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この子はあなたの娘です。  作者: 色川玉彩
第4章〜異変〜
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億劫な朝

社長の息子ってモテるのかな。

ツイッター▶︎飯倉九郎@E_cla_ss

「おはよう」

 そんな眩しい笑顔で校門で幸司郎を迎えてくれたのは、西縄張高校の誇る学園一の美女と名高い、(かわうそ)詩歌(しいか)だった。

「……おう」

 呆気に取られたように幸司郎がそう返す。

 昨日告白を受け、幸司郎は返答を一時保留という形で話をまとめた。その後一緒に帰宅したのだが、初めての帰宅デートは何のイベントも起きずに終わった。ただ互いの様子を探るように会話し、ぎこちないままにゴールを迎える。終始大人しく頬を赤らめる純な少女だった獺に幸司郎は多少なりとも面倒さを感じたが、しかしこれこそが女の子らしさか、と何も言わなかった。むしろ相手の一挙一動に一喜一憂できない純情でない自分に少しだけ呆れた。自分の恋心はどこへ旅立っているのだろうか。

 そんな彼女はぎこちないながらも、必死にアピールをしてくれているようで、普段女性と減らず口を叩き合っている幸司郎としては、その初々しさに圧倒されっぱなしで、どうすればいいのか困惑していた。

「どうしたんだ?」

「教室まで一緒に行こうと思って」

 すぐそこじゃねえか、という下らない突っ込みを、幸司郎は飲み込んだ。

 これこそがこの青春まっただ中の恋愛なのだ。

 幸司郎は困惑気味に首肯して、その横を獺が身をちぢこませながら歩いた。

 学園一の美女。その少女が男を連れて歩いている。それは一瞬にして注目の的となり、噂はあっという間に大気圏を突破した。

 周囲の眼差しを鬱陶しく感じながら、幸司郎が獺の言葉に半ば適当に返答していると、昇降口に差し掛かった所で、子夜の姿が目にはいった。彼女は昨日と同じくイメチェンした容姿で、隣には朝から二人ほど友達らしき女生徒もいた。

 端から見れば楽しそうな登校時の女生徒たちなのだろうが、幸司郎にはまだ不自然さが抜けない子夜の顔が引きつって見え、どこか違和感を憶える。

 まぁそれも時間の問題か、と幸司郎は思い切って歩を進めた。

「おはよう」

 下駄箱できゃっきゃと戯れる子夜(というより周りの女子)に話しかける。周囲の女子たちは元気いっぱいに幸司郎に挨拶を返した。

 子夜は幸司郎を見て、すぐさま視線を逸らした。

「おはよう」

 幸司郎は強調するように子夜に再度そう言い、子夜が困惑する。

「なに、獅子川(ししかわ)くんもシヤっち狙い?」

 すると横にいた女生徒がそう言った。

「へえ、なんだ。他の男子にもアプローチされたのか?」

「そうそう。アドレス教えてくれ~って、朝から何人も。ほんと男子の手の平返しって酷いよねえ」

「マジそれ」

 そう言って笑う女生徒たちに、お前らもだろうが、と幸司郎は内心で毒づいた。

 当の子夜に視線を向けると、子夜はまた不機嫌そうに口を尖らせている。

「何だ何だ。順調だな。もう俺の手助けはいらないのか?」

「う、うるさい」

 そう彼女だけに聞こえるように小さな声で言い、子夜は幸司郎から離れようとした。

「幸司郎くん。靴、履き替えた?」

 その時、別の場所へ靴を履き替えに行っていた獺が、まだ来ない幸司郎を迎えに、そう言って顔を出した。

「ああ。悪い。すぐ行く」

 幸司郎はこいつ面倒だなと思いながらも、笑顔を作ってそちらへ向かおうとした。

「どう、して……」

 その時、子夜がそう呟いた。

 幸司郎は足を止めて子夜に向き直り、周りに聞こえないように声を落として、

「あ? 別にいいじゃねえか、普通のクラスメイトとしてお前に話しかけるくらい。逆に全く関わりのない余所余所しい関係の方が怪しいだろ? もし家の近くとかで一緒にいるところを見られても、言い訳できるようにしとかないと」

「そう、じゃなくて……ううん、なんでも、ない、です」

 子夜は暗く目を伏せ、二人の女生徒の後を追うように昇降口を後にした。

「……なんだよ。そんなに怒んなよな」

 どうしてかいつも以上に不機嫌になってしまった子夜に幸司郎はそう軽く愚痴をこぼした。

「今の子って、確か幸司郎くんと同じクラスの子、だよね?」

 去った子夜の背中を見つめながら、獺が言った。

「ああ。鼠ヶ原(そがはら)って言うんだけどな。昨日いきなりイメチェンしてきてさ。びっくりするくらい可愛くなってるだろ? あれ、そう言えば同じ中学じゃないか?」

「うん。一緒だよ。すっごく変わってて気付かなかったけど……」

「な。人間変わろうと思えば変われるもんなんだな。あんだけ可愛くなれりゃ、思い切ってイメチェンした方が絶対いいもんな」

「そうね。ほんと可愛い。幸司郎くんは、ああいうタイプが好きなの?」

「ん? ああそうだな。めちゃくちゃ可愛いと思うよ」

 幸司郎は自分でも何を柄にも無い事を言っているんだと内心で笑いながらも、そう言った。全ては子夜の、いや、子夜を母に持つあの名も無き赤ん坊のためなのである。

「そっか。それよりも行こっ! 早くしない授業始まっちゃう」

 獺は再びその百パーセントスマイルを幸司郎に向け、幸司郎の腕を引っ張った。

 学園一の美少女と手を繋いで歩けることは自尊心を満たされるものではあるが、しかし同時に要らぬ気を使ってしまう。それが幸司郎には酷く面倒だった。

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