少女と僕と違和感 その2
店長に追い出されひとまず『とりどらごん』を出る。
満月も連れ出し気分転換もついでにファミレスに連れて行こうと思う。
性別も関係するだろうが満月はとても言う事を聞くいい子だ。
ダダもこねない文句も何一つ言わないとか、とてもおりこうさん。
しかし言葉は少なく「ごはん食べに行こうか?」に対し「はい」
「荷物はそれだけ?」に対し「はい」
「何か食べたいものはあるのかな?」に対し「……」何も答えない。
とにかく従順である。なにも意見を言わないのがむしろ怖い。
周りは繁華街なので人通りも多い。はぐれてはいけないので満月と手を繋ぐ。
満月は手を繋ぐということに慣れていなかった様。
子どもと思われたくないのだろうか?
それとも申し訳なさそうな。少しだけ不安そうな、落ち着きがなかった。
会話を試みない僕たちにはぎこちなさと違和感だらけであった。
その調子でファミレスに入り、ドリンクバー二つとハンバーグ、季節のパスタを注文。
いたたまれない雰囲気のままささっと食事を済ませドリンクバーで時間を費やす。
今帰っても邪魔になるだけなので懸命な判断だろう。
二人ともメロンジュースを飲んでいる。
「あのさ、満月ちゃんは家出かなにかの最中?」
「ち、違います。でも、違うくないです」
「どっちなんだよ」笑みを込めてそういう。
「私、一人で生きていくと決めたんです」
「どういう事?それでも限界があると思うよ?」
「ふぁいとまねーって知ってますか?私、賞金稼ぎになりますから」
「なんとまぁ勇敢だね」
「だから強くなりたいんです」
「へぇ!だからさっきカンフーみたいなのに憧れたりとか?」
「違いますぅ!中国ケンポ―です!カンフーですけど!」
「ふむ、そうなんだ」
ちゃんと話が出来てうれしい。こうやって子どもらしい一面もあるんだ。
と思い、少しほっこりした。メロンジュースが進む、進む。
「学校なんか行かなくたって生きていけるんです」
満月は少し目を伏せて軽く呟く。
「学校には行ったほうがいいと思うよ?」
「平気です!学校なんて行かなくてもなんともないですっ」
この少女が何を考えているかわからないが、ここは大人としてしっかり言うべきことがある。
「ミツキちゃんがいた所の人たちが心配しているよ?おじいちゃんとか?その~親戚の人とか?家に帰らなくてもいいの?これから一人で……」
「誰も心配していないですから!帰らないです!」
僕の言葉を遮り、満月は怒鳴った。
ファミレスのお客さんは一瞬ぴとっと止まりこちらを見る。
僅か僕の周辺の人たちだけ。
すぐになんだ子どもか。と悟り彼らは自分たちの世界に戻る。
「そんなこと!」
僕はテーブルより少しだけ身を乗り出し強く反論する。
それに満月はとてもビックリした様子をみせる。
両腕を縮こまらせて目がパッと見ひらく。
満月は僕のそれに怒ったのように捉えてしまったようだ。
「すみません!」「ごめんなさい!」とリズムよく何度か連呼する。
「ごめんなさい。いい子にしますから怒らないでください」
僕が何かを言うまで言い続けている。僕に対し怯えているように見える。
さっきと同じ、全く同じ感覚である。
またもや、ゾワッという感覚がまた僕を支配する。
僕もまた、「ご、ごめん!」と謝り怒っていないからと言い返す。
本当にこの少女が分からない。元気のように振る舞っていると思えば、
些細なことで怖気づいたり、自分の責任にしたりする。そして必ず謝る。
この子が必死で謝る姿を見ていると全身の毛が逆立つ。ゾワワが止まらない。
あえて言葉で説明するなら僕の申し訳なさがコップからあふれ出す感じ。
まだ会って数時間しか経過していないハズである。
吐き気も催すくらい気分が悪くなりそうだ。
返す言葉がみつからない。また同じミスをしてしまった。
他人と関わるといつもこうなる。結局誰かを傷つけてしまう。
うんざりも大概にしてほしい。変な距離感と違和感だけがただただ広がっていくばかり。
このままじっとしていてもいいことはないだろう。
カンがいい人がいるとするならば誘拐にさえ間違われかねない。
心の内では超気にしている。人目が気になりすぎる。
じっとしていられなくなってきた。焦る、焦る。
長居も悪いので少し早めに『とろどらごん』に戻ることにした。