普遍的な日常
今日も駅前のMがシンボルのお店でお昼を買う。
持ち帰りの紙袋が思った以上に強い匂いを放っていて後悔した。
向かう場所も大したところでもない。最寄りの駅に降りて少しだけ歩く。
日差しは高くなり、季節的に一番温かい時間帯。
満月は歩きながら紙コップのオレンジジュースを飲んでいる。
気がつけば空になっていて、もう少し歩くので仕方ないから自販機で新しいジュースを買ってあげる。
初めて出会った当初はそういう子ではなかった。なんとなく謙虚さがあか抜けた様だ。
当たり障りを極力良くして、人の顔を伺い、徹底的に自分を押し込んでいた。
人に何かをしてもらうとか、手伝ってもらうとか、優しくされるとか。
そういう発想が存在しなく環境を拒み続けていたんだと思う。
想像し難いその状況は確かにあった。普通ではなかったから。
それを変えたのはやはりオノヨココさんであろう。
大人びている印象は変わらないのだが、本来あるべき子どもらしさを取り戻している気がする。
元気で感情の変化が激しくなったり、少しわがままになってみたりと。
中でも一番うれしかったのが他愛のない会話が出来たことだ。
初めて会ったところのぎこちなさは解消していてごく自然な会話が途切れることなく続く。
僕もここ最近こんな意味のない会話をダラダラ話すのも久しぶりである。子どもだけど。
びっくりしたことがあった。
テレビや映画とかゲームとか子どもが好きそうなモノをほとんど知らなかった。
驚愕したのが一つもディズニー作品を知らなかった。
「一番オススメなのが隠れた名作『ムーラン』満月も絶対好きになると思うよ!なんといってもディズニーの中で珍しく戦う主人公でな。あ、それも女性でな!それでそれで……」
「ふうん……」
だから今度DVDを一緒に観る約束もした。
それから、僕の好きなヒーローの話も。
「だから一号の変身ポーズはこう!」
「うーん。こうですか?」
「違う違う。もっと腰を入れて大きく!」
「うーん?」
「違う!大きく手も反対。左手は腰!」
「ん~わかりません」
「ははは~まだまだだな」
「ふうん……」
満月も来る途中の川のせせらぎを気にしたり、自生している春の花を見ていたり。
町の隅っこにある小さなたこ焼き屋さんに興味を示していたり。
話ながら歩いていると思っていた以上に時間がかかっていた。
「ここの階段を昇れば到着だよ」
見渡しのいい堤防である。気分はピクニックって言えるかわからないけど。
そんな気を少しでも楽しめたらなと思ってここへ来てみたつもりだ。
ご老人たちがテニスコートでテニスしている。
野球少年たちが監督から檄を飛ばされ青春の汗を流している。
近所の子どもだろうか。
九人くらいの子どもたちが真っ青の下で、鬼ごっこをしていて学業の休みを楽しんでいる。
「少しゆっくりしてご飯でも食べようよ。冷めてるけど」
「はい!」
「人生つらいことばかりかもしれないけど。お互い頑張ろうな」
「はい」
「なんでこんなことなってるんだろうな。なんで満月の養親に会わなきゃいけないんだろうな」
「さよならを言わなきゃいけないです」
「子どものくせに強いな。満月は」
「そんな事ありません。もっと強くなります!」
「ああ、そっか」
「沢山食べて強くなるんです!」
「女の子なのにすごいね」
「そんなの関係ないです!」
満月はそう言ってハンバーガーを咥えたまま、フリーズした。
しまった。また失言してしまったか。
どうしてこう何度も過ちを繰り返す。
「いやいや、すごいすごい!俺も頑張らなくちゃな~」
「……」
「そうだな。俺はどうしようかな。やっぱこのまま社員を目指すかなぁ。ていうか強くなるってどういうことなんだ?俺にはさっぱりわからんな……」
「頑張ります!」
満月はそう言い放ちフリーズが解除された。
「生きるためには強くなれって。教えてくれましたから!」
そう言ってムシャムシャハンバーガーを食べつくす。
「誰に?」
「大切な人です。俺たちは強くならなきゃいけないって」
「そうなんだね」
「強くなってファイトマネーで『陽だまり家』を新しくするんです!」
「すごい夢だね」
「はい、夢は必ず叶う。って教えてもらいました」
「そっかー、でもやっぱり学校には行った方がいいと思うぞ?」
「勉強とか出来ませんから。だいがくにも行けません」
「たぶんそんな事ないとおもうんだ。皆が満月を助けてくれたように学校だって行けるようになるさ」
「でも……」
「大丈夫大丈夫!たぶん何とかなるよ。たぶん」
「そうですか」
根拠はどこにもないけれど、どうしたって何とかしてくれるはずだ。




