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夏のホラー2019

恐ろしいホスピタル

作者: 索☆創

G注意。

虫も苦手な方は読まない方がいいです。

 グリグリグリグリと教卓の上でプリントに拳を押しつけて、紙の端を綺麗にずらした先生が数を数えながら一番前の児童に夏休みの予定表を配り終える。


「良し、後ろにまわせ。足りない人はいないな~?」


 若い男の先生は大学を出たばかりでクラスのみんなに人気があった。


「まだ時間あるな、何しようか」

 黒板の上にある時計は見えないので腕時計を確認して先生は教室をグルリと見る。


「ドッチボール!」

「鬼ごっこ!」

 元気のいい男の子が自分のやりたい事を叫ぶ。


「う~ん。この時間は体育館もグランドも他の学年が使ってるな」

 ちょっと声を小さくと前置きして先生は残念そうに首をふる。


「・・・・」

「ん、なんだ?」

 普段大人しい前髪が顔の半分までかかった女の子が何か言ってるのに気づいて、先生は耳に手を当てる。


「怖いお話がいい・・・」

 静かになったクラスの注目を集めた女の子が意外な提案をしてくる。


「怖い話?」

「怪談!」

「いいな」

「え、ヤダ」

「ビビりか?」

「こ、怖くネーし」


「怪談」「怪談」「階段」「怪談!」

 心底嫌がってる子供はいないなと、途中の変なアクセントに首をかしげて先生は静かにと唇に指をあてる。


「じゃあ、怪談な。恐ろしいホスピタル これはある病院、英語で言うとホスピタルで本当にあった怖い話です」

 先生が話し始めると窓の側の人がシャーっとカーテンを閉める。

 パチパチとスイッチに近い人がLEDの蛍光灯を消していく。

 勉強もこれぐらい積極的に動いてくれればとの思いは顔に出さないようにして、薄暗くなった教室で先生はなるべく低い声で話しを始めた。


 今から少し前の話しです。

 ある病院にピタルという少年が入院していました。

 変な名前? もしかしたら本当の名前ではないのかもしれませんね。

 とにかく、少年は入院していたのです。


 ある夜の事でした。


 少年はカサカサッ、カサカサッと部屋の中でする何か音で目が覚めました。

 気のせいかと目を閉じましたが眠れません。

 カサッとまた音がしました。


 パッと部屋の灯りをつけてもなにもいません。


 なんだろうと思いながらも少年は灯りを消して横になりました。


 カサカサッ、カサカサッ。


 やっぱり音は聴こえます。

 部屋の中で自分以外の物が這い回るように。


 『なんだよもう。うるさいな!』


 少年はまた部屋の灯りをつけました。


 『こんどこそ突き止めてやる』


 少年は探しました。

 ベッドの下、セントラルヒーテイングのでこぼこした金属の間、嫌だけど冷蔵庫の下も。

 想像したナニカがいそうなところは全て。


『いないな?』


 カサカサッ! カサカサッ!


 呟いた少年の後ろで音がしました。


 そう、お見舞いで貰った食べかけのお菓子の透明な袋の中に大きなヤツはいたのです!


「うわぁぁあ!」

「キャー」

「ゴキ?」

「ゴキブリ?」

「御器かぶり!」


 うん、掴みは上手く行ったと耳を塞いでいた子が隣の子に何か聞いてるのを見ながら先生はまた話し始める。


 少年は勇気を出して、ヤツが出てこれないように袋の口を閉じ、そのままエイヤッと開けた窓から放り投げました。

 窓から物を捨てるのはいけない事ですが、朝になったら看護師さんと拾いにいけばいいやと、ひと安心した少年は灯りを消してベッドに横になりました。

 

 カサッ 小さな音がします。


 今度は窓の外から音がします。


 カサリ、カサリと開いてる窓はないか、空いてる隙間はないか探してる音がします。


『どっかいけよ! もう食うもんないぞ!』

 少年は袋の中にいたヤツの大きさを考え無いようにして、怒鳴ると布団をかぶりました。


 カサッ、カサカサ、カサカサッ!


 まだあの音がします。


 今度は廊下の奥から。


 カサリ、カサリ、少年の部屋に段々と近づいてくるように。


『あっちいけよ! くんな! くんな!』


 暑くなっていく布団の中で少年は耳を手で押さえます。


 カサカサ、カサリ。

 

 耳を塞いでいるのにまだ音がします。


 今度は部屋のドアの前で止まりました。


『開けるな、入るな!』


 ドアの下に隙間が空いていたのを思い出した少年は、もう音が聞こえないように耳の穴に指を突っ込みました。


 グチャ。右の耳の穴で何かが潰れる感触がしました。


『え、ナニ。これなぁに』

 恐る恐る指を抜くとベッタリと濡れていてそこにヤツの足が・・・


「キモィ、キモィ、キモィ」

「イヤーーー」

「ねえ、耳見て!」

「嫌だよ、こっち向けんな」


 良し、ここまでもいいな。後はオチだ。

 教室が静かになったのを確認して先生は話しのまとめに入る。

 

 次の日の朝少年は冷たいシーツの上で発見されました。


「え、死んだ?」「食べられた?」「ショック死?」



『もう、その年でおねしょ? 罰として屋上でシーツ干してきて』


 病院の職員さんに叱られた少年はシーツを洗ってもらって屋上に干しに行きました。


「死んでない?」「夢落ち!」「なんだよもう!」


『お兄ちゃんも干しにきたの?』

 屋上では少年より年下の子供もシーツをを干していました。


『今日は調子良くてね。お手伝いだよ』

 ベッドの布団を冷たくしたのをごまかして、少年はお揃いのシーツを隣に干しました。


 オソロ シー(ツ) ホス ピタル。


 おしまい。


「・・・」

「・・・」

「・・・」

「・・・」


 ミーン、ミンミン、ミー


 きん こん かん こん


 きりーつ、れい


 このお話は受けないと、今度の会議で報告しよう。

 先生は少し遠くの森から、セミの声の聴こえるまで静まり返った教室を後にした。

 

 

 昔は授業の時間が余ると恐怖の味噌汁とか、悪の十字架とか聞いたなぁと思いながら書きました。


 何でもいいかなと書いた怪談部分が意外に筆が走ったりしてビックリ。


 カサカサッ。

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― 新着の感想 ―
[一言] たしかに先生の怪談には、すこぶる怖いのと、こんなオチのものがあったことを思い、微笑ましく思いました。
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