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前歯のない料理長も激おこ


 その昼過ぎである。

 満月も連れて『とりどらごん』へ向かう。

 本日は休日の為、結構早めにオープン作業をしている。

 ウィーン


「おおエータ、今日早えーな。怖気づいたか?」

「料理長おはようございます!少し皆に話があるんです!」

「ほーう?任しとけ」と料理長はキメ顔でそういった。


 満月を個室に案内させ少しの間一人にさせた。厨房に今いるスタッフを集める。

 まだオープン前。今居るのは僕、料理長、優羽、そして社員のラムさんがいる。

 ラムさんはムキムキでボウズの男性であるが、まさかのオカマである。

 ラムさんは無類の酒好きで愛着を込めた意味で皆ラムさんと呼んでいる。

 たまにだっちゃ!とか言う。当店での人気も高い。


「満月のことで話があります」

「聞いたよ!あの子のことだよね~」とラムさんが言う。

「そうです」

「それで?」

「警察はやめておきましょう」

 全員が静かに聞いている。


「ミツキは両親がいないようです。生き別れなのか顔さえも知らないと。それから少し前まで施設に居て、今はどこかの養親に引き取られたって、養子縁組を組んでそこで暮らしていたと」

「複雑やな!どういうことや!」と料理長がうるさくそう言う。

「僕自信詳しくわかっていないんです、けどとりあえずは家出のようなものです」

「でもさ、なんで警察がいけないの?」とラムさんが言う。

「捜索願いが出ている可能性があります。その可能性もなんとも言えないんですけど、できるだけ穏便に話を進めたいと思うんです」

「本来ならば警察に頼むのが正当なのだが?」と料理長は疑問視する。

「でもそのほうが面倒な荒立ても起こさずに済みそうね。あいつらなんもしてくれないし!」

 ラムさんは鍛え抜かれた腕に精一杯力を込めてそういう。


「なるほど~」

 優羽は口元に手を当ててフムフムしている。

「普通じゃない……だから家を出たんだと思います。そこから解放されるために」

「なにがあったんだ?」と料理長。

「養子縁組ってそんなに恐ろしいの?」優羽がラムさんに聞く。

「いや、本来が子どもが幸せになるための制度よ?恐ろしいことなんてないはず」

「詳しくはわからないんです。そこから逃げてきた。それだけは言えるんです」

「聞けよ」と料理長。

「迷子じゃなかったんだ」と優羽がいう。

「その養親から逃げてきたのね。児童虐待、育児放棄、あるいは」とラムさんがいう。

「ニュースになるやつじゃん!」と優羽ビビりながら口走る。

「ふむ」と料理長。

「お前はわかってんだな?」

 すぐに返事を還すことが出来ず、少しだけ間を置いて。

「は、はい」と答える。


 当たり前だが時間は過ぎていく。

 お店の自動ドアを手動で開けて誰かが入ってくる。

 全員がそれに目をやり、「配達っす~」と若いキャップを被ったお兄さんがやってきた。

 料理長が「あい~」と返事してラムさんがその配達のビールの樽を受け取りに行く。

 続いて僕も手伝いに行く。

 その後、優羽が「わ、わたしは仕事残ってますので二階の掃除してきます」

 と調理長に伝え二階行く。


 再び、優羽を抜いた料理長、ラムさん、僕とて話の続きをする。

「それで、エータはどうしたいの?」

「そうだ。お前はどうしたいんだ」

「え?」

 僕はどうしたい?僕は満月をどうしたいのだろうか。

 全然考えていなかった。どうしたいのか、どうしたらいいのか。

 正直他人任せだった。


「早くしろよ、黙ってたらわからねぇ。時間ねぇんだよ。店開くぞ」

「エータ。あんたもわかってるだろうけど遊びじゃないんだよ。バカ店長もそうだけど無理ならやらないで。だからちゃんと考えて」

「俺たちはよ。大前提にここの社員だ。保育士さんとか学校の先生じゃねぇ。わかるな?」

「はい」

「お金もらってんだよ。お客さんにうまいメシ出してうまい酒歓んでもらって」

「はい」

「一番悪いのはバカ店長だけど、あいつは何をすべきかわかってんだ」

「……」

「お前はどうするんだ。満月ちゃんに何が出来るんだ」

「どう……」

「もういい、後だ。準備しろ」

 僕は初めて料理長に怒られた。

 生まれて初めてこの人に怒られた。何も言えぬまま。


 気が付けばオープン二十分前。

 早くしないとお客さんが来てしまう。

 洗い物、フロアの掃除、セッティングなどやることはまだ沢山ある。

 最後のテーブルセッティングをしている時、ラムさんが優しく話しかけてきた。

「あなたが悪いわけじゃないからね」

「はい、わかってます。ただ勢いだけで先走っちゃって」

「若いうちはそれでいいのよ。結果どうしたいか。それをそのビジョンを考えておかなくちゃ」

「そうですね」

「あなただけの問題じゃないわ。クソ店長はじめ皆の問題」

「あの、やっぱり僕はあの子に普通の生活にさせてあげたい、学校に行かしてやりたい。それだけなんです」

「そう、学校に行けていないのね。大問題だわ」

 皆の人気者ラムさんと話し、気も少しだけ落ち着けた。

 初めて料理長にあんな態度をされ胸が複雑だった。


「あ!」

「どうしたの」

「もう一つありました。カンフーやりたいって言ってました。それも何故か強くなりたいっていう気持ちがすごかったです」

「おお~!素晴らしいわ!女の子なのに夢があるじゃない!」

 ラムさんの男らしい瞳がキラキラと少女マンガのように輝いている。様に見える。

「ん~」

 もう一つ不敵な笑みを漏らし何かを企んでいる。様にも見える。

「私にいい考えがあるわ!」

 ラムさんはスマホを取り出し二階へ消えていった。

 それと同時にお店はオープン時間になる。

 開店と同時に自動ドアをこじ開けまだ太陽の高いうちにもう仕上がっている、

 汚いおっさんが「うぇ~い!」とやってくる。

 僕は気づかれないようにため息をした。


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