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店長の信念


 店に帰ってくると店長と料理長が厨房の裏でニヤニヤ会話してるのが見えた。

 警察沙汰になると思っているのでこの人たちの緩さに本気で腹が立った。

 今は夜勤勤務のラムさんが一人で接客などをこなしてくれている。

 十時あがりの高校生の優羽が二階の個室で面倒を見てあげると言ってくれた。

 それと同じく現在休憩中である調理学校に通うチャラいキッチンシェフの拓馬さんも付き添ってくれる様だ。

 僕は厨房に呼ばれて三人でちょっとした会議を始める。

 まだ存在さえも謎めいている少女をどうするか。


「あの子は働きたいって言ってるんですよね。どうにかならないんですか?店長」

「親元に帰すのがベストなんだがな」

「一日面倒見て警察に連絡するか」前歯が一本ない料理長がそういう。

「うーん」と店長は口元に手を当てて考えている様子。

 すると料理長は「ヴェ~」と汚いうめき声をあげて背伸びする。

 その後帽子を脱ぎ、蒸れた頭をワシャワシャかいて厨房の裏口へと消えていった。

「俺はここ片づけてさっさとあがるわ。みーちゃんのことはえーちゃんと店長に任す。あ、拓馬に明日の仕込みヨロシクって言うといてね~」

 店長と僕はジェスチャーで料理長に「れーッス!」「お疲れ様です」と合図をする。


「さて、どうしようか」

 店長はズボンのポケットに手を入れてタバコを取り出す。

 右手ですまん!という合図をしてタバコに火をつける。

「でも僕的に警察はダメなような気がします」

「ほう」

「普通の家出ではないような気がします。両親もいないって……」

「相当困ってんだろうな。子どもなのにな、色々あって苦労してウチにたどり着いた」

 店長のこの一言で満月がよろしい状況ではないと察知した。色々と合致する点もある。

 普通ではないことは確かである。

「何か知っていますか?」

「さあ?逆にどうだったよ?」

 タバコを持ったまま欧米人みたいなジェスチャーでそういう。

「すごく、怯えている様でした。でも元気そうに振る舞うんですけどやっぱり違和感があって。学校にも行けていな様で、挙句一人で生きるとか言い張って」

 思い出すだけで鳥肌が立つ。

「そうか」


 店長は大きく息を吐く。

「あいつは何のためにウチに来たと思う?何しに来たと思う?」

「何のため、何をするため……」

 店長は改め、息を吐く。

「志望動機って人それぞれだ。生活のため、遊ぶため、将来のため。満月は生きるためと言った」

 店長のタバコの灰が灰皿の上でジジジとゆっくりと伸びていく。

「あの子がなーんの前触れもなくここに来たとき俺は店長として面接したんだ。生きるためと言った時点でおかしいと誰もが思うだろうな。生きるためには金が要る。だからウチに来たと?」

「そういえば賞金稼ぎになるって言ってました」

「なんじゃそりゃ?」

「僕にもよくわかりません」


「まあそれは置いておこう。情けは人の為ってな!俺の信念だ」

「情けは人の為ならずではなくて?」

「困っている人がいれば助ける。少なくとも俺の周りにいる人が困っているなら助けるって感じだよ」

「偽善者ぽいですね」

「でもお前は助けられてんだろ。俺に」

 店長はニヤリと笑う。

「満月は困ってる。俺に見つかった以上見捨てるわけにはいかねぇ。できることがあるんならやってやろうじゃないの」

「どうするんですか?」

「エータ、今日はお前が一日保護してやれ。お前なら何とかなるかも知らん」

「え~~!何を根拠に」

 予想外過ぎた。

「根拠などない」

「そんなっ無理ですよ!」

「バーカ。初めから無理とか言うな。やってから物言いやがれ」

「まじですか……」

「信じてんぜ。バイトリーダー」

 そう言って僕の右肩にガシッと叩かれ親指でものすごい力でつねる。痛い。

 店長はそういった後お客さんに呼ばれ「あいよ~!今すぐに!」と言ってフロアーに戻っていく。

 


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