談を始めていた。
しおりの説明に納得した幸美は、とりあえず出社していった。
話の内容は最近よく聞かれるようなことだった。
要は、母親が再婚した父親との折り合いが悪く、つまらないことからケンカして着の身着のまま家を飛び出してきたというものだ。
夜中に盛り場をふらついていたところを、俺が心配して一晩泊めることにしたというわけである。
衣服がないのは、大雨の中をこけつまろびつしながら走ってきたために、二度と着られないほど汚れて破れてしまったからだということになった。
下手に警察などに通報されると話がややこしくなる、自分で両親に連絡を取って帰るという涙ながらの訴えに、幸美も根負けしたのだった。
だが、作り話は所詮作り話である。
対応を誤れば、こちらの人生に関わる。俺は、自分なりに真剣に考えて、孝太に相談した。
「本当に届けるか」
「なんかしてたらどうすんだよ」
ぶっきらぼうに答える孝太だったが、俺の目を真っ直ぐに見ていた。
俺は言い切った。
「何もしてない」
「本当に?」
「オレがそんな男に見えるか」
鼻で笑う孝太に、ついムキになる。
孝太は、俺の肩を叩いて言った。
「見えるから言ってんだろ」
顔は笑っているが、目は笑っていなかった。
誰も信じやしないぞ、と言っているかのようだった。
断言できる、と強く言うと、「あの泥酔状態でか?」と軽くかわされる。
あの子だって何にも、と言いかけると、孝太は人差し指を俺の目の前に立てて諭した。
「一つ、罠のおそれ。今は身の安全を確保して警察で本当のことを話すつもり」
ごくりと生唾を飲み込む俺にニコッと笑って、中指を立てる。
「二、お前に惚れた」
「ま、まさか」
俺にその趣味はないとはいえ、あんな可愛い子に好意を持たれて悪い気はしない。
だが、続く声は重く低かった。
「その場合、追い出せば、最悪の場合、逆恨みされてあることないことぶちまけられ、お前は捕まる」
そして薬指を立てて畳み掛ける。
「三つ、強請るつもり。追い出せばやっぱり警察沙汰」
ということは……。
「あの子の本音が分かるまで一緒にいるしかないってことか」
孝太は席を立った。
ここの払いはきっちりワリカンな、と小銭をレシートの上に置く。
そして去り際の一言。
「決断はお前に委ねる。俺は関係ない」
俺は何も言わず、さっさと店を出てゆく後ろ姿を見送った。
こういう奴なのである、孝太は。
俺も店を出ようと席を立ったとき、携帯電話にメールが入った。
孝太からだった。「美味しいバイトの話は、また今度」……。
美味しいバイト……。
そういえば今朝、朦朧とした意識の中でそんなことを聞いた気もする。
だけど今、そんなことはどうでもいい。
何もかも、太陽のせいだ。