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日常

日本

北海道 函館



2052年4月2日

午前07時21分


函館文化国際学園(HCIS)。

Hakodate Culture International School略してHCISエイチシーアイエス)

2030年代、日本政府が進めた新開発プロジェクトを利用して大規模開発の計画に盛り込まれていたメガフロートに築かれたのがこの学園だ。


函館に昔から通っている2030年の大規模整備で拡張された線路の上を通る市電の中にレイサーこと罪丘拓はいた


朝の市電から見える校舎を見ながら、右手で取り出した紙パックのカフェオレをすする。

今日はほやほやの二年生にするための始業式が行われる日だ。

クラス分けはもう発表されているし、特に何もない。

校長の話を聞くだけの始業式が一時間目から始まる。

駅に到着すると、右手で紙パックをゴミ箱に投げ入れ、その足で校舎に向かった。






 一時間目の始業式が終わった後の二年A組の教室。


窓際の座席に座り、ぼんやりと窓の外を眺めている男子が一人。

首から提げているイヤホンを耳に付けるわけでもなくただひたすらに窓の外を見ている。

 教室内では昨日のドラマがどうだとか、今日の課題はどこだとか、そんな他愛のない、ごく当たり前の日常風景が流れていた。

学校の制服を着て、青い眼鏡をしているどこにでもいそうな男子

しかし彼、拓だけは周りと話すわけでもなく窓から見える海をじっとみていた。


「おい席に着け―、ホームルーム始めるぞー」


 教室の扉を開け、担任の男性教師が教壇に登る。クラスメイト達は渋々、自らの席へと戻っていった。

 少し汚い黒板の前では、担任が宿題の皆無がどうこう、今日の日程、いつも通りの話をいつものように話している。

 いつもと何ら変わらない日常。同じことを繰り返す日々の繰り返しが、この先もずっと続いていく

――拓は、そう信じて疑っていなかった。


「あー、新学期てな訳だし。三文小説みたいな始まり方だが今日は転入生を紹介する」


 教室内が一気にどよめく。

拓も驚いたような表情を浮かべるてはいるが、内心ではどんな奴が新しくクラスに加わるのかを期待していた。

「ハイハイ静かに。それじゃあ、入って」

 ――担任の呼びかけで戸を開け、教室内に入ってきた転入生。

背はそこそこ低めで落ち着いた感じの女子生徒。

顔は比較的整っているが、かわいいというよりも中性的といった感じだった。

 その転入生の、どこか落ち着かないような表情。

「相澤茜です。よろしくお願いします。」

そういうとペコリと頭を下げた。



 適当に自己紹介を済ませた彼女は、担任に座席をどこにすればいいかと訊く。

「あー……そうだな。丁度罪丘の後ろの席が空いてるからそこ座れ。そこだ、そこ。窓際の、後から四番目だ」


取り立てて言うほどのことも無いような、HR(ホームルーム)という名の連絡の時間がものの数分で終わりを告げ、担任が教室を出ていくなり拓の席の周りは一瞬にして人でごった返した。


 勿論、その中心に居るのは茜だ。


転入初日の物珍しさから来るこの包囲網は通過儀礼みたいなものだ。

絶え間ない質問攻めになり混乱する横顔を隙間から眺めつつ、拓は次の授業の準備を始めた。


 やがて始業の鐘が鳴り響き、あれだけ密集していた連中も次々と己の席に戻っていく。

結局、騒ぎは一過性のようなものだ。


少しもすれば転入生というイレギュラーの存在にも慣れ、また元の日常が戻ってくる。


 それは、彼にとっても同じことだった。

少しもすれば、またいつもの日常が戻ってくる。

目の前の空席を埋めた転入生もまた日常の渦の中に埋もれ、そして新しい日常がやって来るだろう。






左腕に装着したウェアラブルコンピューター「トンプ」にメッセージが表示される


――放課後、いつもの場所に。


 予定されていた時間割が終わり、席に座ったまま鞄に荷物をしまおうとしていた拓は、スライドさせ文字を打つ。


――了。"金目銀目"に今から向かう。


市電に乗り込み、首から提げているイヤホンを耳に付け音楽を聴きながら目的地に向かう。


新五稜郭公園前駅に到着すると、複合型施設の細い横道を進み小さな看板に金目銀目と書かれた焦げ茶色のドアのカフェに入る。

カウンターにいた黒渕の眼鏡をした男性に

「あいつは?」と問う。


男性は無言で上を示す


古びた階段を上がると三つの部屋に別れており一番右のドアをノックし開ける。

中に大型の3Dプリンターが二台、小型も合わせて五台。更に壁には旧式と最新型のパソコン画面がテーブルに置かれ、その向かい側の壁はホワイトボードとなっており何枚もの設計図やら地図やらが貼られている。

その真ん中にディスプレイに囲まれたU字型のテーブルにブロンドの髪をした青年が回転椅子にてキャンディーを舐めながらキーボードを叩いていた。

「ハウンド。土産のハクドナルドのナゲット。」

ハウンドと呼んだ青年に向かってナゲットが入っている箱を投げ渡す。


「サンキュ。左腕の調子はどうだい?」

呼ばれた青年は手を伸ばして器用にキャッチすると一口、ポイッと口に投げ入れる。

この青年の名前はボリス・フカミヴナ・ヴァシーリエヴナ、日本名は深水ボリス。

通称ハウンド。


「ハーモニー・ソルジャー」内ではどこからかどんな装備でも手に入れる知る人ぞ知る武器商人


現実世界ではロシア サンクトペテルブルク出身の日系ロシア人で拓の同級生だ。


制服のブレザーを脱ぎ、いつもの定位置と化している椅子に置く。

「左腕、外してくれ。」

ハウンドは拓専用の義手を製作したエンジニアという顔も持つ。

拓は右手でスイッチを押すと、カパリと外れる。

ハウンドは左手型の義手をナゲットと一緒に奥の工作台に持っていく。

彼は左腕にバンドで固定したスマートフォンをタップし、棚を回転させる。

台に乗っかっていたクロスボウやらクワッドコプター型のドローンを避け、載せると棚から取り出したドライバーやらでネジを締めて調整を行う。


拓は置いてあったカフェオレを勝手に飲んでいるとあっという間に調整は終了する。

「レイサー、終わったぜ。」

ハウンドは拓の身体に左手をカチリと嵌め神経リンクが繋がった事を確認する。

拓は握ったり、開いたりと神経リンク特有の動きに微妙なノイズが入ったりしないか精密な動きが出来るかと簡単なテストを数回繰り返す。

こうなると長いことを知っているハウンドはドローンの調整に取り掛かるためにボディのパーツを万力にセットする。

ほんのわずかなノイズや微妙な誤差が出る度に、彼は左腕に繋がれたモニターをタップしたり、神経リンク用のコネクターを繋いだりして、調整する。


調整し終わり、腕をさすっているレイサーに

「どうする。ここでやるのか?」

モニターを見ながらハウンドはブレインコネクターを取り出す

無言で鞄から自前の紺色のブレインコネクターを取り出すと

拓は簡易ベッドに横になりブレインコネクターを装着する。

無論、セットされているのは

「ハーモニー・ソルジャー」だ。



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