プロローグ
僕は今年の四月から、上下高架株式会社に入社したばかりの新入社員だ。
そして先週には社員研修も終わり、やっと先輩社員と一緒に紹介もかねて取引先をまわる事となり、今日は朝からずっと取引先の会社まわりをしている。
そして一通り担当地区の会社訪問が終わった頃、お昼も簡単に済ませていたので、休憩もかねてコンビニでコーヒーでも買って一服することになった。
「おい、渡辺。おまえ、コーヒー何にする?」
と先輩は、俺が買ってくるからここでまっててくれと言いつつ僕の好みを聞いてきた。
「あ、僕が買いますよ」と言うと、いいから待ってろっといいつつ、何がいい?とさらに聞いてきた。
「じゃあ、ホットで砂糖だけお願いします」と僕は言うと、財布を取り出し先輩にお金を渡そうとしたが、しかし、先輩はそれを受け取ろうとせず、おごりだから。と言って、さっさと目の前にあるコンビニの中に入っていってしまった。
先輩の様子をドア越しに見ると、結構レジが並んでいるようで、ちょっと時間がかかりそうな雰囲気だ。
そこへ、遠くの方からパトカーのサイレンのような音が聞こえてきた。スピーカーから、なにか停車するように呼びかけてるような声が聞こえてくる。
そしてそれと同時に、かなり耳障りな車のマフラー音が聞こえてきた。
なんだ?何が起こってるんだ? と音のする方に振り向いてみると・・・
目の前に、黒いバンが猛スピードで走ってきていた。
え?ここはアーケード街で人か自転車しか入ってこれないはずなんじゃ?と思うよりも先に、僕は体が動いた。
僕は学生の頃野球部でしごかれていたので、結構足には自信がある。
もう目の前に来ている車を、僕は反射的に左へ横っ飛びして車を避けきった!
・・・と、僕は思った。
そう、ちゃんと避けれたと思ったんだ、、、けど、車に乗ってる人が、急に右にハンドルを切ってしまい、僕はまともに正面からその車にぶつかってしまった。
僕は驚いた。
人が命に関わるほど危機的な状況に陥ると、動きがかなりスローモーションになると聞いた事があったんだけど、まさに今、横っ飛びをして車にぶつかるまでの間、かなりスローモーションになったからだ。
そして僕は見てしまった。
この車を運転してる人、高校の頃僕をいじめてた森田くんだ。その特徴のある髪型、今でもしてるから直ぐわかったよ。
あ、森田くんの方も僕のこと気づいたみたいだ。かなりびっくりした顔になってる。
片や今から人をひきそうになってる車を運転している人、片やその車に今まさにぶつかりに行こうとしている人なんだけど、お互いに知り合いで同級生、しかも、いじめた側といじめられた側という、なんとも因果を感じる運命的な出会いをしたもんだ。
と思った瞬間、顔面に物凄い衝撃が走り、体もばらばらになるぐらいの衝撃を受けて僕は意識を失ってしまった。
次に目が覚めると、予想していた場所ではなかった。
周りを見ると、自宅でもなく、病院でもなく、どこかしらない場所だった。
いや、そもそも何かの実験室のような・・・と思ってると、一人の科学者っぽい服を着た男というか老人が僕の居る場所に近づいてきた。
「実験はどうなったかな?お前達、しゃべれるようになったか?」と僕に向かって男が語りかけてきた。
お前達?
僕以外にも誰か居るの?と周りを見ると、僕の周りには僕と同じ位の大きさのねずみがチュウチュウ鳴いていた。
え?
と思わず僕は声を出してしまった。
「おお!やっとしゃべれるねずみがでてきたか!よしよしこっちへこい」
と男はいうと、僕を檻からつまみ上げ、別の動物かごに押し込んでしまった。
え?何が起きてるの?
と思ってると、男は僕を押さえ込んで、なにやら注射らしきものを僕の体にうってきた。物凄く痛い。
うぎゃぁあ!と思いっきり叫んでると、
「ほっほっほ。もうおわったぞ。すぐに力が出てきて痛みも引くから安心するのじゃ」
と男は嬉しそうに、僕が押し込められてる檻の上から覗き込んできた。
うわ、欲まみれた腹黒い男が、年を重ねて年老いたらこんな顔になるんだな。という顔がすぐ目の前にある。本当に見るに耐えない醜悪な顔だ。
ただ注射をうたれてからしばらくすると、次第に体があつくなっていき、なぜか痛みも薄らいできたので少し眠る事ができた。
うとうとしていると、唐突にウォーン、ウォーンという警報の様な音が部屋中に響き渡り、赤いランプが点滅しはじめた。
なんだ?
と僕は慌てて周りをみわたすと、部屋のドアを開けて、あの老人が入ってきた。
その老人を見ていると、まずい、まずい、と部屋の中をうろうろしながら、このままだと墜落するとか、どうなるのかわからないとか言い出し、最後には、この部屋だけは頑丈に出来ているから、ここにさえいれば・・・と言って、うずくまってしまった。
そして次の瞬間、物凄い衝撃が部屋を襲った。
なんと表現したらいいんだろうか、天と地がひっくり返ったような、自動洗濯機に入れられた汚れた服の様な体験をしているかのようだった。
もう上も下も無い、と何度か部屋が回転していたのがピクリとも動かなくなった時には、部屋の中はゴミ屋敷と化してた。
しかし運がいい事に、僕を束縛していたあの檻が壊れて抜け出せれるようになっていた。
しかも、なぜかあの老人が入ってきたドアが勝手に開き、この部屋から脱出できる状況になった。
ただ、その当の老人は、文字通りぼろ雑巾の様な状態になって白目をむいて転がっていたが、今はそれどころではない。生き延びる為に逃げなければ!
なんとか部屋の外に出ると、外は廊下だったが、ドアは全部開いていたのでなんとか外にでる出口を見つけることができた。もちろん僕はすぐに脱出した。
しかし、外は雨が降っていた。
さっきまで入っていた建物を見ると、なにかの乗り物の様な感じがするが、大き過ぎてそれが何なのかはわからない。
ただ、火がでていたので、この場からはさっさと逃げることにした。
暫く逃げてると、木の実がいくつか落ちているのを発見した。
これは食べれるんだろうか?と思っても、食べるものなんて持ってないから食べるしかない。
一口食べると、少しだけ美味しかったので、僕は見える範囲にあった木の実を全部食べた。
そしてお腹いっぱいになったので眠くなってきたんだけど、地べたで寝ると襲われたら怖いので、木の上に登って寝ることにした。
僕って結局どうなったんだろ・・・といろいろ考えてたら、いつの間にか眠ってしまった。
うつらうつらしていると、ふと、目が覚めた。
もう、朝なんだろうか?
しかし辺りは薄暗い。
いや、それよりも僕はねずみのままなんだろうか?</p>
と確認の為に自分の手を見てみると、前見たときよりもかなり大きくなっていたけど、結局ねずみの手なのには変わらなかった。
ショックだ。
しかし、こんな体になっても生きていかなければいけない。
そこで僕は、右も左も分からないこの森の中を、人が通りそうな道を探して走ってみることにした。
しばらく走ると運がいい事に、目の前に道らしきものを見つけた。
さっき、よく分からない怖い動物に襲われて、方角も考えずにでたらめに走ってきたのが良かったのかもしれない。
しかし、あまりにも全力で走ったのでお腹が減ってきた。
「お腹減った・・・でも森に入ると怖いし。」
目の前の小道の先をみても、その先がどこに通じているのかわからない。
「誰かここ通らないかな・・・」と僕はきょろきょろ辺りを見回した。
とそこへ・・・
(つづく)