第六話 黄金魚の行く先
冒険者ギルドまで戻ってくると、ゼルダが明るい顔で告げる。
「ユガーラの街に黄金魚が届いたわ。これで、この厄介な遊びも終了ね」
チャンスは確認する。
「終了って、この保管箱の黄金魚は要らんの?」
ゼルダは気前よく発言した。
「約束通りに、黄金魚はチャンスにあげるわ。あと、これは親切心から忠告するわ」
「何や? まだ、風の魔神の襲来以外に何か厄介事が起きそうなんか?」
「その、黄金魚は早く売ったほうがいいわよ。風の魔神の邪魔がもうなくなるから、簡単に手に入る品になったわ」
(街に何かの呪いが掛かっていた。ないしは、高位の存在によるゲーム的なものが街に持ち掛けられていたんやな。呪いか制約かは知らんが、黄金魚の街への到着をもって解除されたんちゃうか)
「そうか。何か、よくわからんかったけど、はよう処分するわ」
ゼルダと別れて保管箱を持って、冒険者ギルドのドアを潜る。
依頼報告窓口にいるセビジに、保管箱を見せる。
「黄金魚が手に入ったんやけど、これ、まだ金貨二十枚になるの?」
「ちょっと見せて」とセビジは真剣な顔で保管箱を開ける。
セビジが黄金魚の全長を測る。
「残念だけど、標準のものより、小ぶりだから、報酬が引かれるわ。金貨十四枚と銀貨五十枚ってとこかしら」
(それでも、高いね。ええ値段や)
「少しの間だけ黄金魚を預かってもらっても、ええ? 市場の値段も見てきたい」
「もちろん、いいわよ」
街の南にある中央市場に行き、漁商を訪ねる。
「ちょいと、ええ? 今、全長六十㎝の黄金魚を持ち込んだら買い取りは、いくらになる?」
「今なら、金貨十枚だね。高額査定を狙うのなら冒険者ギルドがいいよ」
「親切にありがとうな」
チャンスが中央市場から冒険者ギルドに帰ると、セビジが女性に苦情を言われていた
苦情を並べる人物は薄いオレンジ色の肌に、灰色かかった髪の、すらりと長身の女性だった。
女性の体型は豊満で、出るところ引っ込むところのバランスはいい。年のころは三十を過ぎている。顔はきつい印象を与える目に、高い鼻をしており、形の良いオレンジの唇をしていた。女性には見覚えがあった。
(色街を仕切っているメリンダや)
メリンダは色街に大きな酒場を経営していた。メリンダの店に行けば半裸の女性がサービスをしてくれる酒場であり、男性冒険者の常連も多い。
だが、チャンスは一度しか入った経験がなかった。
メリンダは苛々した口調でセビジに食って懸かる。
「どうして、黄金魚一匹を獲るのにこんなに時間が掛かるのよ」
「ですから、もう少しで、入荷の目処が立ちそうなんです」
「もう少し、もう少し、っていつものいい訳よね。たまには、違った弁解を聞かせてほしいものね」
チャンスはカウンターに行って、セビジを助けてやる。
「セビジはん、さっきの奴、出して」
「何よ、あなたは横から出てきて」
「わい? わいは今まさに冒険者ギルドに黄金魚を納品しようとしている冒険者や」
チャンスの言葉に、メリンダの言葉が詰まる。
セビジが保管箱を開けると、活きのよい黄金魚が姿を現す。
「小さいけど、黄金魚やで。この黄金魚がほしいの? 金貨十四枚と銀貨五十枚やで」
メリンダが不機嫌な顔で乱暴に告げる。
「私が欲しいのは内臓だけよ」
セビジが説明する。
「冒険者ギルドでは《幸運の尻尾亭》に魚を卸します。《幸運の尻尾亭》が肉を料理で出して、内臓を錬金術師に卸します。それで、錬金術師が魔法薬を作っているんです」
「魚の内臓で魔法薬ねえ。ええわ。なら、ギルドに黄金魚を売るわ。だから、流通経路に載せてやってー。これで、ええんやろう」
メリンダの表情が幾分か和らぐ。
「そうね、少し小さいようだけど、そんなに量が必要ないって話だから、問題ないでしょう。これで、魔法薬が廻ってくるわ」
メリンダがバッグから小さなカードを取り出した。
「うちの店のタダ券をあげるわ。よかったら、使って」
(色街の酒場は使う機会がないけど、断ると顔を潰すようで悪いなあ)
「そうかー、ありがとう。使わせてもらうわ」
メリンダが機嫌もよさそうに店を後にした。
カードを確認すると、席料が二時間タダで、三ドリンクがサービスとなっていた。
金貨が準備されるまでの間、冒険者ギルドの席に座る。
赤毛のひょろっと背の高い人間の男が羨ましそうに「いいなあ」と呟くのが聞こえた。男は二十代前半くらいで、軽装の革鎧を着て、槍を背負っていた。
「何や、兄ちゃん。メリンダの店のタダ券が欲しいんか? 欲しいならやるで」
男はチャンスの提案に喰いついた。
「本当か。だが、タダで貰うのは気が引ける。俺が穴を掘っていたら出てきたお宝と交換といこうぜ」
男は古びた銅貨を取り出した。
(これは、冥府銅貨やね。レアもんやと思うとったけど、出るときは頻繁に手に入るんかな)
チャンスはメリンダの店のタダ券と冥府銅貨を交換した。
「わいは、チャンス。暇なおっさんや。兄ちゃん、名前は何ていうん」
男が意気揚々と答える。
「俺か。俺はヘンドリック。穴掘りヘンドリックと呼ばれている。魔法による穴掘りが得意だ」
「それは冒険に役立つ立派な特技やな」
「よく、火山でレアな鉱石を掘っている冒険者だ。鉱石が必要なら、相談に乗るぜ」
チャンスは黄金魚の代金を受け取ると《幸運の尻尾亭》に移動して、安い赤ワインを頼む。
(変わった遊び釣りやったけど、たまには、こういう遊びも、いいかもしれんな)




