上辺だけかもしれない謎のリスペクト
異様な空気に飲まれそうである。
この部屋全体は僕の理想郷とは程遠いごく一般的なお部屋でそして汚い。
僕が変な想像をしていただけであって少しガッカリした。
極め付けには謎の男がいる。皆、優羽の通う高校の制服姿だ。
襖の開く音に男が反応した。
「お?」
僕は思う。
この状況は限りなくアウェイだ。恐らく全員知り合いだ。
僕はまた死線に立たされているようだ。そしてこの状況を俗に言うと修羅場という。
「おおお」
男は夢中で読んでいたであろうマンガを置いて僕のところに近づく。
僕はビビッて動けない。ピンチだ。カツアゲだったらどうしよう。
やばいやばい。
「おおおお!」
男は爆睡している女子を跨ぎどんどん近づく。
スマホを見ている女子はピクリともこちらを見ない。
「おお!」
男は僕の目の前で立ち止まり被っていた帽子を脱ぎ捨てる。
「おおう!」
勝手に僕の両手を取り勝手に握手する。
「うおお!エータさんですね!優羽から話を聞いてるっス!」
「は、はい」
「優羽の彼氏の悠司っす!ダブルユーでやってるっス!」
「ほ、ほう」
「ユー君テンション上がりすぎ」
とスマホA。それを聞いて笑っているスマホB。
二人ともとても冷ややか。
僕の地獄はまだまだ終わらない。
僕は思う。
「帰りたい」
「そのポタージュは僕らのために!?先輩は気が利くっス!」
僕の苦手なタイプの人種である。
両親指で押さえていた一番上のポタージュを持っていかれる。
優羽に奢ってもらったことは黙っておこうと思う。
程なくして優羽が部屋に戻ってくる。
「イヤー、持てない持てない」
そう言って優羽は両手でパンパンに膨れたスーパーの袋に入ったお菓子たちを持ってくる。
「キター!」
声を合わせてスマホをただ眺めていた二人が優羽に飛びつく。
その声に反応したのか眠っていた女の子も目を覚ます。
一番驚いたのがベッドの下にももう一人、むくりとマンガを片手に出てきた。
おそらく顔は見えていたはずだったが全く気付かなかった。
こいつらフリーダムすぎる。
「ママのケーキも持ってくるね!」
「ヒャッハー!!」
女子たちは猛々しく叫び、目をギラつかせながら興奮している。
自分たちが女子であるというような品もカケラもない。
これがJKという生命体なのか……。
こうして優羽主催の謎のパーティが始まった。
帰りたい。
時刻はもう夕方。
日の時間が伸びてくる時期だがやがてすぐに暗くなる。
まだまだ寒い時期。
僕は謎のパーティに居座りながら優羽が言っていた作戦会議をひたすら待つ。
特にまだ何も聞かせていなく、只々お菓子やケーキを食べながらだべっているだけ。
僕は優羽のベットに座らされて優羽の彼氏の悠司クンとしゃべっているだけ。
時間を追うごとに女子たちはまだまだ増えていく。
悠司クンから聞いたのは彼女たちは優羽部長が率いる弓道部メンバーだそうだ。
悠司クンがいなければ男子は一人だけだったし、もしかしたら自決していたかもしれない。
そう意味では感謝だ。
そして悠司クンは満月のことを知っていた。
彼の質問攻めは止まないし、そして謎のリスペクトも止まらない。
「先輩カッケェす!」
「先輩救世主ですね!満月ちゃんの!」
「僕もバイトリーダーなるっス!」
などなど。優羽にどういう吹き込まれ方したらこうなるのだろうか。
しかし、わけのわからん変な話ばかりだが何故か嫌な気分にはならない。
僕の頭がおかしくなってきたのだろうか。
こういう人種は嫌いだったし、絡みたくもなかった。坊主だし。チャラそうだし。野球部だし。
でも悠司クンは鬱陶しいけれど嫌いにはなれなかった。
「栄太郎先輩!満月ちゃんを救いましょうね!絶対幸せにしましょうね!絶対っすよ!」
「そうですね、僕も何とか頑張ります」
「も~!栄太郎先輩!お願いですから敬語止めてください!あとついでに僕のことは気軽にユー君って呼んでくださいね!」
「あ、はい頑張りますね」
「も~!先輩は常にクールっスね!それもまたカッケェす!」
作戦会議はいつ始まるのだろうか。




