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何も出来なかった僕

 満月が突然一心不乱に無力の暴力を振りかざす。

 子どもの力でなんともなるはずがないのに。

 無力が故、内木さんには通用しない。

 やめるんだ。

 そう思うが、何一つ動けない。

「マジで」

 無力の抵抗も僅か数秒。すぐにそれは朽ち果てる。

「お前なんか」

 

 内木さんは一度足にしがみ付いた満月を振り剥がそうとする。

 満月はそれを必死に抵抗する。しかし無意味。

 体重を崩した満月に対してしがみ付かれた足が残酷に振りかぶる。


 やめろ!


 と言えない。恐怖に臆し、全身が支配出来ない。

 たった数秒。

 僕から見た満月は満月の後頭部しか視界に入らず表情が全く見えない。

 必死さだけが伝わる。

 

 むごたらしく振りかぶった足が満月に突き刺さる。

 その後、満月は部屋の中の下駄箱へ飛ばされる。

 奇妙な雑音がこの街に響き渡る。

 

 たった数秒。目まぐるしく駆け巡った異常な光景に僕は取り残された。

 その数秒間、何も出来なかった僕に訳が分からなくて意味不明な涙が自然と頬を伝えていく。

 悠長な時間もなかった。

 そんなことに気にも留めなかった内木さんは僕に靴の裏面を見せる。

 それが近づいてきて見えなくなった瞬間、僕の胸が押し潰された感じがする。

 

「ゴ」

 到底再現できない音が僕から鳴る。

 呼吸が出来なくなる。吹き飛ばされた僕はマンションの壁にぶち当たる。

 倒れこむ。痛くて痛くてなんかとてもつらい。

「……」

「お前らマジできしょい。なぁ知樹、なぁ!」

 そう叫んだと同時に寝転んでいる僕に対して大人の暴力を振りかざす。

 こののどかな田舎町で彼の異端の叫びはすぐに伝わっていく。

 彼の叫び声に反応したのか内木さんの一室の奥から何やら女性と思われるような、

 叫び声のような声が聞こえた。僕の耳では何を言ってるか聞き取れなかった。

 

 繰り返される暴力に僕は頭だけを必死に守り、目を瞑り歯を食いしばる。

 どうして人をゴミを押し込むように蹴り続けれるのか。

 僕は何も見えない。

 ヒューヒューと乾いた呼吸音が下駄箱の方向から聞こえている。


 のどかな田舎町に起きた物騒な事件はそろそろ終焉を迎える。

 物音が聞こえるようになり辺りが騒がしくなっていく。


「川村さん。これ何ああったの?」

「あーお隣さん。内木さんが揉めていたのよ。昭夫さんが今止めてくれてる。どうやら子どもが倒れてるらしいって騒ぎになってる」


「あぁ!落ち着いて奥さん!何があったの?」

「主人が……主人が……!」


「川村さん!奥で小さな女の子が倒れてる!」

「お嬢ちゃん!大丈夫?しっかりして」

「内木さん!あんさんの娘さんですよね?これはどういうことですか!」

「しらん……」


「内木さん。どういう状況かわからないけど、警察に電話するからね、救急車も」

「昭夫さん、男の子も倒れてるよ」

「悪いけど救急車呼んでくれへんか?」

「ふざけんな……お前ら」

「?」


「……俺は屈しないぞ!誰にも屈しない!お前ら全員ぶち殺してやる!お前ら、全員、恨んでやるからな……」

「内木さん。落ち着いて。アンタもう覚悟しておいたほうがいいよ」


「……」

 意識が次第に遠のいていく。



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