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第二十八話 利権を賭けて

 翌日、ロビネッタの家に行く前に弁当を買いに《幸運の尻尾亭》に行く。

 白いターバンを巻き、白のスーツを着た執事を連れた中年男性に呼び止められた。


 男性の身長は百六十㎝、体重は五十㎏ほどと小柄だった。褐色肌で丸い顔をしており、顎鬚を生やしている。

 格好は白いガラベーヤに白いクーフィーヤを着ていた。

「君がチャンス君だね。私はエイミル。ちっぽけな投資家だ。少し話がしたい」


 エイミルの名前は、聞いた覚えがあった。王家の一員で、街一番の大金持ちだった。

「へえ、何でしょう?」とチャンスは警戒しながら返事をする。


 エイミルは執事を伴って密談スペースに入って行く。チャンスも従いて行った。

 席に着くと、エイミルは笑顔で切り出す。

「チャンス君は大儲けしようとしているね。どうだろう、そのビジネスに私も一枚、噛ませてもらうわけにはいかないだろうか?」


(何や、この人? 昨日の今日で、もう精糖事業が成功しそうだと掴んだんか? いや、さすがに、それはないか)

「はて、何のことでっしゃろ?」


 エイミルは笑顔のまま、すらすらと話す。

(とぼ)けなくてもいい。君が知らないだけで、もう精糖事業の話題は業界では出回っている。もっとも、君の事業に爆燃岩が重要だと知る者のはまだ少数だがね」

(あかんわ、このおっさん、耳が早過ぎる。もう、全てばれとる。爆燃岩の鉱床を押さえられるのも、時間の問題や)


「これは認めるしかないようですな。そうですわ。今、爆燃岩の鉱床を捜しています」

「なら、鉱床は私が貰う。もちろん、爆燃岩を掘る事業も興そう。だから、私から爆燃岩を買ってくれ。もちろん、価格は、高くはしない」


「わかりました。ニチラ村の村長と話してみます」

 エイミルは愛想よく席を立つ。

「チャンス君が話のわかる人で、よかったよ」


 チャンスはニチラ村に飛び、ロビネッタを連れて、村長のウマルの家に行く。

「どうやら、エイミルと組まざるを得なくなりそうや。金持ちのエイミルがすでに爆燃岩の重要性に気が付いて、鉱床を押さえに懸かっとる」


 ウマルは渋い顔をしたが、否定的ではなかった。

「鉱床掘の資金も、採掘会社の起業も、我々だけでは手に余るのは確かだ。エイミルが対等な友となれば心強い。だが、エイミルが立場の強い悪魔になれば、この事業は上手くいかないぞ」


 ロビネッタが暗い顔で悔やむ。

「もっと魔力消費量が少ない機械ができれば、違ったのかもしれない。でも、今はこれが精一杯よ」

「なら、エイミルもこの事業に入れるって決断をして、ええですか?」


「仕方ない」「そうね」とウマルとロビネッタは渋々の態度で折れた。

 精糖機の二号機の開発が行われる。植えて三十日で樹になるダンジョン産ナツメヤシの苗の買い取りも始めた。同時並行で鉱床の調査が行われる。


 精糖作業はどうにか開始されるかに見えたある日、《幸運の尻尾亭》にエイミルがやって来る。

 エイミルは困った顔でチャンスを密談スペースに誘って話す。

「アウザーランドの資産家アーロンから横槍が入った。私が起業している間に爆燃岩採掘の権利の大部分を、アーロンに抑えられた」


(何やと? 敵は、アウザーランドにもおったのか)

「そんな、安い爆燃岩がないと、黒糖が大量生産できませんやん」


「そこで、アーロンが提案してきた。私の持つ爆燃岩採掘会社の株と、アーロンの持つ爆燃岩鉱床の権利。この二つを賭けて、決闘しようとの話になった」

(大金持ちのやることは、ようわからんわ)


「原始的とはいいませんが、決闘ですか。面倒な事態になりましたな」

「断れないこともない。だが、ここで権利を完全に持っておかないと危険だ。精糖事業に悪影響が出るのは目に見えている」


 エイミルが決闘に前向きだが、チャンスには躊躇いがあった。

「決闘かあ。でも、そんな街の未来のために戦ってくれる強い奴って、誰やろう?」

 エイミルは当然の顔で告げる。

「いるだろう。チャンス君。君だよ、君」


 全く予想していない答だった。

「わいでっか? わいが戦うの?」

「そうだよ。冒険者だと、買収される危険性がある」


「エイミルはんは、王家の一員やろう。なら、騎士にかて強い奴はおるやろう」

 エイミルは厳しい顔で拒絶した。

「駄目だよ。スターニアの騎士なんて、プライドだけが高くて実力が伴わない」

(これは何か、騎士に恨みがあるのかもしれんなあ)


「エイミルはんには、お抱えの剣士とか、おらんの?」

 エイミルは、しれっとした態度で見据えた。

「いるには、いる。だが、今ここで、使いたくない。ここぞの賭け試合の時に使いたい」


(もう、勝手やわあ、自分の事業やろう。自分で守って欲しいわ)

「ちなみに、アウザーランドのアーロンは誰を出してくるん?」

 エイミルは真面目な顔をして教えてくれた。

「狂戦士ゼルダだ」


「うっわ、最悪や。一番やり合いたくない相手や」

 エイミルは拝むように懇願する。

「そう断らずに、頼むよ。君だけが頼りだ」


「あんなあ、エイミルはん。ゼルダはんの実力って本物やで。相手がゼルダはんなら、勝ちを保証できん」

「それなら、尋ねるが、誰なら勝てるんだ?」


 考えるが名前が出てこない。

「おらんな。ゼルダはんと一対一で戦って勝ちを保証できる奴は今、この街におらん」

「それなら、チャンス君がやっても同じだ。街を、産業を守ってくれ」


(もう、何で? 街の皆に黒糖を存分に使わせてあげたかっただけなのに、ゼルダはんと戦う展開になるかなあ)

 断りたかった。だが、もう既に大勢の人間を巻き込んでいるので、逃げ出すわけにはいかなかった。


「誰もおらんと嘆くなら、しゃあないわ。決闘をやりますわ。ただし、命のやり取りまでは、せんよ」

「わかった。命のやり取りは、しなくていい。だが、手を抜かないでくれよ。相手も君のように甘い考えとは、限らないぞ」


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