実在!バイクに乗ると人格変わる人!
「どど、どうしよう」
心拍数が上がり、すごく不安である。
とりあえずそわそわする気持ちを惑わすため店を出る。
そのついでに買ったシェイクが仇となった様。
寒さや緊張で優羽の到着三十分間の記憶がない。
近くにあったベンチに座り込んでいる僕。
到着の連絡はラインで届くようだ。
しかし一向に連絡がなかった。
うたた寝しかけていたその時、ドやかましい音が鳴り響く。それはとても近所迷惑なほど。
ブォーン、ブォーーン!鳴りやまぬ爆音。
最初は無視していたがあまりにも鳴りやまないため僕は見上げる。
それが、その音の正体がまさしく優羽であった。
蛍光ペンみたいな緑色の車体にまたがり、左手をぶら下げたままヘルメット越しでこちらをにらみつけている。そのままの姿勢で単車のエンジンを切り手を大きく振っている。
僕は驚愕した。
ヤンキーみたいなレザージャケットによくわからんカラフルのヘルメット。
いかつくてでかいバイクにまたがった人物が僕の知る優羽さんだとは思いたくなかった。
恐る恐る目がチカチカするバイクに近づく。
僕がゆっくり歩くもんですからライダーの左手がはよ!はよ!っていう感じの動きにかわる。
近づくとやっぱりイカツイ。
ライダーはヘルメットの窓をシャッと上げる。
「普通すぐ気づくっしょ!」
「す、すごいねこれ」
「怖かったんですかぁ?」
ヘルメット越しではちゃんと顔を確認できないけど目が笑っていた。
「ちゃうよ!変なのには絡みたくないだけ……」
「変なのじゃないっすよ!ウチのニンニンは。かわいいっしょ?」
グローブをはめたままバイクのお腹をさすっている。
「いかついね」
「いやぁまだまだっすよ。250だし。中古だし」
「ヘルメットは脱がないの?」
「髪の毛グチャグチャになるんで。あ、もう行きますよ!」
優羽は巻いていあるマフラーをきつく絞めたのちリュックサックから黒くてごついヘルメットを取り出す。
「パパのおさがりだけど。臭かったらごめんね」
謎に膨れ上がったリュックサックの中身は空っぽになり、ペッちゃんこになった。
「え……?僕も乗るの?」
「当然っしょ!迎えに来たんだから!」
僕は優羽の異変にようやく気付く。
僕の知る優羽ではない。バイトの時とまるで人が違う。
やけに堂々としている。むしろこっちが本来の優羽さんか。
それとも乗り物に乗ると人が変わってしまうタイプか。
「さっさと乗るっしゅ!」
ヘルメット越しだからたまに声がこもって聞き取れない。
仕方なく後ろに乗る。
が、乗れない。
「あ、ペダルあるんすよ。頑張って出してください。黒いの」
今の僕の気持ちはこうだ。「ぐぬぬ」
何とかして後ろに乗れた。
高い。意外と高くて怖い。
「優羽さん。怖いっす。持つところはー?」
「我慢。持つところもない。私に掴まってて」
「え~!」
「はよ!」
まじか。
仕方ないので優羽のお腹に手を回す。
心の中ではごめんなさいと呟く。
そのお腹はジャケットを着ているにも関わらず、想像以上に柔らかい。
人より蓄えがあるからなのか。それは謎である。
「行くぜ!ベイベー」
優羽はまるで抵抗がなくむしろノリノリである。
エンジンをかけて数回ふかす。
怖えぇ……。
ジェットコースターも乗れない僕からしたら憶測できない恐怖体験になるだろう。
「しっかり掴まってな!」
ライダーはそう言い切り、とうとう恐怖マシーンを発進させる。
彼女はこうだ。きっと乗り物に乗ると人格が変わってしまう人間なのだ。
「うおおおおおおおおおおおお」
心の声がついに漏れる。
スピードがエンジン音の大きさとともにどんどん速くなる。
僕は怖すぎてヘルメットも全身優羽の背中にベタつく。
後風が。風の音がとにかくすごい。
「うおおこえええ!!」
「ビビりすぎっしょ!HAHAHA」
とおそらく言ったのだろうか。風の音で何言ってるのか全然わからない。
女性らしからぬ高笑いだけが背中を通じて理解できた。
そして超絶寒い。
「寒いいいい」
ブルブル震えながら只々しがみつく。
まさに地獄。僕は数回死線を感じた。
「あ……今日死ぬかもしれない……」
必要以上に傾く車体は容赦なく恐怖を与えさせる。
走馬灯……までとはいかないが調子づいてきた優羽とのドライブは一時間以上続いた。
そしてついでに僕はどこに連れられるのかも知らされてなかった。




