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ビール一杯無料券付き

 

「早速だけどこれから満月ちゃんに会いに行ってもいいかしら!」

「いや、大丈夫ですけど……」

「今頃寂しくて泣いているかもしれない!今すぐ助けに行くわ!」

「いや、その、大丈夫ですよ。たぶん。嬉しそうに笑ってましたから……」

「……?そうなの?何が大丈夫なのかわからないけど。そいや、あの少年の時もそうだったんだよなー」

「ぬぅ……」

「ごめんね、あなたを試してるとか信用していないとかじゃないから」


 友樹か。まさかこんな所で友樹の名前を聞くなんて思ってもいなかった。

 孤児だなんて知る訳もないし、アイツのことも実際よく知らない。プライベートであったことは一度もない。それでもって凛々しくて頼れる少年とは。学校の時と全く印象が違う。

 同じ進学校。学歴もいい。天文学者を目指していると……。


「聞いてる?」


「あ、ハイすみません。満月は今ゲイバー?にいて。オノヨココさんっていう人のところに……」

 情報量が多すぎて僕の説明が伝わるか不安である。

「ふーん」

 神原さんは方眉を吊り上げてとても険しい表情をしている。

「まぁ今はあなた達を頼るしか無いのかな」

 とても納得している様子には見えない。


「それじゃあこのへんで……」

「あの朝日くん?」

「はい?」

「あなた、ナヨナヨしすぎよ。もっとシャキッと!」

 立ち上がった僕のお尻にムチが入る。

「ハヒ」

 変な声が漏れる。

「す、すみません」

「男の子だろ。もっと自分に自信をもって。悪いことしてないんだろ?」

「ハイ」

「朝日くんは学生だっけ?」

「卒業して……フリーターです。とりどらごんっていうところで、あっ」

  一つ思い出し、カバンの中を漁る。

  中から半分に折れ曲がったお店の名刺を渡す。


「そんなに遠くないね」

「ビール一杯無料券付きです」

「行く。今日にでも」

「店長もそうだし、みんな満月の事は知っています」

「なるほど、あなたの仲間たちもグルなのね。今日は早く上がるか……真波にぶん投げするか……」

 常々店長から言われて持ち歩いていたお店の名刺がここで役に立った。


「フフ、やってやろうじゃない。三倍返しだぜ!」

 ぶつぶつつぶやく神原さん。熱気を感じるくらい燃えている。

「改めて今日はありがとうね。また、会えるのかな?朝日くんも頑張って」

「はい、こちらこそです」

「よっしゃ」

 神原さんはそう言って扉を開けてくれる。


「なんやコイツぅ」

 部屋の先には丸坊主の児童がいる。

「うるさい。お客さんにコイツはないでしょう」

 もう一人、廊下にいた女性が坊主に頭に静かなグーパンをする。

 僕に対しても愛想笑いをする。

「お、真波ちゃん!ベストタイミング」

「長、なんスか?」


 僕はこの場を後にした。

 その直後。


「はぁ!?」

 真波さんという女性の怒号が聞こえた。

 それはそれはとても恐ろしい顔をしていた。

 僕は関わらないように速足で『太陽と子どもの家』を立ち去った。


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