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この子はあなたの娘です。  作者: 色川玉彩
第1章〜センジンノタニ〜
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微少女との邂逅

令和。

ツイッター▶︎飯倉九郎@E_cla_ss

 昼休み、幸司郎と子鹿は購買部に昼食を買いに行こうとしていた。

 ツバサが弁当を作ると言ったのだが、幸司郎はそれを拒んだ。ツバサに作らせると、張り切ったあまり高級食材を多量に使った重箱弁当を持たされるのは明白だったからである。幸司郎と共に本家で育った彼女は、それが例えメイドの立場であろうと、一般庶民の感覚とはほど遠いものなのだ。もう少し、彼女が一般社会というものを知るまで待とうという考えだった。

 一方子鹿は幸司郎が購買に行くというので、勝手に着いてきただけである。

 まごうことなく腰巾着だ。

 幸司郎は購買部に向かいながら、歩く子鹿の背中に貼り着いたガムテープを見て、こいつって冗談抜きで俺以外に友達とかいないんだろうなぁ、と思った。それでももちろん幸司郎にもそれを伝えるつもりは毛頭となかったのだが。というか今見るまで忘れていた程だった。

「おい、子鹿」

「んあ?」

「お前、背中にこんなの付けられてたぞ?」

 幸司郎は子鹿の服からガムテープをはぎ取って見せた。

「うわっ、何だこれ? 誰がやったんだよ……最悪……」

「酷い奴がいるもんだ。俺が今気付かなかったら、お前末代まで笑いものだったぞ」

 本気で落ち込む子鹿の背中を幸司郎は優しく叩いてそう言葉をかける。充分すでに笑いものだったろうなと思いながら。

「え、いや、さすがに末代まで引きづりはしないだろうけど……でも本当、危なかった。サンキューね、コウ」

「ああ、ジュース一本な」

「え、これだけでジュース奢るの?」

「……そっか……いや、悪かった。冗談だ」

 幸司郎はそう言って視線を落とし、すたすたと子鹿と距離を置くように歩いて行く。

 それを見て子鹿は慌てて幸司郎の後ろから詰め寄り、

「わ、わかった! ごめん、ありがとう! 奢る、奢るよ!」

「無理すんなって、俺もそんな下心で助けてやっただなんて思われたくはないんだ」

 掴まれた肩を幸四郎は引きはがそうとする。

「ちょ、ごめん。本当に、奢りたいんだ! ぜひ僕の感謝の気持ちをジュースを奢るという形で表現したいんだ!」

 そんな幸司郎の手を離さないようになんとか捕まえる子鹿。

「よし、じゃあサンドイッチもお願いするな」

「ああ! もちろんさ!」

 子鹿が喜々とした顔でそうガッツポーズを見せ、幸四郎はしてやったりと購買に向かって歩き出した。お金持ちのくせに、幸司郎はこういった部分に意外とせこかったりする。それは別に彼が守銭奴だとか言うわけではなく、ただ奢られたいだけだというのも子鹿にはよくわかっていたのだが。

 二人がそうして四階の廊下の曲がり角に差し掛かった時、ごん、と幸四郎の腹部に強い衝撃が走った。誰かが幸四郎にぶつかって来たのだと気づき、幸四郎がぶつかった衝撃で尻餅をついた少女を見下ろした。

「お前は……」

 そこにいたのは幸四郎たちと同じクラスの女子だった。

 肩ほどまでの整っていない髪に、目元が隠れるほどまで伸びた前髪。そして陰鬱な彼女に似合わない、大きくくりっとした瞳。入学式当日に、教室の中で幸四郎と目を合わせあったあの女子だった。幸四郎はその時に気にはなっていたが、名前も知らない。その後はあまりの存在感の無さに忘れていたほどだった。普段、いつも一人で立ち歩くこともなくジッと席に座っている彼女。その見た目通り、あまり明るい友達の多いタイプではないらしいことは知っていた。

その陰鬱な彼女が、今幸四郎の目の前で尻餅をつき、こちらを見上げていた。その髪の毛は何故か濡れていて、隙間なく並べられていた前髪が濡れて左右に分かれており、初めてその可愛らしい大きな瞳をしっかりと見ることができた。

「大丈夫か?」

 幸四郎がすぐに彼女に向かって手を伸ばすと、彼女はその手を数秒見つめた後、その手を取らずに立ち上がり、幸四郎たちの後方へと走っていった。

「なんであんな頭濡らしてたんだろ。びしゃびしゃだったよね……雨でもないのに」

「なんでこんなに情けないんだろ。みっともないよね……高校生なのに」

「え……ん? 僕のこと言ってる!?」

 子鹿が遅れて気付き、幸四郎が笑って歩き出すと、その曲がり角を曲がった先、女子トイレの前に数人の女子がたむろっているのが目に入った。ここからでは話が聞こえないが、何か楽しそうに談笑しているようだった。

 しかし幸四郎たちがそちらを見ていることに気が付いた途端、その女子たちはそそくさと幸四郎たちとは反対の方向へと消えていった。それを最後まで見ることなく、幸四郎が一歩ふみ出すと、再び幸四郎の足の裏に違和感が伝わり、何かを踏んづけたことを理解させられる。

 またかよ、と少し苛立ち気味に幸四郎が足を上げて踏んだものを見ると、

「なんだ、これ……」

 それはヒマワリの種だった。ヒマワリの種が、幸四郎に踏まれたことにより殻が割れ、中身が見えてしまっていた。

「なんでこんなところにヒマワリの種とか落ちてるんだろ」

 子鹿が幸四郎の手元を覗き込みながら言う。

「誰かハムスターでも飼ってるのかな」

「……え、食うか?」

「誰がハムスターだ!」

「ああ悪い悪い。冗談だ。お前はせんべいしか食べないもんな……と悪い。今日は持ってないんだ」

「いらないよ!」

 子鹿がそう叫んで幸司郎が鼻で笑う。いつものやり取り。

 幸四郎はそれで飽きたのか、持っていた割れたヒマワリの種を、窓の外に思いきり投げた。それはあまりにも小さかったため、すぐに見失ってしまう。

 投げた後に、幸四郎は帰りにそれを小鹿の上履きの中にでも入れておけばよかった、と後悔したのだった

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