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夏の太陽が微笑みかける


 そのときだった。

 夏の夕陽が鉄の扉をぶち破り、熱風と共に飛び込んできた。

 俺と孝太を取り囲んでいた連中は、瞬く間に天井へと吹き飛ばされた。

 どさり、どさりと床に叩きつけられる身体、身体、身体。

 まっすぐに、影が伸びてきた。

 音もなく、歩いてくる。

 それが誰なのか、見ようとしても夕陽が眩しくて見えない。

 小柄な影だった。

 長い髪が揺れている。

 黒服が2人、何だお前と歩み寄り、手を伸ばした。 

 掴んだのは、細い両の腕である。

 その腕の一振りで、掴んだ男どもがもんどりうって倒れた。

 ラリッた連中が、わっと叫んで右往左往する。

 その群れをかき分けかき分け、黒服の男たちがやってきた。

 ひとり、またひとりと掴みかかり、殴りかかり、小さな影を取り押さえようとする。

 だが、その度に大きな身体が床に沈んでいった。

 大騒ぎしていた連中は、やがて静まり返った。

 固唾を飲んで、黒服たちが片端から倒されていくのを見つめている。

 襲い掛かる者は、とうとう誰もいなくなった。

 あちこちで、ひそひそ囁く声が聞こえる。

 口々に叫ぶ声がした。

「おい、女だ……」

「まだ子供だぞ……」

「やっちまおうぜ……」

 やっちまえ……?

「やばくねえ……?」

「俺ら何人いると思ってんだよ……」

 女の子の影にぞろぞろと歩み寄る男たち。

 俺は手足がふらつくのをこらえて立ち上がった。

 孝太は、俺の足元で伸びている。

 やめろよ、と俺は連中の前に立ちはだかろうとした。 

 ものも言わずに突き飛ばされ、床に転がって強かに腰を打つ。

 その痛みで、目が覚めた。

 男どもの背中に、やめろ、と叫ぶ。

 聞く者はなかった。

 野獣がウサギに襲い掛かるときというのは、こんなものだろう。

 背中を丸めて、一斉にむしゃぶりつく。

 服の裂ける音が、微かに聞こえた。

 人の身体で、小さな山が出来た。

 やめろ、と俺は絶叫する。

 右に左に蠢く、男どもの背中の山。

 思い通りにならない、自分の身体がもどかしい。

 太く低い呻き声が、幾つも聞こえる。

 俺の目から涙が流れるのが分かった。

 呻き声が一つ聞こえるたびに、山は低く沈んでいく。

 ひとつ、またひとつ。

 沈んでいくというより、しぼんでいくというのが正しい。

 やがて呻き声は、聞こなくなった。

 男どもの身体は残らず、床に平たく広がっている。

 そのまんなかへんが、こんもりと盛り上がった。

 大きな身体が一つ二つひっくり返る。

 小さな影が一つ、身体を起こした。

 肩から胸にかけて引き裂かれているらしい服を押さえて肌を隠す。

 その姿には、見覚えがあった。

「しおり!」

 安心と驚きが一緒くたになって、俺の口からあふれ出た。

 夕陽を背に浴びたその影が、俺の声に答えてにっこり微笑んだように見えた。

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