第十四話 謎の女神像
小さくなって排水孔に下りていく冒険者が決まった。冒険者は名が知れたパーティだった。
冒険者が魔法薬で小さくなり、排水孔に下りて行く。冒険者は昼に一度、帰ってきて、リーダーがチャンスに告げる。
「やはり、下はダンジョンになっている。宝はないが、罠やモンスターがいる」
「なら、奥に、温泉のお湯を汚さないようにするための装置が、あるはずや。なければ、粘土採取場を救う装置がある。どちらかがあるはずやから、見つけて作動させてくれ」
冒険者のリーダーは気負わずに尋ねる。
「他に何か要望は?」
「要望はない。だが、アドバイスは、ある。装置によっては、入口が閉鎖されるかもしれん。でも、希望を捨てたら、あかんで。入口が消えた時は別の場所にきっと出口が開かれる」
「わかった。結果を出せるように努力する。報酬を積んで待っていてくれ」
チャンスは冒険者のパーティを見送る。
排水孔の周りで休憩しながら冒険者の帰りを待った。
途中、ゼルダが様子を見に来た。
「どう、探索は進んでいるかしら。進捗が気になるところね」
「昼に一度、報告に来たきりや。でも、予想通り中はダンジョン化しておると報告を受けたで。薬はまだあるか」
ゼルダが澄ました顔で告げる。
「あと、六名分あるわ。もし、朝までに帰ってこなければ救出の冒険者を出しましょう」
「そうならない事態を祈るわ」
夜も深けてきた頃だった。うとうとしそうになっていると、排水孔から花火が上がった。
『おめでとう』の文字が空中に表示される。
「やった、やったでー、冒険者がダンジョンをクリアーしたで」
だが、文字には続きがあった『セカンド・ステージへ、ようこそ』
(何や? まだ何か起こるんか?)
視線を下に戻すと、排水孔は消えていた。
翌朝、ジェマルとマチルダに遣いを出して《幸運の尻尾亭》の個室に呼ぶ。
ジェマルとマチルダは都合を付けて、昼にはやってきた。
「まず、報告や。謎の栓は消えた。これで、温泉のお湯が濁る事態にはならん。せやけど、穴に下りて行った冒険者が、行方不明や」
マチルダが穏やかな顔で告げる。
「冒険者なら問題ないわ。早朝にうちの露天風呂に浮かんでいるのを、従業員が見つけたわ。息はあったわ。ここに来る前に薬の効果が切れたから、直に戻ってくるでしょう」
「そうか、それはよかった。ただ、排水孔のダンジョンはクリアーされると花火が上がった。そこには『セカンド・ステージへ、ようこそ』のメッセージがあったで」
ジェマルが顔を歪める。
「おい、ちょっと待ってくれよ。まだ、何か厄介事が起きると予告されたのか? 勘弁してくれよ。仕事の納期はぎりぎりなんだぜ」
「何が起きるか、わからん。せやけど注意してや」
マチルダとジェマルが帰っていくと、ゼルダがやって来る。
ゼルダは明るい顔で告げる。
「ダンジョンは無事クリアーされたようね」
「せやけど、セカンド・ステージが始まると予告されたで」
ゼルダが思案する顔をする。
「チャンスの予言していた通りに、湧き水の事件は、始まりだったのね」
「せや、でも、何が起きるかわからんのが辛いのう。これだと対策の立てようがない」
チャンスは街に何かよくない事件が起きる予感があった。
チャンスは仕事の予定をできるだけ入れないでおく。
五日後にジェマルの遣いがやってくる。
ジェマルの遣いはチャンスに粘土採取場を救ってくれた報酬を渡した後に、お願いする。
「実は粘土採取場で奇妙な女神像が多数、発見されました。見に来ていただけないでしょうか」
「ええで、やはりなんか起きたか。どれ、行ってみようかのう」
粘土採取場にくと、高さが二十㎝ほどの金属製の女神像が堆く積まれていた。
(誰の作品かは、忘れた。せやけど、街の美術館にあった『名も無き怒れる女神の像』の美術品に、顔がそっくりやな)
「何や? 女神像って、一体や二体やないのか。これ、二百くらいはあるやろう」
困惑した顔のジェマルがやって来た。
「水が湧かなくなったと思ったら、今度は女神像が、粘土に混じるようになったんだよ。もう、わけがわからん」
チャンスが女神像を確認すると、女神像は形状が微妙に異なっていた。
「こっちは右手を上げて、左手を下ろして、胡坐を組んでいる。こっちは大の字、そんでこっちは座禅を組むような形やな」
ジェマルが不気味なものを見るよう目で、女神像を見る。
「俺も全て確認したわけではないが、像の形は全部で八種類あるらしい」
「八種類の女神像ね。とりあえず、像は避けておこうか」
ジェマルが早く処分したいのか、嫌そうな顔をする。
「屑鉄屋に持ち込んだら、駄目か」
「これ、破壊時に爆発する仕掛けがあるで。火の魔術の気配がする」
ジェマルは慌てた。
「何だって? なら、粘土の採取を中止したほうがいいのか?」
「いや、女神像はシャベルが当ったり、踏んだりしたくらいでは爆発しない。もっと大きな力が加わらんと爆発はせんで」
ジェマルは身震いして告げる。
「でも、そんな爆発物が大量に粘土採取場に埋められていると思うと嫌だなあ」
「とりあえず、女神像は保管しておいて、たくさん溜まったら、わいが爆破処理したる」
ジェマルが困った顔で勧める。
「今からでも少しずつ処理しておいたがほうが、よくないか。置き場所にも困る」
「これは、セカンド・ステージのゲームで使う駒の気がする。まだ、取って置いたほうがええ。わいの勘やけどな」
ジェマルはうんざり顔で肩を落として語る。
「そうか、なら、まだ取って置くか。でも、こいつが役立つ事態なんて、あまり良い気がしないな」
「わいも、そう思う。せやけど、ないと、きっと困るで」
チャンスは、それからいつでも動けるように《幸運の尻尾亭》で過ごす。




