美しき新星つまり美女
イメチェンしてみると意外と変わるので今の自分に自信が無いなら大胆にやってみるのオススメします。 責任は持ちません。
ツイッター▶︎飯倉九郎@E_cla_ss
月曜日。週明け初日のその日に、西縄張高校の昇降口がざわついた。
「誰?」
「一年、だよな?」
そこにいた全ての生徒の視線の的となっていたのは、一人の女子生徒だった。
肩ほどまでの黒髪に、大きくくるりと光る瞳。さらには太ももをおお露わにしたスカート。すらりと伸びる細い足が刺激的だ。
周囲から一斉の注目を浴びているその絵に描いたような美少女は、しかしその瞳をおろおろとどこに向ければいいかわからず、そのままガチガチの動きで靴を履き替え、急ぎ足で教室へと向かいだした。
突然現れた美しき新星に、周囲の生徒たち(主に男子)は、彼女の後ろをまるで参勤交代のような行列で追いかけた。その謎の美少女が向かう先は、やはり一年生の教室で、彼女のクラスは一年の八組。進学クラスだった。
少女は終始ガチガチな動きで歩き、ようやっと自分の教室の自分の席へと座り込んだ。
その際、もう一度ざわめきが起こった。
「ね、ねえねえコウ」
その教室にいた一人の男子生徒、子鹿忠勝がその美少女を見つめながら、座る幸司郎の衣服を引っ張った。
「噛むなよ。それは食べ物じゃないぞ」
「いや、これ僕の手だからね。ていうかそんな事よりさ、見てよ、鼠ヶ原さん」
子鹿がそう言い、幸司郎は重い首を曲げて子夜に向き返った。
そこにいたのは鼠ヶ原子夜だ。
だがしかし、皆が良く知る、暗くてじめじめしているドブネズミと呼ばれる少女ではなかった。普段壁のように立ちはだかっている前髪は綺麗に左右に分けられ、隠れていた大きく可愛らしい瞳がさらけ出されている。髪も無造作に伸ばされた状態ではなく、いわゆるボブカットになっている。髪の一本一本が艶やかに輝き、彼女の肌、唇もまた朝日に照らされてキラキラと輝いていた。スカートも膝下ではなく膝上数センチまで上げられていて、靴下も地味な短い白ソックスからニーハイへと変わっていた。
「どどど、どうしたんだろう。鼠ヶ原さん……だよね? イメチェンかな?」
何故か動揺する子鹿に幸司郎は内心でホレ見ろと思いながらも、表面上は周囲の感想に合わせる事にした。
「へぇ、人って変わろうと思えば変わるもんなんだな。可愛いじゃん」
幸司郎がさりげなくそう言うと、子鹿は黙って首を何度も上下に振った。
「びっくりだよ……鼠ヶ原さんって、凄い可愛いんだね」
「だな。今の心境を二文字で答えてみろよ」
「発情! ってうるさいよ! 変なこと言わせないでよ!」
言って笑って、幸司郎は子夜に目を向ける。
子夜はどこからどう見ても、可愛らしい普通の女生徒だった。幸司郎がしたことと言えば、髪を整えて、ほんの少し化粧をさせただけである。別にアイプチをしたり、つけまつげをしたりしたわけではない。それは元々彼女が持っていた素質なのだ。
「鼠ヶ原さん……それ、どこで切ったの?」
その時だった。周囲から恐る恐る見ていた女生徒の一人が、子夜にそう話しかけた。それに続いて、その友達であろう女生徒もその話に便乗し始めた。
「え、あの……これは、その、あの、知り合いさん、に……」
話しかけられ、子夜はわかりやすくきょどった。絶対に目を合わそうとせず、目を泳がせた。その様子に幸司郎は少しはらはらさせられる。
「凄い可愛い~。その知り合いの人って美容師さんとか? ていうかこのリップはどこの?」
「ていうかマジ肌綺麗だよね。今までどうして隠してたの?」
次から次へと声が増え、矢継ぎ早に飛び交うその質問に子夜は瞳を右往左往させていた。
「はぁ……あいつはまずあの性格から変えないとな……」
「え? なんだって?」
幸司郎のため息に、子鹿がそう訊き返す。
「うるせえよ、クズ」
「っ!?」
理不尽な幸司郎の言葉に子鹿が抗議を始めるが、幸司郎はそれを右から左へ聞き流し、さらにそれを叩き落として踏みつけた。子鹿の全てがどうでもいいのである。
幸司郎は前途多難な状況にため息を吐きつつ、前に向き直った。