強襲
油断していた――のだろうか。初心者らしき四機が六機に囲まれている。
拓はソルジャーに乗り込み、走り出した。
まだみんなのレベルが低いから襲撃はないだろうと、たかをくくっていた。
仲間は反応できていない。
境界線から砂漠色の機体が二機、飛び出した。
同時に下方からもう四機。
二方向からの精密な射撃が襲い始める。
『や、やめろー!』
味方の悲鳴が耳に突き刺さる。
仲間のボディも、みるみるうちに蜂の巣になっていく。続いて仲間も被弾。
相手の手際の良さ。初心者ではない。
手慣れたプレイヤーだ
「みんな、落ち着いて、周りを見て」
『落ち着けなんて、無理だ。どうにもできない。』
みんなを落ち着かせようとするも、全員がばらばらに逃げたり撃ったりしている。その周囲をドラゴンフライが得意の飛行性能を使用し飛び回り、翻弄している。
私は選択したことを後悔する。
攻撃手段がないのでは、俺がいかに上手く立ち回ろうとも助けようがない。
できるとしたら弾除けになるくらいのことだけだ。だがそれでは、残された仲間はどうなる。彼らだけでこの状況を立て直して、逆転することができるか?
無理だ。
戦闘中はフィールドから転移することはできない。
だが一定以上距離を離せば、離脱判定により戦闘状況を解除することもできる。
『み、みんな逃げよ!』
全員に向けて叫んだが、すぐにわたしは通信する。
「だめ。このまま離れても格好の獲物となってしまう。」
『あ――くそったれ』
向こうは全機とも高速型機体のドラゴンフライ。
だがこちらには、足の遅い重量級のプレデターが二機いる。仲間を置いて行っても半分に部隊を分けて襲撃してくるだろう。
置いていかれた二人が先に集中攻撃を受けて撃破され、残った味方もやられるのが目に見えている。
つまり、全滅だ。
目の前が真っ暗になり、どうすることもできないという感情がパニックになる
どうする。
どうすればいい。
各機が次々と被弾していく。
相手は二機だが、なかなかの腕だ。
相手の攻撃が定まってきたところで、互いに狙っている機体の編成を。クリスたちはようやく目が追いついてきたところで、いきなり別の方向からの攻撃を受けることになる。
かき乱すような機動を取りつつヒット&アウェーの一撃離脱。
初心者だから動きが鈍い分、好きなようにしてやられている。
味方の機体がごっそり削られる。
『た、たすけて……!』
警告。警告。警告――
情報を処理し切れない。頭がパンクしそうになった、そのときだった。
視界の端に、見慣れない表示が点滅していた。
レーダーを見る。探知圏内ぎりぎりに、それまでいなかった機影が映っている。
一瞬、敵の増援かと思ったが、動きがない。どうやらそれが、声の主のようだった。
『助ける。それまで一分だけ耐えろ』
その声は、どこかで聞き覚えがあるような気がする。
急に通信が接続される、パニックは収まらない。
いきなり助ける、信用しろと言われても。どうすればいいの?
一か八かで私が攻撃し、注意を引き付けて逃走させようかと悩んでいた。
その時だった。
ものすごい勢いで近づいてきた機体の情報が更新される。
現れた表示に、怪訝な顔をする
「ハンター?」
あまりにもピーキーな機体だった。
「ハンター」
植民地惑星で戦う傭兵パイロットに向けて製造された機体
植民地惑星侵攻部隊から最も要請が強かった熱帯・砂漠戦仕様に特化する形で本機は開発された。開発は第二世代の1機「タウルス」をベースにこの実戦データを反映させて進められた。
機体の軽量化と出力の強化と一部装甲の強化を向上させ、関節部には防塵用の処理が施されている。
コックピットの一部を第二世代のロイド社の系列と統一化することにより、従来の高コストゆえの生産性の低さをクリアしている。
加えて、リミッターによる機体の限界性能の引き上げと新型OSによるコントロールサポートによって特有のピーキーな操作感も幾分緩和されており、扱いしやすくはなっているらしい。
しかし、熟練パイロットの一部ではOSによるコントロールを外して特有のピーキーな操縦を好んだという逸話がある。
レイサーが扱う機体として一番使い慣れた機体なのだ。
そしてその機体の名前通り狩人の本領が発揮される。
凄腕のソルジャー乗りが相手を蹴散らしてくれるのかとひそかに期待していた私は、言葉を失った。
それで、いったいなにを…
その瞬間私は言葉を失った。
瞬時に近づき機体の腕を掴み足払いをかけ、柔道の要領で放り投げる。そして、新調したばかりの七十四式格闘鉈を取り出し容赦なく振り下ろしコクピットごと砕きパイロットごと破壊する。
「まず一体目」
双剣を使い強化したブーストに物を言わせた攻撃を繰り出す
「退屈だ、慣れた攻撃過ぎて。種も仕掛けも何もない。
棒読みのセリフのようだ。」
「クラーク、戦闘モードを乱戦モードに移行。リミッターを解除していい。」
AIに指示すると
『了解、乱戦モードに移行、リミッター解除を確認。』
敵は双剣を扱いこなせておらず、体幹が乱れ、スピードに振り回されている。
そのせいで軌道が単調化し、見切るのは余りにも容易い。
二本の鉈をホルスターから抜き、両側から迫る刃の軌道を目視しバツを書くように切り裂く。
そして、手首を器用に回転させ、逆手に握った鉈でさらに袈裟斬りに。
もう一体は鉄くずとなった機体ごと吹き飛んだところに俺が敵から奪った散弾銃を片腕で撃ち行動不能にさせる。
後ろを向くと新たな機体がこちらに短銃身のアサルトライフルを向けているのが見える。
神経が肉体を刺激し、昔の仲間に比べればつまらない狩人にとっての獲物だ。
敵の一体を即座に盾にし弾除けにするとそのまま左の鉈を大きく振りかぶって投擲すると上手くコクピットに突き刺さり人間の様に膝から崩れ落ちる。
『機体の右腕部に損傷を確認。今後の行動に支障をもたらします、ご注意ください。』
右腕の操作速度が遅れるのを目視し、軽く舌打ちし後ろに振り向く。
最後の機体が後ろから近づくのを目視すると左の鉈を横向きに振り投げ、ソルジャーごと切断する
突き刺さった鉈を抜き万が一のためSBLー87を装備させ、トリガーに指を重ねる。
「終わりだ」
近づき銃口を押し当てる
「……貴様がな!」
嫌な予感がし、鉈を振り下ろすが、それを待っていたと言わんばかりに右腕が展開し、俺が愛用していたの同モデルの仕込み散弾銃が飛び出す。
コクピットを潰そうとするものであったが、命中直前に鉈を瞬時に振るい俺は右腕を切断する。
悪いが誰よりも先に新武器が出るたびに購入、訓練しソルジャーに仕込むタイプの特殊暗器を使い続けた元最前線プレイヤーの一人だぞ?
「舐めるなよ、ド素人が。」
SBL-87を押し当て、マガジン分乱射する。
蜂の巣になった機体やボディがズタズタになった機体があたりに散らかった赤茶色の大地
レーダーを使い、辺りの敵がいないことを確認すると安堵の息をついた
「すごい……」
各機の性能、武器の知識、格闘技術、すべてを利用した戦い方。
よほどの対人戦闘経験がなければ、途中から入ってきてこんな見事なさばきはできない。
私は機体を移動させ、確認する。
二本のホルスターに装着された鉈を背負った狩りに特化した猟機がそこに立つ。アーミーナイフを咥える狼が描かれているエンブレムが肩に付けられたカスタム機。
そのハンターは、灰色をベースとした迷彩でカラーリングされている。
コクピットが開き、中から軽装備の男が降り立つ。
「――やめとけ、こんな遮蔽物のない場所を初心者が通るな。」
アッシュグレーの短髪。
大きな砂色のデジタル迷彩コートに合わせたように焦げ茶色のスカーフで口元を隠し左手と右足が義肢になったプレイヤー。
アーミーナイフを咥える狼が描かれているエンブレムが中に着込んだベストに貼り付けられている。
トップクラスのプレイヤーである証の金色のソルジャーのバッジが腰に輝く。
「さっさとここを離れとけ、また初心者狩りがやってくる。 二度目はない。」
そういうと彼はさっさとソルジャーに乗り込み去ってしまった
「レイサー、珍しいじゃないか。初心者を助けるなんてさ。」
ハウンドがハンターから降りるレイサーにそう声をかける
「そうだな、ハウンド珍しい物見せたんだから見物料払え。」
ハウンドは苦笑いする。
「あの子の事を思い出した。だから見てられなかった」
そういうとハウンドはふうとため息をつく
ログアウトし、ハウンドと軽く話し、家に戻り自室に戻ると自室に戻り明日の学校の用意を手短に済ませ簡素なベットに寝転がる。
文庫本を手に取りゆっくりと読んでいく。
紙が廃れつつあり、電子書籍がメインとなるこの世の中でも拓は古ぼけた紙の本を手放さない。
それが彼女の趣味だったということが彼の心の中にあるからなのだろうか。
そうしたことを考えると眠気が襲ってくる。
そうしていつものように眠りについた。