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第十八話 凶賊ユクセルの裁判(後編)

 チャンスは昼夜を構わず高速で空を飛び砂漠にあるユリディーズ村に向かった。

 ユリディーズ村は、起訴状によれば、人口二百人ほどの小さな村だった。


 だが、ユクセル一味により、六年前に村人は虐殺(ぎゃくさつ)され、村は略奪(りゃくだつ)()ったと記載されていた。


 ユリディーズ村に着いたとき、村は半分ほど砂に呑まれており、人影は見当たらなかった。

(何や? ユクセルによって村は滅んでしまったんか? どこかに、生き残りがいてくれると、助かるんやけど)


 辺りを飛び回ると、十㎞離れた場所に、オアシスがあった。

 オアシスに行くと、二十世帯が暮らす小さな集落があった。オアシスの付近でナツメヤシの手入れをしている老人に尋ねる。


「すんまへん、ここから離れた場所に、ユリディーズ村ってありましたやろう。村人の生き残りって、おりませんか?」


 老人は気の良い顔で教えてくれた。

「生き残りと答えていいかどうかわからないが、私がかつての村人だよ」

「ユリディーズ村は、やはりユクセルによって滅ぼされたんでっか?」


 老人は首を傾げる。

「ユクセル? 誰だい、それは?」

「知らんの? 凶賊ユクセルいう悪人ですわ」


「いやあ、知らないねえ。第一に、村を廃棄せざるを得なくなった原因は水が涸れたせいだよ」

「ユクセルは関係ないんか」


「だからユクセルなんて知らないって。村の水が十年前に涸れちまってね。その時に、街に出ていった者も多い。年寄りだけが、ここに残ったのさ」

(何やて? 村が消えた原因はユクセルの犯行じゃない、やと? しかも、老人の話が本当なら、犯行前にすでに村は廃棄されとる)


 次に三年前に家に火を付けられ、当主のマーガレッタが殺された事件を洗う。

 資産家マーガレッタの家がある、アユ村まで飛んで行く。アユ村は人口三百人ほどの村で、村の北側に立派な家が建っていた。

(あれ、おかしいで? 家は、火を付けられたんやないの? まだ、建っておるで。再建したんか)


 家に近づいてみるが、家は充分に古かった。

 家をしげしげと見ていると、下女と思わしき老女が出てくる。

「アユ村の資産家でマーガレッタさんの家って、ここでっか?」


 老女は疑わしそうにチャンスを見ながら答える。

「ここは、元マーガレッタ様のお屋敷だよ。今は、別の人が住んでいるけどね」

「やはり、マーガレッタさんはユクセルに殺されたんですか?」


 老女が顔を歪めて怒った。

「何を馬鹿な話を言っているんだい。マーガレッタ様は流行(はや)り病で死んだんだよ」

「なら、屋敷に火を付けられた話は?」


 老女は呆れた。

「あんたは、馬鹿かい。火を付けられたなら、どうしてこの屋敷が建っているのさ」


 下女は気分を害したのか立ち去った。

 気になったので、村の教会で老司祭にも話を訊く。

「あの、でかいお屋敷に住んでいたマーガレッタさん、流行病で亡くなったて、本当ですか?」


 老司祭は胡散臭(うさんくさ)そうにチャンスを見る。

「失礼ですが、貴方は、どなたですか?」

「わいは、ミラクル・チャンスいいまして、ユクセルの弁護団の人間です。そのユクセルにマーガレッタ殺害の容疑が掛かっているんで、調査しているんですわ」


 老司祭は、素っ気ない態度で告げる。

「マーガレッタさんの件については、何も申し上げる内容はございません。ただ、冥福を祈ってください」

(何や? マーガレッタの死は、触れてはいかんのか?)


 老司祭の言葉が気になったので、マーガレッタの墓を探す。

 教会の墓地に立派な墓があった。だが、マーガレッタが亡くなった日付は二年前になっていた。

(あれま? 三年前に死んだ人間の墓に、二年前に死んだと記載されておる。単なる記載ミスかもしれんが、家は建っておるから、これまた怪しいな)


 調べると、街から遠い場所で起きた事件には、ユクセルの犯行とするには無理があるものが多かった。ユクセルの名前すら知られていないケースが、ほとんどだった。

 街に近づくと、ユクセルの名前が知られていく。だが、それでも、犯人の名前としてユクセルが出てこない事件が何件かあった。


(これは、妙やで。ユクセルが起こした事件は、ほんま、半分もないで。ひょっとしたら零かもしれん)

 調査に時間が掛かったので、第二回公判に間に合わなかった。

 街に戻って《幸運の尻尾亭》に顔を出すと、すぐにゼルダがやって来た。


 ゼルダが真剣な顔で、チャンスを密談スペースに誘う。

「まず、私の意見だが、ユクセルは(ちまた)で噂されている凶賊ではない。あれは、ちょっと気が触れただけの男だ」


「そうか。実はな、ユクセルが起こした事件を洗ったんやけど、どうもおかしいで。虐殺のあったとされる村で、虐殺はなかった。殺したはずの人間が生きておる。火を付けた建物が残っとる。これは調べれば、いくらでも襤褸(ぼろ)が出るで」

「やはりか。ユクセルは、本当は無実なのか」


「わからん。わいが調べた範囲では街から遠い場所の事件は冤罪(えんざい)や。だが、街から近い場所の事件では、どうとも判別が着かない事件が多い」


 ゼルダが困った顔をする。

「本当にやった罪だけを選び出すだけで、数年は掛るか」

「そうや、このペースで裁判が進んだら、真実は何もわからん」


 ゼルダが険しい顔で告げる。

「それについては、まずい動きがあった。弁護団が買収された。買収に応じなかった弁護士は弁護団を去って国に帰った」

「それ、まずいやん。ますますもって、真実は闇の中やで」


「だろうな。ユクセル自身も死刑を望んでいる以上、極刑が下りるぞ。おそらく、火炙(ひあぶ)りだ。アウザーランドならまだしも、スターニアでは私も打てる手がない」


「無実の人間が罪を着せられて火炙りにされるなら、避けたい。だが、現状では、完全に無実とは言えん。真実を知るには時間が必要や」


 ゼルダの顔は険しかった。

「だが、真実を探る時間はない。裁判を裏で操っている人間は、あと二回か三回の公判で結審して判決を出させるつもりだ」


「何や? どうするのがええんや?」

「わからない。私も、それで頭を痛めている」

(一応、保険だけは掛けておくか)


 チャンスは翌日、穴掘りヘンドリックに声を懸ける。

「ちょいと、やってほしい仕事があるんやけど、ええか?」


 ヘンドリックは気軽に応じる。

「いいぜ。穴を掘る仕事かい? 任せろ、どんな地層や岩盤でも綺麗に掘るぜ。お望みとあれば、跡も残さない」

「仕事は穴掘りやない。ユクセルに関する調べ物や」


 ヘンドリックは少しばかり苦い表情をする。

「俺も冒険者だから、穴だけ掘っているわけじゃない。調べ物をしてくれと頼まれたら、する。だけど、調べ物が得意な奴に頼んだほうが、確実だろう」

「いや、ここはヘンドリックはんを見込んで頼みたい。二十日で金貨十枚や」


「報酬は申し分ないけど。成果が出なくても、知らないぜ」

 ヘンドリックにユクセルがやっていない事件について調べさせた。

 時は進み、裁判も進む。検察、弁護団、裁判官がぐるになり、被告人であるユクセルも異議を唱えない。


 裁判はあれよ、あれよ、と進展した。結果、第五回の公判で結審となった。

 判決の前に、裁判長がユクセルに尋ねる。

「最後に、何か言いたいことはありますか」


 ユクセルは穏やかな顔で裁判長を見て告げる。

「私は一般の人と同じく、数多くの罪を犯した。だが、私はこれで聖人になる。以上です」


(聖人になるが本当なら、ユクセルは、罪のほとんどは、無実なのやろうな。全ての罪を背負って死ぬ気やな。だが、そうは、させんで)

 一週間後、判決が申し渡された。判決は火炙りだった。


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