表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/49

普通じゃない


 朝日を迎える。

 緊張とか謎の不安とか僕は眠れなかった。

 不眠で眠気も冷めぬまま、いつものコーヒーを淹れようする。

 満月は起きていた。僕の布団の上で体操座りでなにかをじっと眺めていた。

「寝れなかった?」

「はい」

 しっとりとした声で呟く。

「朝ごはんするか。ちと待っててな」

「え?」

「朝ごはんだよ?パンがいい?」

「え?」

「え?ごはんがいい?」

「……」

 満月は目を伏せる。

「いらないの?お腹すいてない?」

「え!」

「え?どういうこと?どっち?」

 また、この違和感である。何かうまく通じない。

 普通の大人や親ならここで怒るのだろうか。ハッキリ言いなさい!って。

 僕はそれは出来ない。やりたくない。

「ん~」

 めんどくさいので僕は二人用作ることにした。食べなければ明日にでも自分で食えばいい。


 本日は豆腐の味噌汁とパックのままの納豆とごはん。

 なんの変哲もない日本の朝の朝食である。

「出来たぜー」

 満月を呼ぶ。返事がない。様子を伺うが昨日ほど元気がなかった。

「おーい、どうした冷めるよ」

 満月は何かを眺めている。

 それを伺うと『燃えよドラゴン』のDVDのパッケージを眺めている。

 優羽に貸してもらったのだろうか。

「さ、冷めるで?」

 満月はそれを眺めたまま思い詰めた表情で僕に小さくこう告げた。

「強くなりたいです。なんでもしますからケンポーを教えてください」

「はひょー?」

 人とは思えぬリアクションをしてしまった。カにも刺されていない。

「ど、どういうこと?拳法やりたいの?」

「はい!どらごんですよね!」

「ん?うちは居酒屋だよ?だけも拳法やったことないと思うよ?」

「え?」

「え?」

 何か勘違いしていたのだろうか?

「と、とりあえずごはん冷めるよ?」

「私、まだお散歩とかお洗濯とかなにもやっていないです……」

「ちょちょ、何言ってるの?」

「ご褒美は、まだです……」

 この子の言っていることがぐちゃぐちゃである。

 満月との出会ってからこれで三回目のゾワッである。

 これで、ある程度謎が解けた気がする。僕が何にゾワワと反応していたのか。

 

 普通じゃない。

 ごく普通に過ごしてきた僕からすると圧倒的に普通じゃない。

 どんな概念であっても朝飯がご褒美なんて到底考え着かない。

 普通の大人になるということに危機感や不安感を抱いている。

 学校にも行けずに、文字の読み書きもできないかもしれない。

 いずれにせよ、どれもこれも考えてみれば普通じゃなかった。


 僕の違和感やゾワワは僕の物差し上、全く図り切れないほど、到底考え着かない世界があった。

 故にその到底考え着かないものが何らかの『普通じゃない』を示唆するのがゾワワであった。

 まるで生きている世界が違うぞと。そう教えるために。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ