準備
ユニコーンのマリーダで泣きました。
2052年4月2日
午前16時10分
「ハーモニー・ソルジャー・オンライン」内
第七惑星「レゥ・ケナーン」
第二十一FOB「スパイダーズ・ネスト」
人が人と殺し合う紛争が行われている惑星であり、行き過ぎた進歩によって閉塞感が漂っているのが特徴だ。
この時代の最大の特徴は週に1回,
拠点にいるプレイヤーの数に応じてNPCの襲撃がある事だ。
オレが仮の拠点としている第九惑星「ラナトォーン」もそうであるが、技術が進歩した末期的な、まさしく人類の終末が訪れる直前のようなステージが特徴的だ。
さてFOBとは何か? まずこれは前線作戦基地(FORWORD OPERATING BASE)の略だ。いろんなものが集まった場所で、どのFOBにいるかによって、そこの生活はかなり違ってくる。
大きなバンカーもあり、兵隊も多い。
FOBには何でもあり、必要になりそうなものはまず間違いなく揃う。
月に一度は、「バザール」と呼ばれるものが開かれる。
この日にはプレイヤーがアイテムやらソルジャーの自作パーツを売りに来るのだ。
まさしくどんなものでもすべて並んでいる。
「今日はバザールか。プレイヤーもそれなりの数がいるな」
普段の灰色の戦闘用コートではなく、大き目のフードが付いたデジタル迷彩柄のコートを持ってきた。
名前は「アードウルフ」であり、手に入れた物に様々な改良を施したものだ。
防刃性能が高く、火炎耐性も付いている。
口元を隠すためのスカーフも新調した。
口元まで焦げ茶色の迷彩柄の布を引き上げる。
「それで、首尾はどうだ?」
単眼遠望鏡を外し、乾いた空気が包む砂漠の……いや、周囲の砂漠化が進んだ街の観察を終えた俺は窓から離れ、ハウンドが拠点にしている倒壊寸前のような全体を監視できるモニタールームや多量の資材を置いた保管庫にしている場所で武器の調整を進めるハウンドに話しかける。
「現時点でのベストは尽くしたとしか言いようがない。」
ハウンドが不満を口にする表情は厳しい。
いつもならハウンドが選び抜いたパーツで武器を製作し組み立てるのだがタイミングが悪くレイサー用の武器は全て調整中だったため
しかたなくレイサーは財力に物を言わせて他の惑星でNPCが販売していた最高ランクの銃器を購入し、ハウンドが改良に必要な素材を集めた。
「頼まれていた「バレットREC7」、要望通りに銃身を変えて射程距離と威力を上げた。
射撃反動はその分キツくなったけど、大丈夫なのか?」
「ああ。
装備の要求は満たしていれば、後は制御できる。
その為の調整は済ませてもらったからな」
REC7を受け取ったレイサーはグリップを握り弾の装填具合を確認する。
レイサーにとって一番大切なのはどれだけの威力を当てられるのかが問題点になる。
所詮、アサルトライフルは中距離武器なのだ。
スナイパーライフル程の一発必中より相手に最低一発、最高三発で仕留められるかどうか、それがメインとなる。
足りない威力を補うためのアサルトライフル用の「鋼芯弾」も買い込んだ。
弾薬ベルトは最高レベルのためかなりの数が持ち込める。
その分だけアイテムストレージが圧迫されたが、余程の連戦でもない限り1度で使い潰すなんて……なんて……いや、あんな連戦があるとは思っていなかったので、準備はしておく。
「こっちはサブマシンガンの「UZIプロ」。
こちらは連射性能に特化させてサプレッサーを装着させた。
拳銃弾しか使えないから威力が低いけどね。」
これならば、中距離ならば集弾性が高い射撃が可能になるだろう。
拳銃でわずか二センチの隙間に弾倉分叩き込むなんてあいつのような超人的な射撃はどうやって会得するんやら。
本当に馬鹿なのかと言いたくなるくらいの命中精度の高さの腕前を持つ男を頭に思い浮かべる。。
武器は揃った。
ソルジャー用の武器
ハウンドにボソリと聞く
「俺のレンジャー、修理まだかい?」
「バカヤロウ、スナイパー用の機体で格闘戦やるな」
ボタンを押して横のシャッターを開くとボロボロになった機体がハンガーに固定されている。
レンジャー、愛称は「パウーク(ロシア語で蜘蛛という意味)」
スナイパー用にカメラアイがカスタマイズされ、全体も調整された機体
現在は、左腕が失われ右腕も半壊。
カメラアイが取り付けられていたコックピットブロックの前面部分は中の座席が見えてしまう状態まで崩れ左足はフレームが剥き出し
無事なのはせいぜい右足のみという状態になっていた。
「しばらくは無理だ。装甲全部取り替えてフレームを新品のに変えて、それからカメラアイを作りなおさないけない。」
ぶつぶつと呟きながら悩むハウンドを見ながら呆れるレイサーは背中に「UZIプロ」を収納する。
さすがにアイテムストレージに全て収納したままだとストレージで軽減出来る重さを越えてその分の重さを抱えたまま戦うのは辛いため、全ての弾と消費アイテムを入れられる程にストレージに余裕はない。
ソルジャーの装備をインベントリで確認する
ソルジャー用の装備にはこの間壊した格闘装備の代わりに新しく新調した装備「七十四式格闘鉈」だ。
握り手には銃のグリップのように曲がり、ボロ切れで巻かれた刃の部分は鈍い光を放ち、斬撃属性を持たず先端は錆色に染められている
ソルジャーのコックピットに打撃を叩き込み、叩き潰す。
攻撃してきたマニュピレーターを付け根から叩き折る等々……打撃をメインとした武器となっているが。
しかし、コイツにはもう1つの顔がある。
まぁ、今話すことではないだろうが………
……と、それにこの間も使用したSDW-04Sとレア度が低く簡単に手に入れられるQBBー95 LSWモデル、SBLー87LSW(LIGHT SUPPORT WEAPON)を装備する。
「アレは準備中だよ。」
アバターでは義眼となっている左目を押さえているとハウンドはそれを見ながら設計図を取り出す
「必要な資材と金は出す。その感じだともうしばらくかかりそうだしな。」
呆れたようにニヤけるハウンドをレイサーは見る
「仕方ないだろ。それより他の装備の調子はどうだい?」
新しく仕入れたのは、ホルスターに装着している投げナイフ「メッサードライ」だ。
これは投擲スキルが無ければ本来使用できない投げナイフであり、僅か10秒間だけ刃をビームでコーティングする事が出来、投擲武器として優秀なナイフだ。
財布には全く優しくないお値段ではあるが……
広範囲に爆風……というよりも散弾をばら撒く「グレープフルーツ」や燃焼による継続ダメージが入る「プラム」。
そして一つグレープフルーツ三つ分の金額をする「アプリコット」を用意している。
回復アイテムはその分削っており、HPを全回復出来るシリンジを五本、防弾ベストに貼り付けてある。
「ああ、悪くない。
一応試しに使ってあるから何となくだが癖もつかんである。
特にグレープフルーツは散弾攻撃で対ソルジャー戦に効果が高い」
「……まさか投擲スキルも取りたい、なんて思ってないだろうな?」
「必要となったら考えるさ」
「お前がもし弾丸だとすれば−−−俺は銃だ。」
ハウンドは静かに、ぼそりと答える。
「いきなりどうした?」
ハウンドが突然呟いたことに対してレイサーは軽く驚く
「昔好きな漫画のセリフだ。
お前が復讐を続ける限り俺が出来る限りの支援をする。
絶対にお前の復讐が終わるまで俺は手伝い続ける。」
細かく表現されたまるで現実と変わらないような、仮想世界との線引きが出来ない程のリアリティ。
ハウンドは自分で呟いたことにレイサーは呆れたような表情を浮かべているのを見ながら苦笑いしていた。
レイサーの女王という敵への復讐が途中で終わり本人の牙が折れて敵意しかなくなりどうしようもなくて俺があきらめても、彼は止まらない。
そして、俺もまた彼が諦めないと分かっているからこそ、手助けをする。
どんな敵が立ちはだかろうと、お前は心が折れない。
その事は、あの日からわかっている
だから、お前は復讐の事だけを考えてろ。
レイサーが装備を整え終わるとハウンドは別な惑星に向かおうとするために空中にキーボードを浮かばせる。
その時、レイサーが何かに気づいた。
ここからエンジンかかっていきます。