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僕の中の黒いモノ

 本来。

 本来であれば、何不自由なくまともで健全な両親がいるならば。

 本来、自分のことを思い、考え愛してくれる人がいるならば。

 本来、なんの問題も起こらないはずだ。

 

 では。逆の立場に変えてみたらどうだろうか。

 何の不自由もなく健全な大人たちの場合の仮設である。

 

 満月が単なる家出であれば今頃養親たちは悲しんでいるのでは。

 警察に被害届や捜索願を出して無事帰ってくることを祈るはずだ。

 事件事故に遭遇していないだろうか。道に迷っていないだろうか。

 遭難していないだろうか。お腹を空かしていないだろうか。

 不安は焦りとなって血眼になって捜すのではないだろうか。

 

 本来であればそうなるはずだ。それが普通なのだ。普通の場合なのだ。

 この仮説が正しければ僕は悪である。

 僕たちは悪である。

 

 しかし僕がなぜそれらを信じようとせずここまで突っ走ってきたのか。

 普通ではないからだ。信じられるものが信じれなくなるほど普通ではなかったからだ。

 とある少女がそこまで駆り立てられて普通じゃない現実から逃げてきたのは明確な理由があるからであろう。

 確証こそないが、僕はそれを信じた。僕たちは少女を信じた。

 少女自身が真実であると。それを取り巻く環境は悪であると。

 僕はその悪を拝みに行くぞ。悪であるならば許さない。

 手足や体は小刻みに震えている。無論、武者震いである。

 否、ビビっている。



「僕、その養親に会ってきます」

「その、当てとかどこにいるかとかわかるんですか?」

 優羽も不安げ様子をしていてその彼氏も同じような沈黙をしている。

「……満月を連れて行こうと思う。今はそれしかできないかも」

 それはつまりどういうことであるか。

「……」

 二人は答えない。


 僕のやっていること、改めて考えてみれば犯罪である。

 たぶん。店長をはじめ料理長、ラムさん、オノヨココさん、優羽、悠司クン、拓馬さんを筆頭とする『とりどらごん』スタッフ。そして神原さんや『太陽と子どもの家』スタッフ。

 僕たちが真実であると信じている。

 今やっている誘拐や撹乱行為は間違っていないと言い切っている。

 仮に店長が悪でとんでもないことを考えているのでは。

 それは僕をはじめ多くの人たちを誘拐犯として策略しているのでは……。

 いや、そういうことはありえない。 

 みんないい人だ。誰かを貶めるような悪いことはしていない。

 

 考えないようにしておこう。



 優羽がそういう。

 連れて行けば話は簡単であろうが、容易いことではない。

 障害は多いだろう。満月は拒むかもしれない。


 また着信が入る。時刻はすでに十時半を過ぎている。

 スマホの電源は朝一から充電していたけど、かなり減っていた。

 着信と言えば大体はこの人である。



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